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ドラゴンすくらんぶる!  作者: 葉月 都
第拾章 蒼い記憶
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其九十二

お久しぶりです。



少しの間のんびりとした時間が過ぎた。

2人はぼーっと青空を見上げていたが、巴樹が口を開いた。



「そう、いえば……今のきいくんは、葵君なの?きいくんなの?」

「んー……まあ、そうだな。」



少し考えこんでから、彼は言った。



「今の俺は、葵、かな。確かに俺の中には『12歳までの葵』の記憶と、『きいとしての4年間』の記憶が全部ある。きいって、一応名前を忘れた俺につけられた仮の名前だし。」



葵はまるで、記憶を遡り思い出に浸るような表情を浮かべて笑う。

巴樹はそっか、と一言言って再び前を見つめた。

何にも代わり映えがない風景が二人の目の前を流れていく。



「葵君は、寮に帰ってくるの……?」



沈黙に耐え切れなくなった巴樹がか細い声で問いかける。

葵はちょっと考え込む。



「……とりあえず、奈濟さん達にこれまでのお礼を言いたい、かな。」

「その、後は?」

「家に戻ろうかな、とは思ってる。」



そう言った彼の顔は、どこかすがすがしくて、でも悲しそうだった。

しばらく二人は河原に座って空を眺めていた。



「それじゃ、帰ろっか。」

「……そうだな」




ーーー



寮に帰ると、待っていた奈濟が目を白黒させて二人を出迎えた。

それもそうだろう。出ていった時には150㎝ほどだったはずの少年が、急に170cm越えの青年になって帰ってきたのだから。



「葵く、え!?きいくん…!?あれ!?」

「奈濟さん、落ち着いてください…」

「そうですよ」

「いや、嘘でしょ!?みどり~!」



奈濟がそう緑を呼び、やってきた緑と何事かとついてきた源人、理衣が葵の姿を見て目を真ん丸にする。大騒ぎを始めた四人の声に連れられて、残りの三人も下へ降りてきて、葵を囲み、益々大変な騒ぎになっていった。


