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走れおっさん

明けましておめでとうございます。

今年もまったり更新していきます。

宜しくお願いします。


「女王様、大変お世話になりました」


翌朝、私達は城門に集まっていた。

町で仕立てておいてもらった新品のスーツがなかなかしっくり来る。

主人は作ったことがないと言っていたが、無理を言って作ってもらった物だ。

王都に来た初日に頼んでおいたのだが、2着も作ってくれた。奮発した甲斐があったと言うものだ。

もっとあってもいいので主人には前払いでどんどん作ってもらうように頼んでおいた。

また王都に来た時に回収させてもらおう。


見送りにはロッテ様をはじめ、マリアンヌさんにシェリルさん、他にも多くの貴族や騎士団の人達が来てくれた。


「勇者殿、どうかお気をつけて。妾達も必ずや魔王軍を退けてみせます」


凛とした姿、相変わらず威厳がある。

しかし素顔を知っているとギャップがすごいな。


(今度来られた時は、勇者様の武勇伝を聞かせて下さいね)


耳元に顔を寄せられ、優しく囁かれる。

耳が幸せです。

やはり私は素顔の可愛らしいロッテ様の方が好きだ。


「いずれ必ず」


私の後ろに控えていたルミさん達みんなでロッテ様に礼をして下がる。


共和国は王国から遥か南に位置しているらしい。

王国を南下すると帝国があり、そこからさらに南に進むと共和国があるそうだ。

まずは王国と帝国の国境にある関所を目指す。

ロッテ様の計らいで貴重なスレイプニルの馬車を譲ってもらった。

これでかなり早く移動できる。

おまけに国境までは騎士団の護衛も付けてくれるらしい。

いたせりつくせりと言うやつだ。

順に馬車に乗り込んで行く。

御者は私だ。実はやってみたかったのだ。


ルミさん達が馬車に乗り込むのを確認して馬を走らせようとした――その時。

1人の兵士さんが見送りに来てくれていたシーガンフさんの所に慌しくやって来た。

シーガンフさんに何やら話しをすると、シーガンフさんは神妙な面持ちで頷いた。

そしてロッテ様の下へ寄る。

すごい嫌な予感がするんですが……。

周りの人もその動きに注目している。

ここで気付かないふりをして馬を走らす……訳にも行かない。


「陛下、ご報告がございやす」

「勇者殿がおられる、後にしろ」

「火急でございやす」

「……どうした」

「国境に帝国の使者が来たと国境の関所から報告が……魔王軍の侵攻により既に帝国の大部分が制圧されているとのこと」

「ばかな。『リンケージ』にはその様な知らせは来ていない筈だ」

「どうやら魔術で妨害されていた様でございやす」

「しかし、帝国も魔王軍と戦をしていたのは知っていたが、先日まで問題なく防衛できていたと聞いているぞ。まさかここ数日でそこまで侵攻を許したのか?」

「詳しいことはなんとも、しかしうちと構えている魔王軍やっこさんはここ数日随分大人しいですからね。もしかしたら帝国に戦力を集中させたのやもしれやせん」


辺りの貴族や騎士の人達がざわつき出す。

雲行きが怪しいぞ。


(エーリンさん。状況わかります?)

(帝国も魔王軍の侵攻を受けていたのは知っていますが、どうやらかなり危ない状況みたいですね。それで帝国から援軍を求める使者が来たんだと思います)

(なるほど。『リンケージ』とは?)

(通行証は知ってますよね。あれと似た国家間でやり取りができる掲示板の様な役割を持った魔道具です。どうやら帝国の『リンケージ』は妨害魔術で使用できなくされていたみたいですね)


ふむ。

これはどうしたものか、共和国に行くためには帝国領を通過する訳だけど。

その帝国は魔王軍に侵略されて風前の灯の様だ。

ってことは帝国に行けば魔王軍の歓迎を受ける訳か。

これはすんなり共和国に辿り着けそうにないな。


「アルマゼルが死んだと知り攻め手を緩めたのだと思っていたが、帝国への戦力を強化していたのか」

「どうしやすか」

「……帝国とは連合軍を組織するつもりであったのだ。帝国が堕とされては元も子もない。至急援軍を送るぞ。マリアンヌ!」

「は!」

「遠征隊を組織しろ。どれくらいでやれる」

「恐れながら陛下、軍備を整え、帝都に到着するのはどんなに急がせても10日は掛かるかと」

「その間に帝国は堕ちやすな」

「ではシーガンフ、『マナン』に駐在しているお前の兵を先方隊として向かわせるのはどうだ」

「陛下、そいつぁ自殺行為でさあ。帝国騎士団はうちの騎士団と比べても遜色ありやせんし、帝国には『三鎧天さんがいてん』も居ます。その帝国が滅亡寸前ってことでやすから、魔王軍の兵力は千や2千じゃないでしょう。少なく見積もっても3……いや5万。『マナン』に駐在しているあっしの兵は5千。下手をすれば帝都に辿り着く前にお陀仏でさあ」

