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ドラゴンすくらんぶる!  作者: 葉月 都
第拾章 蒼い記憶
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其九十



「やあやあ、封じの姫様。」




美波川の河川敷に向かっていると、その道すがら、見覚えのある人影を二つ見つけた。

巴樹と葵はその人影のある和菓子屋まで駆けて、言った。




「稜様!それに、暦様!」

「こ、こんにちは!」




いつも通りの和装で、和菓子屋の前に置かれたベンチでのんびりとおはぎを口に含む稜と暦は、空いている方の手でひらりと手を振る。

「はい」と稜は二人にみたらし団子を差し出し、巴樹たちは少し戸惑いながらもそれを受け取りほおばった




「おいしいだろう?ここは僕と暦の行きつけなんだー。このこしあんがなんとも言えなくてね………」

「………なにいってるの。こしあんよりつぶあんのほぅがおいしぃ。」

「ほんとここだけ暦と意見が合わないよね。」

「わたしはえぃえんのつぶあんは。」




なぜかばちばちと火花をとばす二人。

巴樹はその光景を見ながら、苦く笑って団子を食べた。




「ああそうだ、葵君。久しぶりだねぇ。」

「あっ、は、はい!」




突然話題を振られ、葵がごくりとお餅をのみ込んで答える。

稜はその様子をみて楽しそうに笑って、言った。




「そうだ、そういえば、蒼清のじいさんには会ったかい?」

「この前、家に帰った際に会いました!」

「そっかそっか、よかった。」




愉快そうに笑えば、稜はまたおはぎを口に入れる。




「でも、ほんとぉにいきててよかったよ……そうさん、ずっときにやんでたから…」

「ああ。あのじいさん、一人孫がいなくなって一気に30歳くらい老け込んだもんねー!しかも、記憶奪われて黒の御子として帰ってきたって言ったら気絶しちゃったし。」




いやーほんと怖かった!といいつつも、そこまで心配そうなそぶりは見せない二人に、二人は呆れを通り越して乾いた笑いだけを浮かべた。




「ところで、二人は今からどこに行くところだったんだい?」

「あ、えっとですね、美波川へ行こうかと………」

「そうなんだ………でも、まだきおつけて。やがのたまがきえても、くらはそんざいしつづける。」

「それに、まだ感じるのさ。」




さっきまで笑い転げていた二人が、急に厳しい表情を浮かべる。

聖龍士二人の真面目な表情に、葵と巴樹も表情を硬くする。


稜が少し遠くを見つめながら、言った。




「きいくんがいたころとはまた違った闇の気配……そして、また別の強力なやみの気配………まだ、本当に悪は消えていないのかもしれないからね。」




まだ消え去っていない脅威。

全ての龍精のトップである彼が言うと、その脅威がどれほど大きなものなのかがわかる。

二人はごくりとつばを飲み込んだ。




「………すいめんきょぉのはんのぉもまだつよい……このちかくにそいつかちかづいてるの、まちがいない。」

「ってこと。もちろん、クラの勢いは少し衰えたけれど十分警戒しておくにこしたことはないよ。」




ふわり、と笑い稜は言った。




「ところで、どうだい?『自分』は思い出せそうかい?」




その言葉に、葵の顔に少しだけ翳りが出る。

少しの迷いの後、葵は答えた。




「少しだけ……です。少しだけ、僕の知らない記憶が戻ってきているのではないか、と感じています。」

「そうか。」




どこからか取り出した桜餅を、指さすように葵に向けて、稜は不敵に微笑んだ。




「それでいいのさ、葵君。君が、全ての力を取り戻すことを祈っているよ。」




巴樹と葵は硬い表情を浮かべて、真剣なまなざしで稜を見つめる。

しかし、暦は我関せず、という風にそっぽを向いてお菓子を口へ運んでいた。




ーーーーー




二人と別れた巴樹と葵は、美波川へと再度向かう。

この道を抜ければ、もうすぐそこに美波川が見える、というところで巴樹が言った。




「記憶が、戻ってるの?」




ふっと巴樹の方を見た葵は、少しだけ考え込んで苦く笑った。




「そう、ですね……ただ、『戻る』というよりは『見ている』という感覚です。僕はきいさんでありきいさんではない存在なので。」

「あ、ああ、そっか。」




確かに、記憶が戻るというよりは、葵にとってはほとんど未来で起きたことのようなものなので、見ているといっても過言ではない。

再び、沈黙が落ちる。




「どんな、思い出が見える?」




ざあっと風が吹く。

目の前が一気に開けて、青空にさらさらと流れる川、河川敷の緑が映えている。

すっかり葉桜になった桜並木のそばを歩きながら、葵は答えた。




「先ほど会った、なつさんとつきさんや、この前電車の中にいらっしゃった、利人さんや柴さんが僕に親しく話しかけてくれている、記憶です。」

「皆の………」

「もちろん、睦月寮の皆さんの記憶もです。」




夏にしては少し肌寒い風が吹く。

その瞬間、二人の前に人影が現れた。


ラフな格好で土手を歩く彼は、二人を見つけると、そのオレンジの瞳を嬉しそうに歪めて笑った。




「あれっ、久しぶりだね!」




巴樹は、本当に久しぶりに出会った彼の姿に驚き、声を上げた。




「さ、佐久さん!?」

「やっ、いつぶりかな?巴樹ちゃん。」



白い手を少し上げて、神霊佐久は笑った。

ざわざわと、葉をかすめて夏風が虚空へ消える。

葵の表情は硬かった。



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