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無職と行く迷宮冒険譚  作者: 賽ノ目seven
無職、船上パーティーに夢を抱く
12/13

第四章 其の四 騒動の後始末、馬車内の密会

 騒動から数日、四人は栄光の塔のカフェにいた。

通り名持ち(ネームド)攻略者大活躍。海賊の大艦隊と魔物の大暴走(スタンピード)、見事撃退。だってさ」

 サクヤは新聞を広げ見出しを読み上げる。一面には港に降り立つ攻略者の写真が大きく載せられていた。それを聞いたアンジーは不満気な顔をする。

「私達のことは書いてねえのかよ。自分で言うのは何だけど騒動のMVPだろ」

「えっとね、私達のことは…あった。このページだ」

 新聞を机に置き、自由の冒険団に関する記事が書かれたページを開く。だが三人はそれでも見つけられず、首を傾げる。

「どれだ?」

「ほらここだよここ」

 サクヤは端を指差す。そこにはほんの数行だけ自由の冒険団に関する記述があった。イチは目を凝らしながら一字ずつ声に出す。

「自由の冒険団、街の荒くれ相手に大暴れ。あげく倒れた者達を前に記念撮影。正当防衛は成立したが、やりすぎとの声も。これではどちらが荒くれかわからない」

「何だよ結局私らの批判じゃねえか」

「さすがに撮影はやりすぎだったかな」

「でも、勇者関係なく自由の冒険団として取り上げられたのは初めてだね」

「初めてがこれだと素直に喜べんがな」

「ゾイド、そういうのは野暮ってもんだぜ。この調子でどんどん私らの名を広めていこうぜ。勇者なんて忘れるくらいにな」

「だからって悪名を広めてどうする」

「悪名は無名に勝るとも言うぞ」

「そんなものは犯罪者の言い訳だ」

「真面目な奴だ」

 そんな四人の元へ一人の兵士が駆け寄る。それはゾイドの元同僚でどこか焦った様子だった。

「ゾイド」

「おう。久しぶりだな。そんなに慌ててどうした?」

「いや。それが」

 兵士はバツが悪そうに一枚の羊皮紙を見せる。

「お前達に逮捕状が出てるんだが」

「は?」

 ゾイドは元同僚の手から紙を奪い中身を確認する。

「罪状は…傷害罪、だと?しかも相手は貴族の娘?」

「どういう冗談だ?そんなもの記憶にねえぞ」

「イタズラかなぁ。もし本物だったら弁護士に相談しないと」

「そんな金どこにあるってんだ?」

「いや。本物だぞこれ。しかも、これはそう簡単には」

「その通り」

 見るからに高価な白銀の鎧を身にまとった者達が四人を取り囲む。彼らは兵士の上級職である『騎士』、そして王国騎士団『竜の鱗』であった。彼らが出てくるのは国に危険を及ぼす大犯罪者の逮捕や魔物を討伐する場合である。兵士とは一線を画す戦闘力と特権を有し、独断での逮捕や処罰が認められている。

「不躾ですまないがご同行願おう」

「願おうって態度じゃねえぞ」

「これなら明日の一面は飾れそうだね」

「まいったな。また有名になっちまう」

「だから、悪名を広めてどうする」

 軽口を叩く四人であったが、さすがに抵抗の姿勢は見せず大人しく投降する。

 今回の騒動、まだもう少し長引くようであった。


 三百年以上の歴史を持ちかつて竜の加護を受けた若者によって興されたという伝説が残るドラローザ王国。その王都中央にそびえる巨大な王城ドラローザ城から一人の大男、この国の騎士団長、そして竜の爪団長『王国の守護者』ドミニクが会議を終え出てくる。ドミニクは王城前に止められた馬車に乗り込む。

「…今回の会議も問題なく終えたようですね」

「待ち合わせは栄光の塔ではなかったか?」

 馬車内の予期せぬ先客にドミニクは眉一つ動かさない。サングラスをかけた男は足を組みなおし薄ら笑いを浮かべる。

「いえね、こちらの用事も予定より早く終わったもので。それに…ここの方が色々と話もしやすいでしょう?」

「…何が聞きたいのだ?」

「まずは俺が招集された理由からお願いしましょうか。この俺を攻略者として竜の爪に入れる理由をね」

 ドミニクは男の問いに対して思考する様子を見せず、一間を置きあらかじめ答えを用意していたかのように淡々と答える。

「貴殿を招集したのはカグラザカがパーティーを抜け落ちた戦力の補強、そしてこの国を守るためだ」

「では次。なぜそのカグラザカに勇者を辞めさせたのです?」

「あの者に勇者の力は過ぎたものだからだ。身の丈に合わない力はいつか自身を亡ぼす」

 その答えに男は納得がいかない不満気な顔を見せる。

「そんなこと言って、カグラザカを不憫に思ったのでしょう?様々な思惑や利権にがんじがらめにされ自由を奪われ、あれじゃまるで『勇者』という名の木偶だ。知ってるんですよ?例の三人が栄光の塔へ侵入した日に警備をあえて薄くしていたことも、その他にも社長と結託して色々動いていたこともね」