「……何か手はないのか」

「ありやせんね。いくらなんでも使者が来るのが遅過ぎやした。まあ魔王軍が妨害していたんでしょうが」


さてどうしたものか。

どうやらこのままでは帝国は魔王軍に支配されてしまう。

……正直私の知らない所で滅亡してもらう分には構わないのだが、戦争なんだし。

しかし話を聞いてしまうと寝覚めが悪い。

それにそんなこと言ったら彼女達に嫌われてしまうかな、しまうだろうな。それは嫌だ。

彼女達の前ではかっこをつけたいおっさんだ。

これも勇者の仕事と思ってやるしかない。

ああ……楽しい旅になると思っていたのに。

せっかく仕込んで置いた食材が先延ばしだ。

魔王軍許すまじ。


馬車を降り、彼女達に告げる。


「ルミさん、サクヤさん。すみません、勝手をします。許して下さい」


2人は顔を見合わせて、少し困った様に笑った。


「しょうがないよね。勇者だもん」

「ヨシオ様ならそう言うと思いました」


いや本当は3人でゆったり旅をしたい。

とてもしたい。言えない。言えない。

馬車を離れ、ロッテ様の下へ向かう。


「私が行きます。女王様」


周りの視線が集まる。

やはり慣れないな。


「勇者殿、それはどういうことであろうか」

「私1人なら短時間で移動できますので、先に帝国まで行ってなんとか時間を稼いでみます」

「まさか、いくら勇者殿と言えど数万の魔族を相手にできるとは思えない」

「私1人なら敵に見つかる危険も少ないですし、道中は大丈夫でしょう。あとは王国軍の方が到着するまで凌ぐつもりです」

「勇者殿1人を向かわせる訳には」

「1人じゃありませんよ!私も行きます!」


ふよふよと私の周りを漂うエーリンさん。


「だそうです」

「いやしかし――」

「他に手はないのでしょう?やらせて下さい」

「っ……」


少し俯いて黙るロッテ様。

やがて顔を上げて答える。


「わかりました勇者殿。必ず向かいます故、それまで頼みます」

「ありがとうございます」

「礼を言うのはこちらの方です。すぐに遠征隊を組織する!マリアンヌ、シーガンフ、兵を集めろ!10日は遅い、7日で帝都を目指すぞ!皆も聞いていたな!尽力せよ!」

「「「は!」」」」


ロッテ様の号令で一斉に動き出す人々。

かっこいいなー。

っと、今は一刻の猶予もなんとやらだ。


「エーリンさん。帝国の位置はわかりますね」

「もちのろんですよ!案内は任せて下さい!」

「ルミさんとサクヤさんはマリアンヌさん達と一緒に来て下さい」

「わかりました。ヨシオ様、どうかお気をつけて」

「エーリン、おっさんのことよろしくね」

「合点承知です!」


あまり気は乗らないが、これはチャンスでもある。

恐らくだが、魔王軍にはアルマゼルさんと同じ八雷神の人が来ている筈だ。

うまくすればその人からルミさんを陥れた奴の情報が得られるかもしれない。

もしかしたらそいつ自身が、と言うことも有り得る。

そう考えると少し気が乗ってきた。


「じゃあ行ってきます」


エーリンさんを胸ポケットにしまい、【閃空術】で一気に王都を飛び出す。

ああ……ルミさん達の気配が遠のくのが寂しい。


「どれくらいで帝国に着けますかね?」

「このペースだと、休憩を挟んで3日くらいでしょうか」

「3日……間に合いますかね」

「微妙なところだと思います。でも飛ばし過ぎて体力や魔力が切れてしまっては元も子もないですから」

「……そうですね」


おっさんは走った。



おあずけをくらうおっさん。走れ。

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