64話 嘘と仲間割れ
味方の姿をした敵の魔の手によってキッドまでもが罠に陥られる危機であったが、どうにか正体を暴いて直接戦闘へと持ち込めた。
「スライムだか何だか知らねぇが、俺っちの弾丸にぶち抜けねぇ奴はいねぇ!」
そう意気込み、マサムネの姿を偽ったその相手に向けて引き金を引く。
ところが、起こるはずのことが起こらない。
「……あ? おい? こんな時に詰まったか?」
確かに引き金を引いたはずなのに弾丸が発射されない。
このVRMMOには弾詰まりの自然発生はしないはずなのだが、それでもキッドは撃てない毎に焦り出す。
その様子を間抜けと捉えた相手が含み笑いをしていた。
「クスクス、いくらやっても無駄だって」
「るせぇ! あぁもうちょっとだけ待ってくれ!」
敵を目の前にしながら銃撃が出来ない。この状況自体に苛立ちが募るキッド。
白いナプキンで銃をくまなく磨いてもやはりだ。だいぶ切羽詰まっているようだ。
「まあ見てらんないし、答え教えちゃうよ。あんたの銃口の中にスライムを突っ込んで固めてやったんだ」
「あんだと!? うわっ気持ち悪っ」
銃口の中を覗いたキッドは見てしまった。
毒々しい紫の粘液が気泡となって塞いでいた上に、ピクピクと痙攣してるように蠢いていたからだ。
「キシシ上手くいった! ギリギリセーフどころかモロモロアウトだったんだよーん!」
マサムネに成りすまして銃を奪うという最善の策は失敗した。
だが、銃を使えなくするという次善の策は成功していたのだ。
カムイが銃であれ弾丸であれ、銃口が塞がれてしまえば無力化同然。
「畜生、これじゃやりようがねぇ」
銃無しでは戦えないとし、キッドはすぐさま一次撤退を考えた。
だがここで、詰まりを解消出来るアーツの存在が思い当たる。
「ま、弾丸のカムイ無しの話ならな。【弾装の麗人】」
銃口に小指を突っ込んで発動し、詰まっていたスライムを弾丸化。
これによって詰まりを解消し、ついでに弾丸を補充。流石に弾丸には蠢く特性は引き継いではいない。
「どうだい? 言うなりゃゼンゼンセーフだったんだぜベイベー」
1つの困難を乗り越えた際には決め顔となるのがキッドの流儀。
といってもアーツのクールタイム中にまたスライムが詰められたら堪ったものでもないので位置取りも開始。
これですぐさま戦闘再開といきたかったキッドであったが。
「あってめぇ! もうあんな遠くにいやがる!」
相手が自分を追ってくるのかと思いきや、逆に弾丸の射程外まで逃げられていることに気づくには一足遅かった。
「戦略的な理由で見逃してあげる。このランクバトルのミステリー、よぉく楽しんで思い出に残しなよん」
「待ちやがれ! くそっ、見失っちまったか」
そう相手はマサムネの姿を解かないまま遺跡の迷路を蛇行して去ってゆく。
弾道を曲げて撃つ選択肢もあったが、やれない。
キッドは開始から樹の上にじっと隠れていたせいで、この辺りの通路の構造が不明なのだ。
そうして追跡を諦めて足を止めた直後。10秒にも満たないほどすぐのこと。
「お? おーいおーい! お助けぇ〜」
「はぁ!? またマサムネかよ!」
デジャヴを感じさせる程ほうほうの体となっているマサムネが、キッドのもとへとよろよろと駆け込んでいったのだ。
「よかったぁおじさんだぁ。マリっさんじゃないだけマシっすわ」
「うおおい近寄るんじゃねえ! 撃つぞ!」
「ん? そんな怖い顔しておじさんどったん?」
さっきの件があったが故に疑り深くなっているキッドなので、キョトンとしている暫定マサムネに向けている銃から手が離せない。
とはいえ、偽マサムネが去っていったのはほぼさっきの事。
