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ダンジョン・ブレイク――スキルコピーするだけで最強の俺、ダンジョンで恋も奪う  作者: 源 玄武(みなもとのげんぶ)


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第57話 知らない者と、知っている者

 中央ホールへ、人の波が押し込まれていく。


「走るな!」

「中央ホールに集まれ!」


 黒い装備に身を包んだテロリストたちが、館内の各所から人々を追い立てていた。


 誰もが恐怖に顔を強張らせながら、指示された場所へ移動していく。

 やがて中央ホールには、数百人もの人々が集められた。


 吹き抜けになった巨大な空間。

 普段ならイベントや商品の宣伝で賑わっている場所だ。


 彼らはすでに、館内の主要な出入口を封鎖している。

 数人ずつのグループに分かれ、各階や通路、エレベーター付近など、重要な場所を押さえていた。


 それぞれが自分の役割を理解し、無駄なく動いている。

 まるでダンジョンを攻略するために、役割を分担して進む探索者。

 しかし、彼らが今、攻略しようとしている場所はダンジョンではない。


 人々が何の疑いもなく過ごしていた、平穏な日常そのものだった。


 中央ステージ。

 そこへ、テロリストのリーダの男がゆっくりと歩み出る。

 

 集められた人々をゆっくりと見渡した。 


 ざわめきが少しずつ小さくなっていく。

 男の言葉を聞こうとしているわけではない。

 なぜか、口を閉ざしてしまっただけだった。


 男はそんな人々を見渡したあと、ステージ上に設置された大型モニターへ視線を向ける。


「政府に伝えろ。

 ダンジョンを知らない連中が、ダンジョンを管理する時代は終わった」

 

