彼女からの電話
いったい何が起きているのか、さっぱり分からない。
ただ、確かなことは一つ。これは悪戯ではありえない。
心霊現象というものは今まで経験したことはなかったけれど、もしこれがそうだとして、相手が優香の幽霊ならば、僕にとってなにを恐れる必要があるだろう?
「もしもしっ? 優香か?」
電話の向こうからはじけるような笑い声。
『あははっ。本人の死体を目の前にしてよくそんなこと言えるね』
優香の声だった。その声を、もう二度と聞けないと諦めていたその声を聞いた瞬間、僕は感極まって泣き出してしまった。
「うう、うう~。ゆ、ゆうかぁ!!」
何を言ったらいいか分からず、とにかく彼女の名前を呼び続けるしかできなかった。
しばらく一方的に僕の言葉を聞き続け、やがて彼女が言った。
『……ごめんね』
約束を守れなくて。
一緒に生きれなくて。
辛い思いをさせて。
一つ一つ謝る彼女の声にだんだん涙が混じってくる。
『……あたしも、もっと賢斗と生きたかったよぉ! もっと賢斗とおしゃべりしたいよぅ……』
「ゆ、優香、もうこれが最後なのか? もう話せないのか?」
『……うん。今のあたしは賢斗にお別れを告げるためだけの存在でしかないんだ』
「お別れなんて、そんなの嫌だよ!! 優香、戻って来てくれよ!!」
『無理だよぅ。賢斗と今話しているあたしは【追憶の花】が記憶している、言ってみればあたしのセーブデータで、あたし自身はもうどこにも存在しないんだから』
「……追憶の花?」
『賢斗がアベルトゥラで買ってくれたストラップだよ。覚えてる? アベルトゥラの雑貨には不思議な力があるって話したの』
「ああ」
『このアイテムは、最期のメッセージを伝えるものなの。持ち主のそれまでの記憶を保存して、持ち主にとって一番大切な相手にメッセージを一度限り伝えるものなの』
……一度限り。




