ねむくて、はじめて、
人は、睡魔には抗えない。
起きないといけないけど、起きられない時はある。お昼休みの後の授業とか、みんなそうだと思う。特にご飯をいっぱい食べた日は、先生の言葉は僕たちを眠りへ誘う。その時間に起きてる人のことを、僕はすごいと思う。
でも、僕は起きられない。今日も例に漏れずに意識は朦朧としながら、うつらうつらと船を漕いでいるところだ。誰も気にもとめない。いや、先生は気にしてるかもしれないけど、分からない。
「 く 」
ああ、睡眠は最高だ。
「ほ ん」
このまま一日中寝ていたい。
「ほ るく 」
なにか聞こえる気がするけど、きっと気のせいだ。
「蛍くん!いい加減起きてよ!今日ずっと寝てるじゃない君!」
……どうやら気のせいではなかったらしい。
「誰ですか……?僕の安眠の時間を邪魔するのは……」
「そう言って君、既に今日4時間以上寝てるの分かってる?ねえ、分かって言ってるの?」
「……やだなぁ委員長。睡眠は何時間あったっていいんだよ。怒ってばかりだと疲れるから、委員長も一緒に寝ようよ」
「誰のせいで怒ってると思ってるんですか、誰のせいで!」
目をこすって身体を起こしてみれば、既に日は暮れており、同級生たちは帰り支度を始めている。どうやらもう帰りのHRは終了したらしい。
「帰る時間だから起こしてくれたの?やっぱり委員長は優しいんだから〜……ツンデレってやつ?」
「違います!蛍くんがいつまで経っても起きないから痺れ切らしただけです!」
「やっぱりツンデレ?」
「…………!!」
やかんの音が聞こえてきそうな勢いで顔を赤くする委員長を横目に、僕も帰り支度を始める。ふと、ドアの方に目をやった時、知らない顔が見えた。同級生じゃない、上級生にもいないはず、いたら噂になるだろうってくらいの綺麗な人がいた。
「委員長、あの女の子って…」
「ん…?あぁ、転校生の子ね。あなた朝のHRも寝てたから知らなかったのね。気になるの?」
「朝のHRってことは、クラスメイトか。気になってるって言うより…誰だっけってなって」
「小鳥遊 廻さん。来た瞬間に男子たちは大興奮ね、女の私ですらあの美貌に一瞬吸い込まれたもの。でも、口を開いたと思ったら超毒舌。まあでも、そういう子でもあの顔ならモテちゃいそうよね」
別に興味があった訳じゃない。見覚えのない人で、知っておきたかった。言わば知的好奇心に近い。確かに周囲を見渡せば、小鳥遊さんに目を奪われているクラスメイトが沢山いるように見える。
「…名前が分かっただけで十分かな、ありがとう委員長。今日はもう帰ることにするよ。起こしてくれてありがとう。」
「そう?気をつけて帰りなさいよ。蛍くんは少し目を離すとすぐ怪我するんだから」
「お気遣いどうも、また月曜日にね」
そうして委員長と別れの挨拶をして、ドアに向かう。席の関係上、小鳥遊さんの前を通る時に軽く会釈をしたが、こちらが見えていないかのように無視された。別に気にはしないけど。
いつも通り家路に着く。いつも通り家に帰る。いつも通りに晩御飯、お風呂、宿題、そして就寝…。起床して、週末を迎える。週末はオアシスだ。誰も僕の睡眠の邪魔をすることはできない。
そう、思ってたのに
「初めまして、お隣に越してきた小鳥遊と申します。以後、お見知り置きを」
どうして、転校生がお隣さんになるなんて憎たらしい真似を神様はするのだろうか。