こんな短時間の間に真逆の方向まで走って回り込んで同じ方法で騙そうとするなど、まず無茶がある計算だ。
「お前……武器はどうした?」
それでもキッドが抱いている疑問点、すなわち先程の偽物との共通点について質問する。
「武器? それがさぁ、なんかしらんけどクーちゃんが刀を預かるつってそのままどっか行っちゃってさぁ、返し忘れるなんておっちょこちょいっすよねぇ〜」
「どう考えても怪しいだろバカかこいつ! いや、つまりこいつ自体は本物……なのか?」
マサムネの安定した頭脳の低さによって、迷宮入りしかけた思考がまとまりかけた。
特に、暫定クロの偽物に武器を騙し取られたという点こそ、自分も銃を奪われかけたという手口が共通する。
まだ本物の確信は持てないが、撃つかどうかを保留にして取り調べを続ける価値はあるだろう。
「聞きてぇことがある。俺っちの名前、おじさんばっか言ってるが、思い出せるな?」
「ん? おじさんはおじさんじゃん何言ってんのこのひと」
「だからそういう意味じゃねえ!」
あまり呼ばれたくないことをわざとらしく連呼するマイペースさにはキッドも焦れ始める。
「いいから名前言え! ジョークとかじゃねぇ、生死に関わるくれぇ重要なことなんだ!」
「えぇー、はなまるドンビキー。女子高生に名前呼ばせようとさせまくるとか、新手の事案じゃん。キッショさん」
「こりゃ知ってそうだな。すげぇムカつくがよ……」
勝手に好感度を下げられたキッドだが、余裕のある大人の対応の見せどころとして矛を収める。
そう銃を下げようとした矢先。
「ちょっと待った! そいつこそ偽物のマサムネっすよ!」
マサムネの鶴の一声が上から注がれた。
隣のマサムネからではない。
2階建て建物ほどの遺跡の上に立っている人物からだ。
「おっ? そのパッチリおめめと胸キュンボイスは……うわぁドッペルゲンガー!?」
「ってまたマサムネかよ! 3人目とかいい加減にしてくれ!」
背格好や身長に至るまで瓜二つのマサムネの姿には、キッドもだいぶうんざりしていた。
「偽物は何人かいるっぽいけど本物はあっし1人だけだから! おじさん早くこの偽物から離れないとやべぇっすよ!」
上にいるマサムネは、まずキッドへの説得から始める。
「あぁん!? あっしが偽物だったらじゃあテメーは何物なんだよ! こらボケ! そういうことが言いてえんだよ!」
一方で隣のマサムネは、何が言いたいのか分からない理由で上マサムネへと怒鳴り返していた。
「だからあっしこそが本物のマサムネだから! とにかくおじさん! その銃で早く偽物をキルしちゃってくださいっすよ! 撃つだけで絶対化けの皮剥がれるから、さあハリーハリー!」
「おじさんきいてください! こいつが偽物のマサムネです! こいつを袋叩きにしてぶっとばしてください! あっしは悪魔で被害者です! 何も悪くありません! こいつの人生チンギスハンレベルに情け無いクズなのでつぶせ!」
「ど、どっちだ? どっちが本物のマサムネなんだ……?」
2人のマサムネが全く同じ声で対論し、キッドは声に反応するように交互に視線を切り替えしながら悩み出す。
仮に上のマサムネが偽物だとすれば、銃で遠距離攻撃が出来る自分に判断が委ねられる。責任重大だ。
だが、如何せん判断材料がまだ足りない。
なんなら、どっちも偽物の可能性まで浮上してきている。
敵クランメンバー2人によるキッドを混乱させるための自作自演だとすれば……だいぶ回りくどいので推測の1つ程度に留めておこう。
「偽物の分際が調子のんなバーカ! きえとけやボーケ! おじさんをだまくらかそうったってそうはいくか、ざーこざーこ!」