 男が圧を強めるもドミニクが動じることは無い。

「…確かにカグラザカを不憫に思っていたことは事実だ。しかし勇者の力があの者にとって強大過ぎるというのもまた事実。…そして勇者や英雄と呼ばれる者は果たすべき役目がある。それを望んでもおらぬのに背負わせるものではない」

「…あなたは先の大戦での活躍を称えられ、今でも一部で勇者や英雄と呼ばれていましたね」

「ああ。それとあの者も」

「『大英雄』アデス・シュレイネス。あの人とあなたがいたから今の平和がある。あなた方は平和の象徴とも言われてますね」

「貴殿なら言わずともわかるだろう。我らが平和とは程遠い存在だと。戦うことしか能のない二人の若造が平和など担えるはずもなかろう」

「しかしこの平和を維持するためには虚像でもヒーローが必要。だからこそあなた方二人は『英雄』であり続けている」

「それが我らの贖罪であり、散っていった者達への手向けというものだ」

「世界はその役割を今度は『勇者』に背負わせようとしていた」

「平和なぞ一人に背負えるものでは無い。ましてや運命のイタズラで勇者になった者には重すぎる荷だ。…カグラザカは勇者の器ではない」

「それは…誰も勇者の器を持ち得ないのでは?」

「ふっその通りだ。…だがアリーシャの考えは違うようだがな」

「あの若造の?それはまた一体どんな?」

「アリーシャ曰く『誰もが勇者となれる可能性を持つ』だそうだ」

「それはまた立派なことで」

「アリーシャ一族が語る『勇者』とは、平和を担う者ではなく、誰かに勇気を与える者、だそうだ。その勇者達が活躍する場が『迷宮攻略』であり、勇者は『攻略者』と名を変え、人々に勇気を与える。特に人々から注目を集める者は通り名持ち(ネームド)となる。…昔、あやつの祖父が自信満々に語っておったな。いずれ本物の勇者も必要なくなる。そして…」

 『そうすればお前もアデスの野郎もどこにでもいるたった一人の人として生き、そして死ねる』そう続けた男の言葉と豪快な笑いを思い出したが、ドミニクは大切な友との記憶を胸の奥へとしまった。

「そして?」

「いや、なんでもない。ともかく迷宮攻略はアリーシャ一族、三代続く夢なのだ。その夢に『勇者カグラザカ』はいない」

「あなた方が勇者を辞めさせた理由はわかりました。しかし今回の件少々成果を焦りすぎでは?俺の情報が正しければ、何者かが勇者を傀儡にしようとしている又は命を狙われているはずだ」

「さすがの情報網だ。貴殿の言う通り、カグラザカは高度な洗脳魔法を受けていた。完全に洗脳される前に治療を施し事なきを得たがな」

 洗脳魔法という響きにさすがの男も驚きを隠せず、片手で頭を無造作に掻く。

「まさか洗脳魔法まで使われているとは…秘術中の秘術だぞ。しかし、よく魔法がかけられていると気づきましたね。あの手の魔法は弱い毒のように徐々に進行する。時間はかかるがそれ故に微力な魔力で俺ですらしっかり調べなければ気づけない。感づいたのは『聖母』マリーか?」

「最初に異変を感じたのはリィだ」

「へえ、あの子供が。勇者に盲目的な信仰に近い憧れを抱いているものだと思っていたが、しっかりカグラザカを一人の人間として見ていたのか。…しかし、それが事実なら尚のことあなたのもとに置いて守ってやるべきでは?」

「最初は我もそのように考えたが、アリーシャの若造が『星詠み』の占いによる結果を見せてきたのだ」

「占いとはまた酔狂なことだ。と言っても『星詠み』の占いはほぼ予言に近いから仕方ないか。それで占いではどんな結果が出たんです?」

「現状維持ならば『勇者の破滅』、それ以外は見えなかったそうだ」

「見えない?つまり?」

「結果が出ない。つまりはカグラザカが勇者を辞める選択肢はありえないということだ。何をしても勇者という運命からは逃げられず、破滅を待つ身。『星詠み』の占いはそれを示した」

