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43話 花のようなる花の守護者

 思わぬ再会を果たした2人だが、お互い色々な意味で予想外の現状を認識し、この場に殺気立っていたものが消え失せる。


「爆弾ちゃん、聞き間違いじゃない? だってコロリンは殺すなんておっかない単語は使わないんだころす」

「ほらそれです! 語尾につけてるそれ!」

「それだったんだね! コロリンとしてはかわいいと思うんだころす」

「あぁ……この人のことやっぱりよく分かりません」


 ますます理解が遠のいたが、今回ばかりはハグたんが人との接し方が不慣れなこととは関係ないだろう。


「まあどうでもいいころす。ところで爆弾ちゃん、なんで今日は一人ぼっちなの? みんなと一緒にやるんじゃなかったころす?」


 そう、コロリンが即座にキルしにかからないほどの疑問こそこれだ。


 変な語尾やらで呆気にとられていたはぐたんだったが、先程中断していた悔恨の念を回顧させる。


「私、ズルい子なんです。もう生きてる価値がありません……いっそ私も殺される方がいいんです……」

「昨日と言ってることまで反対だころす。どしたん? 話きころす?」


 真心なのか下心なのか曖昧な構文を引用したコロリンは、話の受け身の姿勢となった。

 もはや自爆して自主退場するほどの気力すらとっくに消え失せているハグたんなので、涙を零しながらそれに甘え出す。


「だって、友達やみんなを守りたいって思ったのに、みんな私より先にやられて、それなのに私は……あわあわするしか出来なかったんです」

「あー、それは友達が悪いころすね。コロリンならそんな思いさせないのに」


 相槌をうちながらも、中身というものが籠められていない返答をしてくるコロリン。瞳に空虚を宿す人物である故だ。


「もっとよく考えれば助けられる方法も思いつけたはずなのに……けど私が馬鹿なせいで、あと勇気がないせいで考えが止まっちゃったばかりに……」

「あー、それは爆弾ちゃんが悪いころすね。じゃあ、キルころすね」

「はい……って、ちょっと待って下さい! 殺される方がいいっていうのは言葉のあやでしてっ!」


 バタフライナイフのような武器を手に、じりじりと距離を詰めてくるコロリンから高速で後ずさるハグたん。


 口で言うのは簡単でも、いざ処刑台が目前に迫ると意思が翻ってしまうのは本能的に仕方ない。


 それ以前に未だデスゲームの最中だ。昨日はキルしない理由はあっても今日は縛るものも残すものもない。


「にへへぇ、怖かったら手あげるころす。でも両手上げてもやめないんだころす」

「それがこわいんですってえええ!」


 赤子をあやすような笑顔に反したその容赦なくキルする宣言は、殆ど戦意喪失していたハグたんから一欠片も残さず戦意を奪い去るには効果覿面だ。


 傍から見れば幼稚園のお遊戯のようにほんわかと追いかけ回していたその時。


「可憐なる花を徒花にしようなぞ、そうは花屋がおろさないのじゃ」


 レッドネームの凶器を遮る人影がハグたんの前に颯爽と参上したのだ。


 ハグたんにもコロリンにも、その人物には器の広さと親しみの覚えがある。


「のじゃのじゃ店長さんだ! こんにちはころす」

「店長さん!? 何しにここまで!」

「無事でおったか! そちは一休みしておれ、あの相手はわらわが請け負うのじゃ」


 ハグたんを隠すようにし、そして体をコロリンに向けて立つ。眉をつり上げたこの店長がどちらの味方に立ったかは一目瞭然だろう。


「わらわは今、久方ぶりに本気になるぞい。わらわの逆鱗に触れたお主は、たとえ昨日のお客様だろうと捨て置けぬのじゃ」

「うん? おかしいな? コロリンはお花を傷つけてないのに、店長さんがそんなにカンカンになっているのが分からないころす」


 花にさえ手を出さなければレッドネームでもお客様として迎え入れてくれた店長のはずだ。

 強烈な敵意を向けられる原因がコロリンには思い当たらず、また店長に助けられたハグたんですら何のことか分からず困惑している。


「いいや、確かにお主は花を傷つけようとした。この花をじゃな」

「わ、私?」


 言うまでなくハグたんは人間であり、花とはハグたんを比喩しているわけではなく、確かに店長の訳がある。


「あっ! もしかして、あの時店長さんが結んでくれた髪飾り、ですか!」

「なるほど〜、これは一本とられちゃったころす」


 これも、店長が丹精込めて育て上げた花のひとつ。傷をつけられれば気も悪くなるだろう。


 だがこの理屈の意味自体は、義憤を燃やすための方便に過ぎない。ハグたんの助太刀に入ったことそのものについては、花とは無関係の行為。


「お主のことを残念とは思わぬ、昨日の客は今日の敵とはままあるのじゃからな。来い、神威(カムイン・カムイ)!」


 そう店長が戦闘体勢に突入する決め言葉を勇ましく唱える。


 その右手に顕現したものこそ、黄緑色のブリキ製ジョウロ。カムイといえど、その造形は100円ショップで売られているような簡素なもの。

 またインベントリから取り出した小ぶりの鉄斧を左手に装備し、攻撃力を確保。


「もうカムイ出しちゃうんだ。店長さん、ほんとにコロリンとやる気なの?」

「火事場仕事も慣れたものなのじゃ。かつてわらわが冒険者ギルドにいた頃は『採植兼備(プラント・プラント)』の二つ名でブイブイさせおってのう」