「せっかくウチが本物なのに偽物扱いうけるとか人生ボロ雑巾のオープンワールドじゃねえか! 偽物ははやくどっかいけ! いくらのしょうゆ漬けを馬鹿にするんじゃねぇこのすじこみそとんかつバーニングするめいかが! 他人を巻き込むな! ニセムネはきえろや! 二度と宇宙にでるな! 近所の牛丼屋と一緒につぶれろや!」
なにやら罵倒合戦へと移り変わったが、隣にいる方のマサムネの大惨事な語彙力が圧倒的に優勢だ。
聞けば聞くほど、なんとなくだが、隣にいる方のマサムネが本物だと、というより本物であってほしいとキッドは思考が纏まり始める。
あんな縦横無尽な罵倒芸、この世でマサムネだけしか使えないだろう。偽物が真似しろと言われても一日二日で完コピ出来るような才能ではない。
「そうだおじさん! 見てこれ! あっしの刀のカムイ!」
自分同士の罵り合いが続く最中、上のマサムネは自分が本物だと証明するものを腰から引き抜いた。
「刀? って武器はさっき奪われたってこっちのマサムネが言ってたんじゃねえのか?」
「それが偽物の嘘なんすよ! こいつの変身能力は、見た目はモノマネできてもカムイまでは化けらんない!」
「そういうことかよ! クソがっ!」
上のマサムネの意見に押されたキッドは、真横のマサムネに銃を向け、そして放つ。
「……おおぉじさん!? あだっ! えぇちょっとなんでぇ!?」
銃撃された隣のマサムネは、思いもよらないといったようにひどく困惑している様子。
それでももうキッドは思考を捨てて吹っ切れる他なかった。
「喋るな! もう俺っちはテメェを撃つしかねぇんだよ!」
「だからあっしがマジで本物だってさ! ほらぁ思い出して? 同じ塹壕の中で一緒に見た月を……あだだだだ! 逐電せねば〜」
銃の連射によって被弾してゆく暫定偽物は、これ以上キッドにHPを奪われる前に全力疾走で遺跡の迷路を曲がっていった。
完全にキッドを警戒し、もうここに戻ってくることは無いだろう。
「悪く思うなよ……証明しねぇ方が悪いんだぜベイベー」
かくして偽物と決めた相手を銃撃したはずのキッドだが、まるで未だに踏み切りがついてないような声だ。
今やキッドには、偽物だと断定した相手にさえ疑いきれないくらいには疑心暗鬼に苛まれていたのだから。
「しゅたっ。いやぁ〜、あっしを信じてくれてどうもありがとうございやすわ〜」
晴れてこの場のマサムネの姿が1つだけになったということで、上のマサムネがキッドの隣へと飛び降りる。
「へっ、ようやく本物っぽいマサムネが現れたな」
「イェスイェス、正真正銘、あっしこそが本物のマサムネっす。もう間違えちゃいけませんぜ?」
刀を鞘に納めてフランクに話しかけてくるマサムネ相手には、キッドも銃をホルスターに納めて警戒を解く。
「それにしても大変っしたねぇ。あの偽物もあっしが刀でぶった斬りたかったんすけども、突っ込めなかったっすわ」
「俺っちもここらで一人キルさせたかったが、手負いにしかさせられなかった。3対5、俺っちの無様さに腹が立つぜ」
先程の心理戦について感想を交わすキッドとマサムネ。
このマサムネがやたらと体育会系な口調になっているのも、年上への敬意であるのか。一応そこはクランバトル開始前でもやっていたことだ。
「まあまあおじさん、次に偽物が湧いた時に狙撃すればいいんすよ」
「チャンスをくれるとは優しいこった。だがリトルフラワーのあと一人が分かんねぇ以上は……」
「それ確定でクーちゃんっすよ。だってさっきクーちゃんの偽物がいたから、逆に言えば本物もいるってことでやすから」
