第1話 レストラン "プレゼルヴェ"
〜4年後〜東京
狭いキッチンでコック2人が淡々と作業をしている。
1人は細い目がキリッとした、いかにも職人といった風貌で、髪の毛を後ろでお団子にしている。
もう1人はキレイに切り揃えられた前髪がオシャレな、好青年って感じの見た目だ。
客席にはちょび髭がチャーミングな小太りのおじさんが1人。
ほぼ毎日来てくれる常連だ。
俺たちは源さんと呼んでいる。
オーダーはオムライスいつもこれしか食べない。
店内にはオシャレなBGMと小気味良い玉ねぎを刻む音が響く。
こだわりの詰まったチキンライスに贅沢にも卵を4つ使ったふわトロオムレツを優しく着地させる。
そして、当店自慢の5日かけて作った絶品デミグラスソースをたっぷりと…。
仕上げに生クリームとパセリとかけて。
「はいおまち!アッシェの特製絶品デミオムライスだよ!」
源さんの前に差し出すと早速スプーンでひとすくい。
熱々の湯気が立ちのぼる。
「いただきます。」
口いっぱいに頬張り、しっかり味わって一言。
「クソまじぃ!!!」
間を置かずにさらに続ける。
「調理工程はあんなに繊細、香りもこんなにいいのに、なんで味だけはこんなにマズイんだ!?これなら馬のクソ食ってた方がマシだぞ!?ほんとお前はどうなってんだアッシェ!!」
罵詈雑言の嵐。
今日こそ我慢の限界だ。
「うっせーよ!お前こそ毎日毎日オムライス食っては文句言いやがって!本当はすっごく美味しいんじゃないですかぁ〜?じゃなきゃこんなに頻繁に来ねぇだろうよ!!」
後ろでお団子に結んだ髪がはち切れんばかりにアッシェが叫ぶ。
店員と客のやり取りとは思えない。
源さんが続ける。
「いやほんとに不味いんだ。その証拠に俺が通い始めてからの2年俺以外の客来ないじゃないか。」
源さんしか居ないすっからかんの客席を眺める。
そんな源さんにピケが言う。
「まあまあアッシェの、料理がまずいのは今に始まったことじゃないです。これ試作のデザートです。」
パッツンに切りそろえられた前髪を揺らしながら、源さんの前にオシャレな盛りつけのクレームダンジュを置く。
「ピケ君のデザートは素晴らしいよ。アッシェのクソ料理の後味をすーーっと消してくれる。」
まるで当てつけのように、ピケが作ったデザートに舌鼓をうっている。
イラついてしょうがない。
「それに俺はエクラゼちゃんに会いに来てるんだ!こんなクソ料理を食べに来てるんじゃない」
源さんがクレームダンジュを口の中で転がしながら愚痴る。
「エクラゼは今バカンス中ですよ。」
ピケが諭すように言うと、フランス人はいいねぇ〜と嫌味っぽくいいながら店のテレビを勝手に付けた。
こんなクソみたいな常連客が入り浸る不味い料理を出すレストラン。
それがここ"プレゼルヴェ"だ。
チャンネルを変え続ける源さんが、ニュース番組で手を止めた。
【続いてのニュースです。8年抗争から、早4年がすぎました。未だヨーロッパは復興の兆しが見えないままです。】
ニュースを見て源さんが続ける。
「もうあれから4年も経つんだな。」




