其三十三
バイオリンの後なので、少し短くなっちゃいました。
でも、たぶん、話は大丈夫です!
「『風華』?」
「はい。」
部屋から出てきた巴樹は、あの時見た夢のことを、ある人に聞きに行っていた。
「ふわりさんなら、知っているかなぁと思って」
巴樹の目の前に立つ、黒縁眼鏡をかけた黄緑色のボブヘアに、巴樹と似た緑色の瞳をした少女が首をかしげる。
彼女は八坂ふわり。巴樹と同じ五行龍、草龍精である。
なぜ巴樹がふわりに相談しているのかと言うと、ふわりは、全国で一番と言えるほど歴史につよいからだ。
『足利尊氏が死去したのはいつ?』と聞けば、一秒以内に、「1352年6月7日!または、延文3年4月30日だよ!」と答えが帰ってくることだろう。
「風華は、平安時代の封じの姫の名前だよ。平安京にある神社の巫女でさ。冬華っていうお姉さんがいたよ。」
ニコッと笑い、ふわりが答える。
(おお……さすが歴史博士。)
思わず拍手しそうになる巴樹。
「巴樹ちゃんが、風華の意識に入ったってことは、巴樹ちゃんの前世は『風華』ってことになるかな。
まだ決めつけるのは早いかもしれないけど、
風華の(前世)魂と巴樹ちゃん(現世)の魂が別々の人物に絡みあうなんてことは、絶対にないよ。」
歴史博士であり、ファンタジーオタクのふわりは、こういうことに詳しいのである。
巴樹は、その解説にパチパチパチー、と拍手をした。
「うわあ。ありがとう!ふわりさん。」
「どーいたしまして。」
にこぉっと笑みを深くしたふわりは、眼鏡(伊達です)を外すと、巴樹のほうを向いて口を開いた。
「じゃあ、ついでに私たちの前世について、お話しよっか。」
「あ、よ、よろしくお願いしますっ!」
ぺこんっと巴樹がお辞儀をすると、満面の笑顔のふわりは語りだした。
時は平安時代までさかのぼる。
この時代にはもう龍精や陰陽師がいたらしく、日本の秩序を守っていた。
陰陽師として代表的なのは、安倍晴明がいるが、
龍精は、表立って行動することが少なく、特に歴史に残っているわけではない。
だが、実は龍精だった歴史的偉大な人物は多くいる。
例えば、室町幕府を開いた、足利尊氏。
天下統一を成し遂げようとした、織田信長。
自由民権運動の板垣退助。
そこで、巴樹が叫んだ。
「ええ!?足利尊氏も、織田信長も、板垣退助も、みーーーーんな、龍精なんですか!?」
「うん。そーだよ。
他にも、与謝野晶子とか、徳川家光とか、真田幸村……」
「真田幸村!?」
「の、お兄さんの信之とか。」
がくっと盛大にずっこけた巴樹をおいて、ふわりは続きを話し出した。
だが、平安時代のある一年が、歴史に少しだけ残っている。
仁和3年(887年)の阿衡事件である。
これは、藤原基経と宇多天皇の間に起った政治紛争だ。
歴史上では、基経と天皇の間の確執は解けなかったとされているが、実はそのあとに龍精が関わってくる。
基経と宇多天皇は、本当は仲直りしていたのだ。
でも、黒の御子の支配するクラによって、歴史通りになったのだ。
二人は、黒の御子の制服の足掛けになってしまったのだ。
だが、その黒の御子の支配を止めたのが、封じの姫だった。
そう。
風華である。
そして、黒の御子の名前が………
「祇夕」
その名をかみしめるようにゆっくりと巴樹がつぶやく。
「うん。それと、もう一つ。
その時、聖龍士の一人だったのが、
幸さん。
陵様の
前世。」
ふわりが、ふふっと笑って、言葉を続ける。
「ちなみにね、私の前世もみんなと同じ世代ぐらいなんだよー?三葉って言って、風華と同じ十九歳。お医者さんをしてたの。」
「そ、そぉなんですか………。」
そして、ふわりの家から帰る途中、巴樹はある場所に立ち寄っていた。
「おー、封じの姫様じきじきに来られるなんて、珍しいねー。」
にっこりと笑う陵に出迎えられ、苦笑いしながら、あの図書室へ行く。
誰もいない室内を見渡し、ゆっくりと目当ての本棚へ向かう。
「…………あった。」
その真っ白い手袋をした手には、
『闇阿衡之一年 封乃姫 黒乃御子』
と書かれた、古い書物があった。
その緑色の瞳を鋭く細め、巴樹は机へ座った。
はあー、と大きくため息をつくと、その古ぼけた茶色のページをゆっくりとめくった。
ちなみに、ウィキペディアを参考にさせていただきました。
最後の書物の名前が読みにくい方のために、読み方を出しときます。
「くら あこうのいちねん ふうじのひめ くろのみこ」
です。




