リンリムの戦い(中編)
長らく更新が滞っており申し訳ありませんでした。
これからも更新は続けていきますので、お付き合い頂けたら幸いです。
光の球体――魔弾――が広場の空を覆う。
そこにはピエロとメイド。
無数とも思える魔弾が走る。
が、メイドのスカートから伸びる蛇腹剣に切り裂かれ、次々と爆発を余儀なくされた。
そんなやり取りがしばらく続いていた頃。
「何がしたいんです? こんな球遊びで私が倒せるとでも?」
呆れた様にイブキが口を開く。
実際イブキは剣をはためかせるだけで一歩も動いていない。
その程度の攻撃だと言いたいのだ。
「オホ~ホ。これは手厳しいで~すね。しかしワタ~シもこれしか能がないも~ので~すから」
「なら死んでもらえますか」
イブキが跳ねる。
飛来する爆弾を物ともせず接近。
「ホ」
4本の剣の内、2本で弾幕をいなす。
そして、残す2本がヘルムートの胴体を貫いた。
(! 手応えがない)
イブキはまるで布を切り裂いたかの様な感覚だった。
舌打ちをすると、剣を無理矢理外へ逃がす。
ヘルムートの上半身と下半身が別れた。
「あ~! や~ら~れ~た~!」
胴と脚が宙を跳ねる。
誰が見ても明らかにやられていない。小馬鹿にした態度。
「……気持ち悪い。さっさと消えるか死ね」
「つれない人ですね~。もっと余裕をもってみてはいか~がですか~」
乱れた服を直すように体を繋げるヘルムート。
苛立ちが募るイブキ。
「まあまあ。他のみなさんは頑張っているようですか~ら? ワタ~シ達がちょっと手を抜いて~もバレやしませ~んよ」
「なの~で。もうすこ~しお付き合いくださ~いね?」
瓦礫が崩れる。
続けて建物の破片がパラパラと落ちた
それが治まると、粉っぽく汚れたスーツ姿の中年の男――8代目勇者 ヨシオが現れる。
「ふう。きついな」
ヨシオは軽く咳き込むと、スーツを払った。
相対するは化け物、怪物と呼ぶにふさわしい元エルフの少女。
狂気に満ちた目でヨシオの一点を狙っていた。
化け物を目にした住民は避難し、辺りに人気はなくなった――が、ヨシオは攻めきれずにいた。
そんなヨシオを見かねた男。
「おいおいどうした。お前、そんなもんじゃないだろう」
付近の屋根から話しかける男。
同じ中年。ヨレたワイシャツ。男は始終を眺めていた。
ヨシオは男を見ずに答える。
「私はそんなもんですよ」
「違うな。お前はただ甘いだけだ。よせよ。そいつもう死んでんだぜ? 俺見たもん」
「ジュウベイさんは、何とも思わないんですか」
「殺し屋に聞くかねそれを」
ジュウベイは鼻で笑う。ヨシオは見なくてもわかった。
「……私には私のやり方があります。黙ってて下さい」
「おーこわ。ま、ゆっくり見届けさせてもらうわ」
と言ったものの、ヨシオは悩む。
何かに操られているとか、敵の本体があるとか、そんな都合のいいものは見つからない。
話しも通じず、意思の疎通が取れない。
まだまともに話せそうだったイシュミールは気配を消してしまった。
打つ手がなく、甘んじて攻撃を受けている状況だ。
(と言ったものの、耐性が高くて魔術による拘束は難しい。直接攻撃もハンパなものは効かないし、かと言ってちょうど良く手加減させてくれる強さじゃない)
思考を巡らせるヨシオ。
その間も触手の狂撃、魔術が飛来する。
ヨシオでも捌き続けるのは至難の業だった。
(こんな状況でも、タケルヒコ様ならなんとかできるだろう。修行したと言っても、私はまだまだ足元に及ばない)
ヨシオは思う。
ああ。なんて私は弱いんだろうか。
そんな悩乱は、さらに動きを鈍らせる。
その隙を伺っていた者が、背面の壁を壊し、刹那の間に肉迫した。
ヨシオは軸をずらす。血飛沫が舞い、胸が熱くなるのを感じた。
(イシュミールさん!)