「そうなんだ、知らなかったぁ。そんなにカッコつけられるなら、もしかして陰殺チームの人達も何人かキルした後だったりするの?」


 店長の商売人以前の経歴を聞かされようとも、コロリンにはポーカーフェイスのごとく感情の揺れがない。

 そんなことはお構い無しに、店長はジョウロの方を手前に出すと。


「それなら、格好つかないことを格好良く言わせて貰うとのう」


 ジョウロに光のオーラが包み込み、その中にコポコポと水が満杯まで注がれる音が響き、アーツの準備が完了。


「お主が一人目なのじゃ! 【硫酸霧消(ハイドロメルト)】!」


 前傾させ、店長がその場で跳んで一回転すると、ジョウロを注ぎ口から無色透明の液体が放出される。


 その水が重力を無視して空中で曲がりくねる蛇の如き軌道も、発動したアーツの能力。


 読みづらい軌道故にコロリンは回避が遅れ、ハグたんをキルしようとしたそのナイフに水が命中。


「あれ、コロリンのククリ……だっけ、匕首っていうんだっけ? まあいいや、ナイフが〜」


 自分の武器だというのに興味や愛着が皆無な口ぶりであるが、そこには言葉以上の事象が起こっていた。

 水が命中した直後から、鉄製のはずのナイフが物質が変わったかのように真っ赤に錆びてはドロドロに溶け出し、すぐに破片となって飛散したのだ。

 コロリンのそのナイフは、アイテムの死ともいえる破損状態となってロスト。


 これがジョウロのカムイによるアーツの効果。ただ水属性のダメージを与える以外にも、鉄製の装備に当たれば耐久度を大幅に損傷させられるという無力化を目的としたもの。


「甘く見すぎたのう。たとえカムイが宿っていようとも、この酸性の水に触れれば如何なる鉄の毒をも立ちどころに枯らせられるのじゃ」

「それよりもまず、店長さんもちゃんと戦えたってところに驚きだころす」


 確かにカムイが宿っている装備が破損状態となった際でも、カムイ解除状態となってやはり2分間再召喚不可となる。


 レッドネームの殺傷力は削いだ。だがコロリンは、空いた手を握ったりしたりぼんやりしたまま何かするようでもない。


「退かぬならば仕方がないのう。次は根を枯らせて終いにさせるのじゃ!」


 丸腰となり諦めたと見た相手に店長は真っ直ぐに突撃。

 このままジョウロで叩いても見た目通り攻撃力にはならないので、ジョウロと鉄斧を持ち替え跳び上がる。


 ここまで固唾を呑んで見守っていたハグたんも、「あの相手はわらわが請け負うのじゃ」との信じた言葉の通りとなる展開には安心。


「凄いです、店長さんが勝……てるって、言い切れない……」


 だったが、自分だけが感じる違和からくる予感に覆われていた。


 昨日のあの影のカムイ使いも始めこそナイフで攻撃していたが、そのカムイは連想も繋がらないまるっきり別のものであったと。


 コロリンに動転した様子がまるで見受けられないのは、天然物のポーカーフェイスなのではなく更なる手札を温存しているのだからと。


 ハグたんは察せても、初見である店長だけは気づけない。


「店長さん! その人のカムイはナイフじゃないです!」

「武器が無くなっちゃったら、カムイでキルするしかないころす。来い、神威(カムイン・カムイ)

「なんじゃと!? ぐほぉ!」


 突如店長の体が「く」の字に曲がったかと思えば、斧の攻撃か届かなくなるほど上空へと持ち上げられる。


 そのままハグたんのいる位置よりも遥か後方まで吹き飛ばされ、またその一撃によりHPも全損したためもう起き上がれなくなっている。


「しょぼしょぼなのじゃあ。わらわもう二度と戦わぬ……」

「ひょげええ普通にやられてるうう!!」


 あっという間の敗北によってハグたんは飛び上がって仰天してしまう。


 拗ねている店長に猛烈な勢いで体を揺さぶっているが、相手にとってそんな茶番劇は同情さえも誘えないもの。


「惜しかったね、ほんとだよ? だってその水をナイフじゃなくて腕にかけていたら、今頃コロリンすたこらさっさと逃げるしかなかったころす」

「う、腕……なんなんですかその腕……」


 繰り返し慄いたハグたんは、見た。

 コロリンのその両腕は肩から欠損でもしたかのように無くなっており、またその断面には機械の部品や細長いコードらしきものが乱立していると。


「メカ系のカムイって、同い年の女の子よりもデリケートだからね。あとゴツいし重いし、秘密にしてなきゃボコボコに意地悪されちゃうころす」


 店長に射出した後、上空から舞い戻った物体がコロリンの機械化している腕の断面に結合、隙間も残さず装着。


 コロリンのやや小柄の体にアンバランスかつシンメトリーの、メタリックに塗装された装甲とその巨大な二双の『機械腕』が蒸気を出すほどに発熱し、エンジン式の駆動音を鳴らしていたのだ。


 これがコロリンのカムイ。そしてコロリンはあえて胸を張るポーズをとる。


「陰殺チーム所属、その二つ名は『殺尽平均(キラーマージン)』。悪魔みたいに狙いすまして、天使みたいにコロコロリン♪っとキルしてあげる。だころすゥ!」

「カムイって一体全体どれだけ種類あるんですかぁ!?」


 いわば第二段階に突入したコロリンを目撃し、唯一無事のまま生かされているハグたんは勝ち筋への想像が困難となっていた。

 コロリンさんは、ロケットパンチの暴発で腕がプレイヤーに直撃したのがレッドネームになったきっかけだそうです。

 次回水曜日更新

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