「クロノワールのことだな。とりあえず、頭に入れとくぜ」
情報共有し、ついでに親睦を深め合うことで、先程の自分の決断にあった後悔の部分を取り除いてゆく。
が、キッドは決断の中でも最悪の引き金を引いてしまったことなど夢にも思っていない。
「いよし! あっしら本物同士、こっからは離れず二人三脚で勝ち抜いていきやしょうぜい!」
「随分威勢がいいじゃねえか。だが悪くねぇ」
内面が近い者同士惹かれ合ったか、マサムネの調子良さを気に入ったキッドも頷く。
まだリトルフラワーに加入したばかりでハグたん以外と挨拶程度の会話しかしていなかったが、この戦場でマサムネとも打ち解けつつあった。
ところがだ。
キッドの仲間面をしているこのマサムネの正体こそ、クラン『半真半偽』所属、その二つ名は『魔法唱杖』。
指揮棒ほどの小さい杖であるステッキのカムイによるアーツ【変身眼眸】の効果によって、本体が両目で視界に入れたことのある人物に変身しているまで(ストックは最大5人)。
刀の方も、アーツの副次効果によりステッキのカムイが偽装しているだけのただのナマクラだ。
見た目はモノマネできてもカムイまでは化けられないだなどと、かなり思い切ったホラを吹いたものである。
「だがよ、さっき撃っちまった偽物、結局化けの皮剥がさなかったな」
「いやいや、剥がれる以上に逃げ足早かったヘタレなだけっすよ」
ならば、キッドが偽物だと判断して銃を乱射したマサムネは何者か。
そう、それこそが待ち望んでいたはずの本物のマサムネであったのだ。
「成りすましてるくせに下策っすわ。偽物の分際があっしらリトルフラワーの絆を引き裂こうとか、百年早いっすよねぇおじさん?」
偽物は白々しく本物を演じ続ける。
自分がキッドの側にいる限り、本物のマサムネが再び現れようとも自動的に偽物と断定させるために。
リトルフラワーもう1人の仲間と合流した辺りで潮時とし、そこでキッドを闇討ちする腹づもりだ。
自分の手で仲間を撃ち、自分の判断が仲間を混迷に陥れたなどと知ればキッドはどう面白いリアクションをするか。今はまだ明かす頃合ではないと、偽物は腹の中で微笑する。
「ところでよ」
突然キッドの動きがピタリと止まる。
「てめぇ、本当にマサムネか?」
「え!?」
振り向きざまに銃口を額に突きつけられ、偽マサムネは驚愕の声を漏らす。
さりとてそれだけだ。これは脅しであって、まだ偽物を撃ったわけではない。
当てずっぽうの可能性もある以上は、脅しに屈して変身を解いたりはしないくらいには、偽物は冷静かつ経験もある。
「いやいや冗談よしてくださいっすよぉ。このあっしが偽物なわけないったらないってさぁ〜」
「俺っちの知るマサムネは、そんなに『あっし』ばっか言ってねぇ。なんか臭うぜ、てめぇ」
「ギクッ……」
――バレたか? 戦うしかないか? そもそも一人称コロコロ使い分ける奴なんているのか?
確かにマサムネの一人称は『ウチ』もあったのだが、偽マサムネが遺跡の上から本物のマサムネのセリフを拾っていた範囲では、その本来の一人称を使ったのは一度だけ。
ところが、本物のマサムネ言葉からいくら探ろうにも、強烈な罵倒ばかり思い出してしまう。故に、偽物は答えられない。
いつキッドがその銃の引き金に指をかけるかも分からない、ほぼ詰んでいるこの状況を偽物は引き攣った表情のまままともな身動きも取れずにいたのだが。
「あいつはな……やっべ何だったか? ワタシかアーシか……まあいい、今から嘘つきクイズ大会の続きをすりゃいいってな。ええ? マサムネよぉ?」
――しめた! こいつはクランに加入したばかりでマサムネのことを詳しく知らない!
