夢
「お母さん合格したよ!」
まだ雪が残る2月の下旬。
12年前私は東京にある美術大学に受かった。
昔から、絵を描く事が好きで
景色とか花とか空とか。
自分が見たものを絵として表現するのが
好きだった。
私の夢は自分の絵を色んな人に見てもらう事。
できたら展示会とか開かれたらなって。
でもその夢は叶う事は出来なかった。
「サト。本当にいいんだね?」
夜ご飯の準備をしている私の母。
昔から大事な話をする時は
いつも背を向けたまま話をしてくる人。
褒める時も叱る時も私の顔を見ないのだ。
だから、嬉しいのか悲しいのか怒ってるのか
わからない。
「うん。やってみたいんだ。
もちろん簡単な事ではないと思うし
現実的な形ではないと思うけど。」
お母さんは何も言わずに
野菜の切る音が段々荒くなる。
一緒にな喜んでほしいんだけどな。
納得いってないんだろな。
どうして欲しいのか教えてよ。
私の好きな事を1番に認めてほしいんだけどな。
「お母さん。春から一人暮らしする場所なんだけど
一緒に来てくれる?」
お母さんの返答はこの日はなかった。
〜♪
「もしもし?サキ?」
「合格おめでとう〜!!」
電話越しにクラッカーの音と
サキの嬉しそうな声。
少し泣きそうになる私は喉を鳴らし誤魔化した。
おめでとうってこんなにも嬉しいもんのなんだ。
認められたような、報われたような。
「ありがとー!嬉しいよ。」
「頑張ったもんね。春から美大生だね。
私も頑張らないとな〜」
サキは関西にある外大に行く。
私は東京にある美大。
離れ離れになるけど、私達なら会うんだろうな。
うん。きっと会い続けるだろう。
「サキの3月だもんね。あと少しだね。」
「もー毎日ドキドキだよ。でも、サトの
合格発表聞いて自信ついたよ」
「ふふっ。そうだと嬉しいよ」
そこから、これから住む場所とか
卒業旅行どこ行く?とか他愛のない話をして
電話を切った。
その日の夜は、嬉しい感情と
母の反応を思い出し、悲しいのか怒りなのか
わからない思考がぐるぐると止まらず
なかなか寝つけれなかった。
ピンポーン
やっと寝れそうだったのに。
時計をみたら朝の5時前。こんな早朝に来るのは
1人しかいない。
母は起きてるのか寝ているのかわからない。
いつも私が鍵を開けて、ここからはあの人の
長い長い愚痴の始まりだ。
「おかえり。お父さん。」
不機嫌なのか、いつも顰めっ面の父。
いつもこんな時間まで働いてくれてるのは
知っている。鍵を持っているのも知っている。
話を聞いてもらいたいのか、いつも
インターホンを鳴らす。
帰ってきたらソファーに寝っ転がり
ボソっといつも話を始める。
「俺はこんな時間まで働いてやってるのに。
母さんは…」
始まったよ。私寝れてないのにな。
父のためにコーヒーを淹れる。これが私の役割。
父と母は喧嘩が絶えない。なぜそれでも
一緒にいるのかわからない。
いつも板挟みの私。聞きたくない愚痴。
変化のかけらもない愚痴は、私の精神を削っていく。
そうね、黒板に爪当ててるような
不愉快極まりない。
「サト。お前美大はどうだったのか」
びっくり。今まで報告はしてきたけど
ちゃんと聞いていたなんて。
コーヒーを注いでた手が止まる。
「受かったよ。春から東京行くね。」
父の表情は少し緩んだ。喜んでくれてるのかな?
そうだったら嬉しいんだけど。
止まった手を再び動かした。
「そっか、そっか。じゃあ、もう終わっていいんだな」
え?なにを?なにが終わるの?
思っていた反応と正反対な答え。
父は重い体を起こし深く座り直した。
「もう、終わっていいよな?サト。
父さん疲れちゃった。お前も大人になる。
母さんと別れる事にしてもいいよな?」
私は驚きを隠せず、マグカップに溢れるコーヒー。
父の心も溢れきってたのかな。
気づいてたけど気づかないふりをし続けてた。
私は父の質問を放棄して、自分の部屋に逃げた。
知らないふりをし続けた。2人の間を保とうとしていた時期もあった。
2人とも限界だってこともわかってた。
だけど、この終わり方はまるで
私が居た事を理由に別れれなかったみたいじゃない。
YESとも言えない。NOとも言えない。
攻撃をし続けてほしかったわけじゃない。
笑っててほしかった。
崩壊してるのわかっている中でも
どこか、いつかきっと。って思ってた。
願ってた。
矛盾だらけの感情。この感情の処理の仕方なんて
分からずに大人になっていく。
でも、もう私も子供じゃない。
どちらかが旗を挙げてしまったら
もうその旗は取り下げれない事もわかってる。
私が出した答えをあの2人は首を縦に振る事は
ないと思う。
うん。もういいよ。好きにして。疲れたよ。
私は布団に潜り込み深く眠った。
私のお母さんとお父さんは
これから夢の芽の成長を見届ける事ではなく
終わらしたくても終われない日常を
私の高校卒業と共にピリオドを打つ選択をした。
「それでは、卒業&受験お疲れ様でしたー♪」




