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今を生きる男シリーズ  作者: Bluebear
3/3

ある飲み屋の男

3話目です。まだまだ未熟なものですで、ご指導のほどよろしくお願いします。


「「「「乾杯!」」」」


そう言って、電光の看板がチカチカと光る古めかしい飲み屋のお座敷でグラスを付き合わせる男女四人、全員スーツを着たままの会社帰りのサラリーマンとキャリアウーマンたちである。その中でも一際老けていて、一際太っている頭の禿げた男が一人いた。


「いや〜、みんな今日もお疲れ様、初めての飲み会だ!今日は僕のおごりだからね、楽しんでよ!これでも部長だからね〜、太っ腹なのさ!」


「おっ!部長親父ギャグですか!寒いです!アッハハハハ!」


と、威厳と部下への優しさを込めた男のスピーチは部下に茶化されてしまうのであった。


「そ、そうかい?いや、笑わせるつもりだったんだかな〜、ワッハッハッ」


「もう!部長全然笑えませんて〜、逆ならもっと面白いのいってくださいよ〜、正直寒いだけですって!」


と、部下の女性社員に言われてすっかり男は気を落としてしまった。部下の誰もがわかっていることではあるし、男自身も気づいていることではあるが、この男は年上としての威厳を見せようとするが、持ち前の気の弱さのせいでなかなかうまくいかないのである。


(はぁ、またうまくいかなかったな〜、みんなともっと親睦を深めようと思って飲み会を企画したけど、やっぱり僕にはまだ早かったかな〜、山田くんと高橋くんは何だか残業が残ってて忙しそうだったしうまく誘えなかったな〜、特に山田くんは明日になんか特別な用があるみたいだったし、飲みすぎて明日に影響が出たら申し訳ないからな〜)


この男は気は弱いが、部下への配慮は上司としてしっかりと考えているのであった。その時、男の内ポケットで何かが音を立てて振動した。携帯である。スマホの時代に男は未だ頑固にガラパゴス携帯を使っているのだ。男の唯一譲れないところである。見てみると、妻からの着信であった。男はそそくさと席を立ち、店の外に出て恐る恐る電話に出るのであった。


「も、もしもし……」


『あなた、今どこにいるの?』


「な、飲み屋だよ、部下たちと飲んでるんだ、大丈夫だよ、すぐ帰るから……」


『飲んでる⁉︎あなた、この間の人間ドックでお酒は控えるように言われたじゃない!それなのにまた飲んでるの?死にたいの⁉︎』


妻からの凄まじい怒号に思わず携帯を落としてしまいそうになる男。


「ご、ごめん、でも部下との交流を図りたいんだ…、どうしても、部長になったら飲み会を開こうって…」


消え入りそうな声で、弁解をする男。


『何が交流よ!体と部下との交流どっちが大事なの⁉︎歩美もまだ中学生なんだから、しっかりとした大人の態度を示してよ!夜遅くまで帰りが遅いのを歩美が真似したらどうするの⁉︎』


男の頭に愛娘の顔が浮かんだ。パッチリとした大きな目にピンク色の唇、綺麗で艶やかな髪、妻に似て間違いなく美人に育つ自慢の娘である。そんな娘が夜遊びに走るなんて考えたくもない。


「夜遊びなんてダメだ!絶対ダメ!」


『じゃあ!早く帰ってきてよ!部長だからって、部下とそんなに親睦を深めなくちゃいけないの?』


男は考える。娘のことを思えば今すぐ帰った方がいい、しかし、部下との交流もまた大切なことだ。男は携帯を耳に当てたままそっと目を閉じる。


(そもそも僕はどうして部下と交流を測ろうと思ったんだっけ…)


男は考える。ふと、入社したての若き日の自分の言葉を思い出した。


[チームワークが、会社を支える!そのためには、もっとお互いのことを知らないといけません!]


かつて自分が当時の部長に言った言葉…。社会とはどうあるべきか、会社とはどうあらねばならないのか、そんなことをいつも考え、胸に秘めていたあの頃…。思い出せば思い出すほど、男の胸は熱くなっていった。そして、静かに目を開け、再び携帯に話し出す。


「ごめん、やっぱり帰れない…、みんなと、部下たちとしっかりと向き合いたいんだ、ここで帰ってしまったら何か大切な何かから目を背けてしまうかもしれないんだ!」


『……………』


ほんの数秒であったが、男には長い沈黙であったように感じた。


『そう…、ならいいわ、』


それは先ほどまでの荒々しい台風のような妻の声ではなく、秋の夕暮れに吹く優しいそよ風のような優しい妻の声であった。


『久々に、かっこいいと思ったわ、惚れ直しちゃった!その調子で部下の人たちともしっかりと向き合いなさい!』


妻からの電話はそこで切れた。てっきり、再び激しい怒号が飛んでくると思っていた男は久々の妻からの褒め言葉に、しばし呆然とするのであった。我に返った男は、大きく深呼吸をすると再び店の中に帰っていくのであった。未だ若い部下たちと今後の社会を見つめるために。チカチカと消え入りそうだった、電光看板は今でははっきりとその輝きを暗闇の中に放つのであった。

いかがでしょうか?感想お待ちしております。

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