巴樹はあわあわと事態の収拾に努めようと皆の中に割って入ろうとしたが、その手は静かに背中へ回された。



葵が、嬉しそうに笑っていたから。

「きい」によく似た表情で、あまりにも嬉しそうに笑うから。



「あんな顔して笑うんだねぇ、葵クンは」

「ほんと、ですね……」



寮生達にぐしゃぐしゃにされる葵を見ながら、二人は小さく笑った。



「え、りょ、陵様!?」

「やっほー、ノリツッコミありがとっ、巴~樹ちゃん♪」



思わずいつも通りの調子で返した返事に違和感を覚え、巴樹は隣の存在に気が付く。

陵は楽しそうに笑い、Vサインをした。



「あ、あの…どうしてここに、というかいつの間に……」

「うーん、ついさっきともいえるししばらく前ともいえるかなぁ」



のんびりと笑いながら陵は言う。

巴樹がその言葉に困惑していると、先ほどまで葵を囲み、よいさよいさとお祭り騒ぎをしていた面々もこちらに気づき、慌てて陵に向かって小さく礼をした。



「今日はキミに会いに来たんだ、葵くん」

「……俺に。」



葵の瞳が真っすぐと陵を見据える。

陵もまた葵を見返し、怪しげな笑みをたたえる。



「答えを聞きに来たよ。」

「ああ、そういえば、そうでしたね」



先程まで仄かにではあるが笑顔を浮かべていた葵の表情が冷たく引き締まる。



「葵くん…"答え"って?」



巴樹が問いかけるが、葵はそちらには答えずただ黙って笑った。その笑顔はつい昨日までの幼い笑みではなく、大人びた、大切なものを見つめるような優し気な笑顔だった。

そしてすぐに陵を見つめ、口を開いた。



「ずっと考えました。でも、これは…龍精に戻るか、戻らないかは、俺の決められる問題ではないと思いました」



全員が息を吞む。

その中で陵がさぞ面白そうに口角を歪めながら顎を触り、目を細めた。

一方で葵は眉一つ動かさない。


しばしの沈黙の後、陵が言う。



「……ふむ。それは何故だい?」

「簡単です。龍精は人が選ぶのではなく、"龍"が選ぶからです」



一度言葉を切り、一息ついてから葵は話し出した。



「龍精は龍の力を借り受け、闇を、クラを祓います。そこには、宿す龍との信頼関係が絶対条件として存在しています。幾ら人間側が『あなたはこれから龍精だ』と言っても、龍側が認めなければ力を行使するどころか、逆に食い殺されてしまうでしょう。だから、俺は待ちますよ。龍が…飛龍が俺をもう一度、認めてくれるその時まで。」



葵の言葉が終わると、室内に静かな沈黙が流れた。

それは冷たくもなく、奇妙なものでもなく、ただ言葉の余韻に浸っているような、そんな静かな沈黙だった。


その沈黙を突如として破ったのは、まるで少年のような笑い声。

楽しそうに、さぞ嬉しそうに、陵はひとしきり笑って、笑って、笑い続けた。

しばらく笑って笑い疲れたのか、苦しそうにお腹を押さえて陵は絞り出した声で言う。



「もうッ、はぁ…ほんと、キミって真面目だなぁ!全くもう……どっちも変に真面目で堅物なんだから…」



すー、はー、と息を整え、やや崩れた着物を直して、陵は葵を見た。



「つまり、キミは戻れるのであれば戻りたいんだね。龍精へ」

「……はい」

「ふふ、僕は、というか”彼は”それが聞きたかったんだ」



陵が言い終わった瞬間、激しい風が辺りで吹き荒れる。

風は、髪を、服を、机を、椅子を持ち上げる。それはまるで何かに浮かび上げられているかのような。

寮員達は辺りを見渡し、この奇妙な現象に目を見開く。しかし、葵ははっとした表情で辺りを見て、陵は呆れた顔で肩を竦める。巴樹はぱちぱち、と瞬きをして、声を漏らした。



「まさか、この気配って…!」

「ったく、気が早いなぁ"飛龍"」



刹那、全ての「風」が葵に集約する。

その場にいたすべての人間があまりの突風に目を覆い隠した。

しばらくして再び一陣の風が吹き、家具がごとごと、と床に置かれる音がして全員が目を開けた。全ての家具が元通りに床へ置かれており、何事もなかったかのようないつも通りのリビングが広がっていた。


その中で一つ、いや一対の違和感があった。

見慣れていて、それでいて見慣れない一対の刀。「空霊」と「天命」であった。

相刃は、そこに収まるが当然という風に葵の両の手の中に収まって、そこに沈黙する。


全てが落ち着き、あっという間に過ぎ去った超常的な現象が収まると、あんぐりと口を開けた緑が言った。



「陵、様…?これは……」

「飛龍だよ」



大きなため息をついて、陵は答える。



「飛龍は"葵"と契約していた。でも、葵が失踪したことによってその契約は一度破棄された。そして新しく現れた"きい"と契約が結ばれた。でも、そのきいも消え、元の"葵"に戻った。それでいて、尚、飛龍は"葵"と再契約した。龍は基本気に入った人間としか契約をしない。だから、こんな数年おきに何度も契約履行が行われるわけがないんだよ……ってことで、最初から飛龍は"葵"、キミとしか契約をしていなかったんだ。」



キミが龍精になりたい、と願う限りはね?と陵はいたずらっ子のように笑う。

葵は、しばらくの間、陵の声にすら反応せず、ただ手元の空霊と天命を見つめていた。

そして、何かを決心したかのような表情を浮かべて、ぎゅ、と柄を握りしめた瞬間、刀は二枚の霊符へと姿を変える。


霊符を持ち、葵はそのまま陵へと跪く。



「—華波葵、飛龍に誓い、飛龍精として、この御役目果たさせていただきます」




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