ララノアと同じように、明らかに胸部を狙った攻撃。
それを免れたヨシオは距離を取る。
(イシュミールさん――は見た目は変わっていない)
「イシュ――「ダメでしたか。流石は勇者様ですね」
ヨシオの言葉は、悔しそうな、恨めしそうな眼を向けるイシュミールに遮られる。
「やっぱり私は弱い。だからララも守れなかった。でも、でもせめて、最後の願いは叶えてあげたい」
骨が折れるような耳障りな音を立て、イシュミールの身体が変化していく。
甲虫を思わせる黒光りした足が6つ。全身も合わせて甲殻に覆われる。
携えていた剣ごと殻に覆われ、巨大な黒蝕の剣へと変化する。
背からやはり虫の様な羽が生え、胴体には赤い玉がいくつも出現する。
それが目玉だと気付くのにさほど時間はかからなかった。
「ぐ、ぐぎ、ラ、ララ、ぎ、ララの為に、ララノタメニイイイ!」
超突進。切っ先が伸びる。
(避けっ)
変化――いや、変身を目の当たりにして、ヨシオの脳内はさらにかき乱された。
そんなヨシオに、拍車のかかったイシュミールを止める術はない。
咄嗟に腕を前に出すが、防御になってない。
逃れようのない衝撃がヨシオを襲う。
そんな衝撃を抱えたまま、ヨシオは何区画か先まで吹き飛ばされた。
「がはっ」
意識が混濁する。
腕に激痛が走る。
「ヴェ、ヴェノムヒール」
魔力を温存していたヨシオも、使わざる得ない状況だった。
発光と共に拉げた腕が戻り、意識が回復する。
と、辺りから奇異の視線が注がれていることにようやく気付いた。
住民や商人、兵士ですらも臆して縮こまっている。
(ここは避難所の様な所か。急いで離れないと)
「もう、イシュミールったら、こんな所まで吹き飛ばして、ダメじゃない」
ヨシオが通った穴を塞ぐように現れるララノア。
その見た目と魔力のおぞましさから悲鳴が舞った。
「……うるさい。うるさいわぁ。私はただ、心臓を、心臓が」
魔力が高まり、魔術の発動を予期させる。
「! ララノアさん! 待っ――」
ヨシオの足元に陣が展開する。
ヨシオだけではない、ララノアにも、辺りの民間人にも。
「なぁに?」
ララノアが魔術の発動をやめる。
そこにいる中で、ヨシオだけがそれがなんなのかわかっていた。
(きた!――)
「強制転移……ですか?」
「うむ。儂が奴を見つけたら、強制転移魔術を使う」
「それは、あの人をどこかに連れていくということでしょうか?」
「そうしたいのは山々じゃが、それは無理じゃな。強制転移は格下でもなければ抵抗されるのがオチじゃ。儂が転移できるのはせいぜいランクS以下じゃて」
「私はユウリシアさんにされましたけど」
「それはお主が無防備過ぎただけじゃろ。お主でも抵抗できるはずじゃぞ」
「んー? でもさ、だったらどうする訳? 結局2代目は転移できないってことでしょ?」
「そうじゃ。じゃから、逆にそれ以外を転移する」
「というと?」
「強制転移でランクS以下を国外へ飛ばす。残ったSSはお主ら、そうでない者は全て敵じゃろう。転移が終わったところでリンリムを結界で覆い、逃げ道をなくす」
「なるほど。転移された人はどこへ?」
「魔王国じゃ」
「お、おじい様、それって大丈夫なんですか」
「儂がなんのために魔王国を立て直していたと思うておる。リンリムの住民を受け入れる場所を作る為じゃ。転移されたS以下の中に敵がおるやもしれぬが、魔王国に魔王を残してきたのもそのため。S以下が何人いようが問題はなかろう」
「うまくいけば、敵を都市の中に封じ込められる訳ですか」
「うむ。じゃが問題は奴を見つけるまで転移はできん。もしそれまでに戦闘に入った場合は、厳しい戦いになるやもしれん」
「なるべく被害を出さないようにしないといけませんね」
(儂としては派手にやってくれた方がいいのじゃが。奴はそういう騒ぎが好きじゃしな)
「私は邪魔にならないように避難してますね!」
「いや何かできること考えて下さいよ」
次々と辺りの人が消えていく。
そんな中、ヨシオとララノアの陣は抵抗により崩壊した。
(やっぱりララノアさんは残るか。イシュミールさんも当然。でもやっと動ける)
『もしもし。ヨシオです』
念話。
タケルヒコが構築した結界内で使用できる連絡手段。
結界内のみという制限があること以外に欠点らしい欠点はない。
頭で話しかけるだけでパーティメンバーと会話できるのだ。
問いかけたヨシオの中にも、続々と声が届く。
『おっすおっす☆ うまく行ったみたいだね!』
『み、皆さんご無事でしゅか!?』
『いえーい! 拙者の活躍みてるでゴザルかー?』
『うるさいです。旦那様の声が聞こえません』
『私は元気ですよ!』
いくらか頭が痛くなるのを感じながらも、ヨシオは安堵していた。
ひとまずは全員無事の様だと。
『皆よくやってくれた。尚早ではあったが想定内じゃ。儂はこれより修羅に入る。巻き込まれるな』
そう。ここまでうまく事が運んだが、戦いが決した訳ではない。
初代と2代目の対決はこれからなのだ。
『タケルヒコ様。1つお聞きしたいことが』
『手短に言え』
『身体を改造された人を元に戻す方法はありますか』
『相手方のエルフの娘のことじゃろ』
『見てたんですね』
『殺さないように捕らえれば余地はある。今言えることはそれだけじゃ』
『――ありがとうございます。十分です』
『うむ。ではの』
『おじい様! 頑張って下さい!』
『そんな奴ちゃっちゃとやっつけちゃってよ☆』
『終わったら温泉に行きたいでゴザル!』
『黙りなさい、鉄クズにしますよ。……旦那様、どうか悲願を』
『……私が言える立場じゃないかもしれませんけど、勝ってください』
『タケルヒコ様。ご武運を』
「んー、抵抗することを見越しての強制転移か。考えたね」
「それでも、うぬが面白がって出て来なければ捉えられんかったろうがの」
「いやー出ちゃうでしょ。こんな催しなかなかないよ」
「変わっておらんの。その本性にもっと早く気付けていればの」
「変わらないよ。過去も未来も。あんたは生き続けるんだ。俺の手の中で」
「……うぬには付き合いきれん。ここで終わらせる」
「わからないかなぁ。あんたの最期はここじゃないんだよ」
「いくぞ」
リンリムの街を、かつてない怨念が包み込んだ。
2代目包囲網。完成。




