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私を忘れないで

「……じゃあ、この電話が切れたら……」


言いながら彼女のスマホを手にとってディスプレイを確認してみれば、もう電池残量は一つしかなかった。


『……うん。もう、お別れなんだ。見ての通り、あたしのスマホ、そろそろ電池がヤバそうだから切れる前に言うね?』


「うん」


『賢斗、あたしはあなたに会えてよかった。あなたといた時間はすっごく幸せだったよ。もう、一緒にいられないのが悲しいけど、あなたと最期に話せて本当によかった。昨日、あたしに【追憶の花】を買ってくれてありがとね』


優香の言葉をしっかりと聞き届けてから、僕はもう号泣の堰が決壊寸前だったけど、残された時間を一秒も無駄にしたくなかったから必死でこらえて彼女に答えた。


「……ありがとう優香。俺も、君に出会えて本当によかった。

 

君は俺のすべてで、君がいたから俺は今までやってこれたんだ。……君がいなくなって、正直、立ち直れるかどうかも分からないけど、でも、俺は……俺は、君との思い出を一生の宝物としてずっと持って生きていくよ。

 

優香の、もっと生きたかったって気持ちは俺が引き受けるから! 俺は絶対に悲しみに負けないから! 俺は絶対に、生きることから逃げ出さないって約束するから!!」


優香が電話の向こうで満足気にふふっと笑う。


『……あ、ところで勿忘草の意味って知ってる?』


それは、つい昨日、アベルトゥラで優香が僕にした質問。


その花言葉は彼女自身が教えてくれた。


「真実の愛、だろ?」


『うん。そうなんだけど、実はもう一つあるんだ』


「もう一つ?」


『勿忘草のもう一つの花言葉……それはね、【わたしを忘れないで】』


それが優香の最期の願いと瞬時に悟る。


「…………忘れるわけないだろ。俺が優香のこと忘れたりするもんか!」


『……神様って粋だね。最期の最期でこんな素敵な思い出をくれたんだもの。……ピピッ』


ついに電池切れを警告する電子音が鳴り始めた。別れの時が近づいている。


「そうかもな。でもそろそろ時間切れみたいだな。……ピピッ」


『……賢斗のこと、愛してるなんて言葉じゃ全然足りないぐらい愛してたよ!……ピピッ』


「俺だって! 心の底から優香だけを愛していたんだ。……ピピッ」


『愛してるよ、賢斗! 本当に本当に本当に!! ……ピピッ』


「愛してるよ、優香! 誰よりも君のことを愛してる!! 愛してる!! 愛してる!! 愛して……ピ――――――――」



耳障りな電子音に声をかき消され、優香のスマホのディスプレイが光を失い、それと同時に彼女のスマホ!?のストラップが粉々に砕け散って細かい光の粒となって宙に消えていく。




そしてそれが、優香との本当の別れだった。






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