「しかし、現に辞めてるじゃないですか」

「そう。本来これはありえないことらしい。カグラザカが勇者を辞めるきっかけとなったのは友人達、特にイチ・アマノ。そんな存在は『星詠み』にすら見えていなかった。カグラザカがアマノと路上で殴り合ったあの日、リィからカグラザカが勇者を辞めるかもしれないと聞いたアリーシャはそれに賭けることを選んだ。そしてそれを聞かされた我もそれに同意した」

「ありえないはずのことが起きようとしていた。それを知ったあなた達は先に待つ破滅より、論理的でないとわかりながらも不確定な未来を選んだわけですか」

「実際それが正しかったかはわかりはしないがな」

「過去の選択が正解かどうかは所詮結果論ですよ。言っても仕方ない」

「そのようだな。カグラザカが勇者を辞めたからと言って脅威がなくなったわけではない。先日の客船での襲撃事件、あれはカグラザカ又はその仲間たちを狙ったものの可能性が高い」

「こちらにも押収品の検査依頼が来てましたが、残念ながら情報はほとんど得られず。それに加え…実行犯は自害。捜査は難航、というわけですな。船だけに」

「敵が誰かも目的もわからぬ状況。そこで今アリーシャエンターテイメントは信頼できる戦力を探している」

「おやスルーですか。傷つきますね。しかし、俺は信頼してもらえているというわけですか、身に余る光栄だ。ただ…いくら身元がはっきりしていると言っても攻略者が全て信頼できるわけではないでしょう?」

「その調査も急いでやっている。だが内容が内容なのでな中々進んではおらぬ。特に通り名持ち(ネームド)の調査を重点的に行っておるが、勇者の命を狙ってはいないということが判明しても協力してくれるかは不明だがな」

「それぞれ立場がありますから。現時点でアリーシャが特に信頼を置いているのはあなたと傭兵組、通り名持ち(ネームド)だと『大英雄』『万屋』『無骨なる薔薇』の三人。あとは…この前の客船に乗ってた『桜姫』『嵐を呼ぶ巨人』『絶命の魔弾』も比較的信頼できるか」

「あ奴らの戦闘力は我が騎士団員をも凌ぐほどだが、信頼できるものは一人でも多い方が良い。だからこそ貴殿を呼んだのだ。現代魔法を百年早めたと言われる稀代の魔法使いをな」

 自身がなぜ突然呼びつけられたのか、合点がいったように「なるほど」と呟き男は自信に溢れた笑みを見せる。

「それならばこの国立魔法研究所『不可思議の箱(ヴンダーカンマー)』所長ディン・テズロ、喜んでお力添え致しましょう」

「感謝する。しかし意外だな貴殿が二言返事で引き受けてくれるとは」

「まあ、研究者としても迷宮は非常に魅力的ですしね。それに実を言うとね俺もガキの時分には勇者に憧れたものですよ。社長の言うことを信じるなら俺も勇者になれるってわけだ。ならばやるしかないでしょう…あと勇者の命を狙っているのが何者かは知らないが勇者を葬って終わりなんて有り得ないでしょうしね」

「その通りだ。国を守るためにも我は全力を尽くす」

「相変わらず見上げた愛国心だ。それで当の本人、カグラザカとその一行は今何をしてるんで?」

「今は四人仲良く檻の中だ」

 ドミニクの言葉にディンは思わず吹き出す。

「ふははっ。そいつは傑作じゃないですか。それで罪状は?まさか食い逃げじゃないでしょうね」

「勘違いするな。最近、あの四人に対して一部の権力者に怪しい動きがあったのでな、しばらく大人しくしてもらっているだけだ」

「冗談ですよ。しかしそれで逮捕は些かやりすぎでは?」

「先ほど話した襲撃事件が原因だ」

「ん?俺が聞いた話では表向きは海賊と海賊達が呼び寄せた魔物の大群を数名の通り名持ちが見事撃退、実際は何者かが裏で糸を引き海賊と魔物を利用し船を沈めようとしていた。それをあの四人が解決に大貢献、のはずだったが」

「そのやり方が少し問題なのだ」

「海賊船ごと大量の火薬でぶっ飛ばしたことが?」

「その衝撃で乗客が数名ケガを負い、その中には貴族の娘もおったそうだ」

「あー…はいはい。なんとなく察しはつきました。その娘の親、貴族様はお怒りになったと。で怒りの矛先が四人に向かいそうなので逮捕という形でひとまず怒りを収めさせようと」

「その通りだ」

「さすがに騎士団長ともなると色々大変そうですな」

「これからは貴殿の立場も最大限使わせてもらう。これだけ事情を話したのだ。その分しっかり働いてもらうつもりだ。頼んだぞ所長殿」

「承知致しました。厄介この上ないことに巻き込んでもらえて恐悦至極ですよ、団長殿」

 少し騒がしい新たな仲間と共にドミニクは栄光の塔へ向かう。


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