 男の瞳に、強い怒りが宿った。


 その言葉を合図にするように、中央ステージの大型モニターが点灯する。

 そこに映し出されたのは、政府が非公開しているダンジョン関連の資料だった。


《探索者は耐えない存在》


 政府の内部資料と思われるタイトルが表示されている。


 中央ホールにいた人々が、一斉にモニターを見上げた。

 最初は誰も意味が分からなかった。


 画面が切り替わる。


 探索者に関する極秘資料と思われる文章が並んでいた。


《探索者の戦闘継続能力について》


 『一般的な探索者は、魔物から二~三度の攻撃を受けた場合、致命傷となる可能性が高い』


「……二、三発?」


 探索者。

 ダンジョンに潜り、魔物と戦い、危険な場所から資源を持ち帰る者たち。

 テレビや動画サイトで見る彼らの姿は、一般人からすれば強靭な戦士に見える。

 画面に表示された資料は、そのイメージを簡単に覆していく。


『探索者は一般兵士と比較して高い身体能力を有するものの、致命傷に対する耐性は限定的。

 特に低階層探索者の場合、強力な魔物による攻撃を受けた際の生存率は低い』


「……いや。これ、そんなに驚く資料か?」

 小さく呟いたのは、群衆の中にいた一人の探索者だった。


「だよな」

 隣にいた別の探索者が振り返る。


「探索者なら普通に知ってる話だろ」

「いや、一般人には知られてないんじゃないか?」

「知られてないっていうか……調べれば普通に出てくるだろ」

「ネットで探せば分かる。探索者の戦闘動画なんて山ほどあるしな」

「政府公認の綺麗な動画じゃなくて、個人が上げてるやつを見れば一発だろ」

「掲示板まで見てれば、もっと早い」

「……ってことは、そこまで情報が回ってないのか」


「情弱すぎないか?」

 探索者たちは顔を見合わせた。


 周囲の一般人が、何を言っているのか分からないという顔で彼らを見る。


「……本当に知らないのか?」

 探索者たちが少し驚いた。


 そこには明確な差があった。


 一般人は、ニュースや政府発表を中心にダンジョンを知る。

 一方、探索者は違う。

 モニターに映し出された資料の一部は、探索者たちにとって決して未知の情報ではなかった。


 次のページへ切り替わった。


《未帰還者について》

 画面の中央に、その言葉が大きく表示される。


 さらに次のページには、探索者記録。


 探索者番号。

 年齢。

 探索階層。

 確認された日時。


 最後に、同じ文字が記されていた。

《戦死》


「……嘘だろ」

「こんなに……?」

「未帰還って、ほとんど死亡扱いなのか?」

 人々の間から、ざわめきが広がっていく。


 しかし、探索者たちの反応は違った。


「……多いな。

 でも、未帰還者が戦死扱いになること自体は珍しくない」


「ダンジョンだからな」


 それを聞いた一般人が振り返る。


「珍しくないって……」

「人が死んでるんだぞ?」


「だから俺たちは潜る前に情報を集めるんだ」

 探索者の男はモニターから目を離さなかった。


 画面には、さらに別の項目が表示された。


《若年探索者の投入について》


『若年探索者をリスクに晒すことは必要な犠牲』


 中央ホールの空気が、凍りついた。


「若年探索者って……子供ってこと?」

「学生の探索者もいるだろ……」

「待ってくれ。これ、本当に政府の資料なのか?」


 一人の探索者が、低い声で呟いた。


「……今、まさに燃料を投下してるよな」


「燃料?」


「このモールキャンペーンだよ」

 その言葉に、周囲の探索者たちが振り返る。


「今日、この場所に何人いると思う?」


「さあな、少なくとも、普段のモールとは比べものにならない」


「ついに百万人か」


「……百万人?」


「今回のキャンペーンで探索者が累計百万人規模に届くって話だろ」


 探索者は、周囲を見る。

 そこにいるのは、自分たち探索者だけではない。


「……考え深いな」

「感慨深い、な」


「訂正ありがとう」


 そんな小さなやり取りさえ、一般人には妙に重く聞こえた。 


 次に表示されたのは、さらに詳細な調査計画だった。


《ダンジョン内部情報の収集について》


 そこには、探索者たちを使った調査内容が細かく記録されている。


 誰も言葉を発しなかった。

 画面に映っているのは、探索者がダンジョンへ挑むための資料ではない。

 人間を使って実験を行っているかのような内容だった。

 さらに資料の一部には、探索者の死亡や負傷を前提とした記録まで残されている。


『死亡した探索者から得られた情報を次回探索へ反映。

 未帰還者の探索記録についても、可能な限り情報資源として活用』


 誰かが震える声で言った。


「人間を……データとして扱ってるのか……?

 探索者が死んだことまで、次の調査の材料にしてる……?」


 それまで政府に対して何の疑問も持っていなかった人々までもが、画面から目を離せなくなっていた。


 もちろん。

 この資料が本当に政府によって作成されたものなのか。

 どこまでが事実なのか。

 それを確認する術は、この場にいる人々にはない。


 テロリストのリーダーは、その反応を確認するようにゆっくりと口を開いた。


「お前たちは知らないだろう。

 安全な場所から見ているダンジョン攻略の映像。

 その裏側で、何人もの探索者が命を落としている。

 そして、何かあれば?自己責任だ」


 その言葉に、人々が反応した。


「探索者って、そんなに危険なのか?」

「でも、政府が管理してるんじゃ……」

「だったら、どうしてこんな資料を隠してるんだ?」


 小さな疑問が、次々と生まれていく。

 その中で一番混乱していたのが、桐谷恒一だった。


(これ……本当に政府の資料なのか?)

 探索者になったばかりの桐谷には、分からない。

 ダンジョンについて知らないことの方が多い。

 他の探索者が当然のように知っている情報も、彼には初めて聞くものばかりだった。


「黒田さん……探索者って……本当に、こんな扱いをされてるんですか?」


 黒田正芳はすぐには答えなかった。


「……少なくとも、俺たちが知ってる現実と、この資料が完全に無関係だとは言えない」


 黒田が桐谷を見る。


「資料に書いてあることを、そのまま全部信じるな」


桐谷「え?」


「政府の資料だろうが、テロリストが出してきた資料だろうが同じだ。

 本物かどうか確認できない以上、これは情報の一つだ」


 その言葉に、桐谷は息を呑んだ。

 黒田は静かに続ける。


「こいつらは、この情報をどう使うつもりなのか。

 それを考えた方がいい」


 桐谷が再びステージを見る。

 テロリストのリーダーが群衆を見渡していた。


 やがて、テロリストのリーダーが再び口を開いた。


「俺たちは今まで何度も訴えてきた! 

 探索者の安全を確保しろ、ダンジョンの情報を公開しろ、現場の声を聞けとな。

 だが、政府は俺たちの声に耳を貸さなかった! 

 だから今、俺たちはここにいる」


 群衆の中から、強い声が上がった。


「これ以上、探索者を使い捨てにするな!」


 別の誰かが続く。

 声が一つ、また一つと増えていく。

 もちろん、全員がテロリストに賛同したわけではない。

 恐怖に震えながら、ただ黙っている人もいる。


 しかし、先ほどまで恐怖だけに包まれていた中央ホールには、別の感情が生まれた。



 少し遡る。

 ショッピングモールの一角。

 遼と真琴は、先ほど衣装を購入した店へと戻っていた。

 

「……ここなら、少しは人目が少ないわね」


 真琴が足を止め、周囲を見回した。

 店内はすでに避難しているのか、店員の姿も客の姿もない。

 先ほどまで多くの客で賑わっていたはずの場所だったが、今は不気味なほど静まり返っている。


「助かりましたね。

 でも、どうして一度ここに戻ってきたんです?」

 遼は小さく息を吐いた。


「……遼。今の服装で、この先どうするつもり?」

 真琴の声が、いつになく低かった。


「どうって……」

 遼は自分の服装を見下ろした。

 そこにあるのは、先ほど真琴に選んでもらった服。


 今から向かうのは、テロリストたちが占拠している場所だ。


 戦闘になる可能性は極めて高い。

 そうなれば当然、服は汚れる。

 血が付着するかもしれない。

 最悪の場合、破れる可能性だってある


「……これで戦うのは、まずいですよね」


「だから着替えるわよ」

 真琴は即答した。


 こうして、お揃いの探索者装備に着替えた。


「これなら、思い切り動けます」

「ええ」


 二人は顔を見合わせ、同時に頷き、テロリストたちの待つ場所へ向かった。

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