キッドのセリフの節々から光明を見出した偽マサムネ。
ここで立ち返るのは成りすましの基本、「堂々と動じない」を実行する。
「ワッハッハ! やだなぁ、あっしは言うほど『あっし』って使ってやすよぉ〜」
「あれ? そうだったのかよ。そりゃ疑っちまって悪かった」
笑い飛ばす偽マサムネによる口から出任せに、キッドはあっさりと丸め込まれて銃を下げた。
キッドには、疑う前提で成り立つ『信用関係』もあったが、それでも疑わない前提で成り立つ『信頼関係』があるのもまた事実だからだ。
「あっしは真面目に嘘つきやせんから、これからも腹を割ってお話ししましょうぜい? 旦那ぁ〜」
「だ、旦那……? お、おう……」
舎弟となったかのように揉み手でへりくだる偽マサムネには、キッド思わず帽子のつばで目を隠して照れの仕草をとった。
迂闊に本物のマサムネを演じるほどいつボロを出すかも分からないことは、偽物も百も承知。
故に偽物、ここで新たなマサムネ像を作り出し、キッドにとってそれを真実に上書きさせるという逆転の発想に打って出たのだ。
「へい旦那っ! そいえば偽物って他にいたりとかしやしたかい?」
「さっき逃げてった奴の他に、スライムのカムイで化けてた奴がいたぜ。油断したそばから武器をひったくる、手癖悪い野郎だ」
「ほーそいつはビックリ! けど天下無双のガンマンである旦那がいれば、偽物百人いたってオールレンジで隙なしっすよ!」
「おぉいおいそんなに持ち上げたって何も出ねぇぜ? へへっ、へへへっ」
心にもないヨイショをし、モテたい男キッドの承認欲求を刺激して上機嫌にさせる。
ここまでされたキッドは、この偽物を本物だと思い込むほど完全に心を許していた。
「ハハハハ! とりあえず、マサムネも刀には注意しな。俺っちも、奪わせないよう注意しとくから、よっ!」
「ワハハ! 頼りにさせてもらいやすぜい、おっさん〜。ワッハッハ!」
2人は笑う。
大口を開け、腹の底から酸素を出して笑い合う。
仮初めだろうと、この光景を絵画にするなら『友情』というタイトルを付けても不可解ではないだろう。
偽マサムネ自身ですら清々しさを感じるこの和やかな空間。
――刹那。
「俺はおっさんじゃねえええええええ!!」
「うげげげげげげげげげ!!」
踏んではいけない虎の尾をとっくにふみ抜いてしまっていた偽マサムネは、気づいた頃には一瞬にして蜂の巣にされたのだった。
失敗の原因は情報不足ではない。
本物のマサムネがキッドのことを『おじさん』と呼んだことも耳にしていた。
ただ、おっさんとおじさんのたった一文字違うだけだというのに、信用も信頼もかなぐり捨てるほど怒髪天を衝くキッドの基準がクレイジーなだけなのだ。
「まってまってまってまって撃たないで! あっしは本物! おじさん旦那ぁ、もうやめてぇ!」
「本物だろうが偽物だろうがとっととくたばりやがれえええええ!!」
「がぎぐげござじずぜぞばびぶべぼっ! がはぁん……」
偽マサムネの右目に銃弾が貫いたと同時に、怒涛のダメージの蓄積によりHPが全損し死亡状態となった。
なおアーツ【変身眼眸】の欠点は、相手を両目で見なくてはならない以上、片目でも部位使用不可状態となった瞬間に解除と発動不能となる。
「弾切れか! チッ!」
苛立ち紛れに投げ捨てた銃が、変身解除中の偽物の額に当たる。
そこで横になっていた偽物の真の姿は、1本のステッキと共に、ピンクを基としたフリルやリボンをあしらった可愛らしいデザインの衣装を身に纏った少女。
これにはキッドの顔は瞬時に青ざめてゆく。
「オーマイ! レディを撃っちまったってことか! ノーカンってことには……ならねぇだろうなぁ……」
女性に手を挙げない主義であるキッドは、そう自分の軽率すぎる行いを孤独に悔やんでいた。
ともかく、人数差は3対4へ。
辛うじて1点だけ押し返したが、数の上ではまだ相手が1つだけ優位。
しかし、戦況を見ればその差は歴然だ。
「偽物に偽物に偽物、どうなってんだこのバトルは? サバゲーって話は、まさか俺っちの早とちりってことか?」
最早キッドは、戦闘開始前の根拠のない自信を完膚なきまでに喪失してしまっていた。
仲間と合流しつつ見敵必殺と甘く見て意気込んだが、偽物と本物の区別がつかない以上は前提が変わってしまう。
「一体、俺っちはこれから誰を信じりゃいいんだよ。ベイベー……」
今まさに人間不信に陥ってしまったキッド。
刀のカムイを紛失した上にキッドから逃げ惑うマサムネ。
それらから必然的に迷子であろうハグたん。
メンバーの中でも冷静な方であるクロとマリーが脱落した穴は大きく、孤立させられたリトルフラワー各個撃破による敗北の危機に瀕していたのだった。




