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戦の後とおっさん


「なんとかなりましたね」


ディアノックさんが帰るのを見送った(びっくりするぐらい早かった)。

魔王軍の人達も砂埃を上げてそれに続いて行ったのを確認して、危機は去った。


「随分余裕だったじゃないですか。あいつかなり強い部類でしたけど」

「なんでしょうね。あの人の行動はなんとなく読めたんですよ。既視感があるとでもいいましょうか」


この既視感はアルマゼルさんの時にも感じていた。

これも勇者の経験のせいなのかもしれない。

まあアルマゼルさんにはその上で圧されていたのだけど。


「ともかくこれで一件落着ですね!ていうかあいつ武器を置いて行っちゃいましたね」


地面に刺さった大きな斧。

その斧から砦に向かって亀裂が走っている。


「とりあえず私が預かっておきます。今度会った時にでもお返ししましょう」

「律儀ですねー。別に返さなくてもいいのに」


苦笑して返す。

正直、あの人はそんなに悪い人じゃないと思うんですよね。


「勇者様!お怪我はありませんか!?」

「アシェリーさん」


アシェリーさんが駆け寄ってくる。


「なんともありませんよ」

「あの者に斬られたように見えましたが」

「あれはちゃんと避けましたから、大丈夫ですよ」


先程の攻防、ディノアックさんの斧が私の頭部に当たる間際、構えていた右拳が先に切っ先に触れていた。

私は拳を回転させながら斧をいなし、反撃を入れた。

まあこれ以上ないタイミングと思われた反撃は防がれてしまったけれども。

やっぱりあの人は強い。


「そうですか……私には何が起こったかわかりませんでした」


悲しそうな顔をするアシェリーさん。

きっとアシェリーさんは血の滲むような努力をして強くなった人だ。

だからこそ真剣に、自分の不甲斐無さを感じているのだろう。

それに対して私の力はどうだろう。

何の努力もせずに手に入れてしまったものだ。

そんな彼女に、掛けてあげられる言葉なんてない。

私が何を言っても皮肉になる。


「ゆ、勇者様、なぜそんな悲しいお顔をなさるのですか?」

「……いえ」

「勇者殿、よろしいですか?」

「フェルマーさん」

「お疲れのところ申し訳ないのですが、砦にいる者達が不安がっているようです」


フェルマーさんの言葉で振り返る。

静かだった。

砦から顔を覗かせている人達は、ただこちらを見ている。


「魔王軍は撤退していますが、皆状況が呑み込めていない様です。勇者殿、ここは勝鬨を」

「勝鬨……ええ!?私がですか!?」

「もちろんです」

「無理です無理です。アシェリーさんお願いします」

「いえ、ここは勇者様がお願いします」

「ええー……、私やったことないんですが」

「では腕を掲げて頂ければ結構です」

「こ、こうですか?」


拳を高く掲げるとおかしな間が生まれた。

やっぱり私じゃだめなんじゃ。

と思いかけた時、音が爆発するような歓声が上がった。


「勝ったー!」「生き残った!」「勇者様ー!!」「帝国万歳!」「アシェリー様ー!」「不肖このゲルト、感動致しましたー!!」


体に響く。

ゲルトさん声すごいな。


「この度は勇者様のご助力がなければ、帝国の未来は断たれていたでしょう。帝国を代表して、深く、深く感謝致します」


跪いたアシェリーさん、絵に描いたように綺麗だ。

ルミさんともサクヤさんとも違う、少し大人な雰囲気。


「勇者様、是非帝都までお越し下さい。できる限りのお礼を致します」

「お礼なんてそんな、あ、でも帝都にはお邪魔していいですか?数日以内には連れや王国の人達も来ると思うので」

「もちろんです!フェルマー卿もよろしいですね?」

「異存はない」

「ではすぐ参りましょう!今参りましょう!」


腕を組まれ、ぐいぐいと連れて行かれる。

とても嬉しそうだ。

まあ戦に勝ったのだから当然か。

そんなことより、アシェリーさんが鎧を着直してくれていてよかった。

鎧がなければアシェリーさんのマシュマロで昇天していたところだ。

硬い感触を噛み締め、心底ホッと……いや、残念ではある。少し。

























帝都フェイムフェイン 帝国城にて――




帝国軍は魔王軍への偵察隊を派遣、砦に戦力を残しつつ、一部は帝都へ凱旋した。

今はアシェリーさんを初めとする将校さん達とお城の中を歩いている。

これからこの国の皇帝、アウストウラ・ファ、ネ?フォルカス、……ネスさんに報告に行くところだ。

やばい、全然名前が出てこない。

さっき教えてもらったばかりなのに……。

うー、緊張するよー。


「勇者様?大丈夫ですか?顔色が優れないようですが」

「あ、だ、大丈夫です。ちょっと緊張しているだけで」

「あの、先程申し上げたように陛下はその、ちょっとあれでして。勇者様が不快な思いをされるかもしれません。申し訳ありません……」

「いえ、むしろ私の方が不快な思いをさせてしまうかもしれません。作法なども知りませんし」

「しかし陛下は――」


「アシェリイイイイイイイイイイイイイ!!」


前方から絶叫が聞こえた。

傍にいたフェルマーさんが「……来る」と呟いたのが聞こえた。

アシェリーさんの顔色が目に見えて悪くなる、顔面蒼白と言うやつだ。

それを心配そうに支えるキューエルさんとゲルトさん。

なんだこの感じは、というかなんか臭くなってきたぞ。

声のする方から臭う。

す、酸っぱい!心なしか目が痛くなってきた。

いったい何が起こるんだ。

そして、その正体がわかる。


「アシェリイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!」


現れたのは、豚――じゃない。

人だ、一応。

生まれてこの方ピザとコーラしか口にしていません。ってみたいな体格の人だ。

歩く度に臭い汁が飛び出す。

よく歩けるなと感心するが、これは頂けない。

う、本格的に目がしぼしぼする。

って、え?

みなさんが跪いていく。

私も釣られて跪くが、混乱は隠せない。


まさか、まさかこの人が。


「陛下、ご報告に参りました」


フェルマーさんの声。

そうかー、陛下だったかー。

うん、そうだよね、ロッテ様がすごく、すごく可愛かった。

ただそれだけだ。


次回。酸っぱい青春回。

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