20.あなたはわたしを知ってるの?
先日、とばしの携帯電話に新しい暗殺の依頼の電話が入った。
標的は治安維持組織茶色の薔薇の仕切る土地で活動する麻薬密売組織。
茶色の薔薇の仕切る土地と言うのは、ここニホンから遠く離れたヨーロッパ、スイス。
国外からの要請は初めてだったが、別段不安などはない。
わざわざ海外から依頼が来るまで名が売れたんだなあ、と思わず苦笑いをしただけ。
とりあえず、荷物なんて無いから身一つと愛刀DEATHBREAKERと、シヅキの剣を背負って空港へ向かった。
予め送られてきた偽造パスポートを使えば、入国することは容易かった。
現地についてすぐ、依頼主の元を訪れ、標的の居場所、特徴などのだいたいの情報を受け取った。
どうやら今回の標的の麻薬密売組織はスイス南部にある小さな町、モンターニアの今はもう使われていない廃教会に居座っているらしい。
渡された地図で町の場所を確認して、その日のうちに向かった。
モンターニアは想像していたより遥かに小さな町で、むしろ村という名が似合うほどだった。
廃教会は町の中心地より少し離れた森の中に建っており、木々が鬱蒼と生い茂るそこへ足を踏み入れる人はそうそういないらしい。
モンターニアに到着したのが午前四時で、もちろんこんな時間から仕事をするわけにはいかないので、とりあえず町の小さな宿に泊まることにした。
夜まで何もすることがないわけで、それならと言う感じで珍しくのんびり風呂に入って丁寧に髪を洗った。
風呂から上がると可愛らしい装飾の施された木目調のベッドに横になって目を閉じた。
まっくらになった世界に、思い浮かべるのはやっぱりたったひとつで。
それは彼を失って何年経っても、恐らくこれからも変わることはないだろう。
それにしても、さっきから胸がざわつく。
耳元を飛ぶ虫の羽音のように気になりだしたらなかなか消えない。
前にも一度、こんなことがあったような気がした。
たしか、ボスが亡くなるちょっと前のことだ。
ということは、今回も誰かが死ぬのかな。
べつにもう、大切な人はこの世界にいないんだから誰でもいいけど。
自分だったら、まあしょうがない。
それぐらいにしか思わない。
ぼんやりそんなことを考えていると、瞼がだんだん重くなってきてとうとう眠りに落ちていった。
まっくらなせかい。てらすのはただひとつ。
あかるいけれど、だけどきえそうでさみしげなつきひとつ。
わたしはしゃがんでみあげていた。
とどくわけないのに、とどきそうなつきにてをのばしていた。
てはやはりなににもふれることはなくて、わかっていたはずなのにさみしくなる。
すると、つきはだんだんだんだんちいさくなっていって、きえてしまった。
わたしはもっともっとさみしくなって、なんどもさけんだ。
わたしをひとりにしないで。
もうこえもかれかけたそのとき、またひかりがわたしをてらしておもわずかおをあげた。
そこにあるのは、つきだった。
だけどさっきまでのつきじゃない。
さみしそうで、きえそうなつきじゃない。
たとえたいようがつきをおきざりにしてきえてしまっても、つきはみずからのちからでずっとかがやきつづけることができるんじゃないかとおもうほど、ちからづよい。
わたしはふしぎにおもって、てをのばした。
あなたはだれ。
ぼくはつきだよ。
わたしはなに。
きみは、クロネコだよ。
Do you know what I am?
あなたはわたしを知ってるの?




