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ダンジョン・ブレイク――スキルコピーするだけで最強の俺、ダンジョンで恋も奪う  作者: 源 玄武(みなもとのげんぶ)


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第53話 スピーカー越しの告白と、隣の拳

『……遼?』

 聞き慣れた声が、スピーカー越しに響く。

 

 その声を聞いた瞬間だった。

 胸の奥で張り詰めていた何かが、ふっとほどける。


『今、どこにいるのよ』


(……ああ、よかった)

 無事だ。

 ちゃんと、生きてる。

 それだけで、肩の力が抜けていくのが分かった。


『私、ずっと家で待ってたんだけど。帰ってくるって言ってたでしょ?』

 少し不機嫌そうで。

 その奥に、ほんのわずかな安堵が混じっているような声。


 白鳥亜里沙だった。


「わ、悪い……ダンジョンで色々あって……」


『連絡くらいしなさいよ、バカ』


「すみません……」


 怒られているのに、どこか心地いい。

 昔から変わらないその調子に、思わず苦笑が漏れた。


(……ほんと、いつも通りだな)



 無事を確認できた。

 声も聞けた。

 それだけで、もう十分な気がして。


 ――けど。


「それより亜里沙、ダンジョン潜ってるんだろ?」


『……はい?』


「ちゃんとやれてんのか? 変なパーティに入ってないか? 無茶してないか?」

 自分でも分かるくらい、言葉が早くなる。


「面倒事に巻き込まれてないだろうな? 変なやつに利用されたり」


『ちょ、ちょっと待って遼!?』

 慌てたような声が返ってくる。


『なにそれ、いきなり保護者モード入ってない!?』


「だって心配だろ!」

 思わず声が強くなる。


 隣から、くすっと小さな笑い声が聞こえた。


(……あ)

 そうだった。


 ちらりと視線を向けると、ベンチに腰掛けたままの真琴先輩がどこか楽しそうにこちらを見ている。


『大丈夫だって! ちゃんとしたパーティだし!』


「ほんとか?」


『ほんとほんと。リーダーもまともだし、サポートもいるし』


「……怪我は?」


『してないってば! むしろ遼の方がしてそうなんだけど?』


「してねぇよ!」

 反射的に否定する。

 嘘ではない。今朝のはノーカン。


『……そっか。遼』

 小さく、息を吐く音。


「ん?」


『ダンジョンで泊まるならさ』

 少しだけ声色が変わる。


『連絡くらいしてよね』


「……あ」


『女の子がいて、言いづらかったのかもしれないけどさ?』


「っ!?」

 反射的に、スマホを持つ指が動く。


 (切る!!)


 にこり。

 真琴先輩が、ものすごく綺麗な笑顔を浮かべていた。


 そして。

 首を、横に振る。


(……え)


 さらに、指先でジェスチャー。

 “切るな”とでも言うように、軽く空中をトントンと叩く。


(え、ちょ、ちょっと待ってください)


 その笑顔。

 柔らかいのに、圧がすごい。


(怖い怖い怖い怖い!!)


『遼が自慢げに話してたじゃん。癒しキャラの子』

 亜里沙の声が、妙に軽く続く。


「ぶっ!?」

 思わずむせた。


『ほら、水瀬優奈ちゃんだっけ?』


「ちょっ、なんで名前まで覚えてんだよ!?」


『覚えるでしょ普通!? あんなに語ってたら!』

 テンポよく返ってくる。

 やばい。完全にペース握られてる。


『高校の頃みたいに独占とかしないよ。ダンジョンでしょ? 寝泊まりくらい普通にあるでしょ、そういうの……でもさ』


 ほんの少しだけ、声が静かになる。


『私のことが、一番だよね?』


 空気が、変わった。

 冗談ではない。

 その奥にあるものが、はっきりと伝わってくる。

 答えを、求めている声だった。


(うわぁぁぁぁぁぁ!!)

 頭の中で警報が爆発する。


 横の、真琴先輩。

 完全に、無表情。


(怖えぇ!どうすんだよこれぇぇぇ!!)


 心臓が、さっきとは別の意味で限界まで跳ね上がる中。

 

 いや、まだ終わってない。

 終わるかどうかは、次の言葉にかかっている。


 誤魔化して逃げるか。

 いや。嘘は、つきたくない。


「……ああ、もちろんだろ」

 自分でも驚くくらい、まっすぐな声だった。


「お前のこと大事に思ってるからさ、心配するのも気にするのも当たり前だろ」


 ちら、と横を見る。

 真琴先輩のこめかみが、ぴくりと動いた気がした。


 だが、止まらない。


「その……一番、っていうかさ……お前のこと、他の誰より気にしてるのは本当だ」


 言ってしまった。


『……ふふ』

 スピーカー越しに、小さく笑う声。


『そっか』

 その一言に、わずかな温度が宿る。


『……うん。知ってたけどね。

 ありがと、遼』


 ギリッ。

 横から聞こえた、微かな音。


(え?)


 ゆっくりと視線を向ける。

 真琴先輩。

 にこりと笑っている。


 握られている拳。

 わずかに浮いた血管。


(あ、これいつでも殴れるやつだ)


『じゃあさ。帰り、いつになるの?』

 亜里沙の声が、軽く続く。


「え、あ、いや……それは……」


『またさ、水瀬さんと食べてくるの?』

「っ!?」


『いいよ、別に。ダンジョン帰りってお腹空くもんね』

 

 さらりと流す。


『……でもさ』

 その“でも”が、やけに重い。


『今夜もさ。また女の子の話して、私のこと嫉妬させるんでしょ?』


「なっ……!?」

 頭の中が一瞬、真っ白になる。


『……ふふ』

 小さく笑う声。

 

 その奥にある温度が少しだけ低い。


『まあ、いいけどね。

 もし相手が私じゃなかったらさ。

 とっくに、握りつぶされているよ』


 さらっと、とんでもないことを言った。


 ――ドン。


「ぐほっ!?」

 脇腹に、衝撃。

 真琴先輩の拳がめり込んでいた。


『……あれ?』

 スピーカー越しに、亜里沙の声がほんの少しだけトーンを変えた。

 さっきまでの軽い調子とは違う。

 “何かを感じ取った”ときの、あの声だ。


『今の音、なに?』


「え!? あ、いや、なんでもない! ちょっと……段差につまずいて……!」

 反射的に出た言い訳は、我ながらひどかった。


『遼、今どこにいるの』

 さっきと同じ言葉なのに、意味が違う。


「え、いや、その……外? というか……」

 言葉がしどろもどろになる。


 その横で。

 真琴先輩が、静かに微笑んでいた。

 しかも、今度は腕を組んで、完全に“続きをどうぞ”の姿勢。


(助けてくれぇぇぇ!!)

 だが当然、助けは来ない。


『怪我、してないよね?』


 その一言で、胸がぎゅっと締めつけられた。

 さっきまでの嫉妬混じりの軽口じゃない。

 本気の“心配”だった。


『さっきの音、普通じゃなかったよ』


「いや、ほんと大したことじゃ――」


『遼。無理してるときの声、分かるから』

 ぴたり、と遮られる。


「……っ」

 言葉が、詰まる。


 誤魔化そうとしていたはずなのに、

 その一言で全部見透かされた気がした。


『どこか痛めてない? 腕とか、足とか……ちゃんと動く?』


「……大丈夫だよ」

 今度は、少しだけゆっくりと言う。


「ほんとに、大したことない。ちょっとバランス崩しただけだから」


『……なら、いいけど』

 少しだけ、力が抜けたような声。


『でもさ』

「ん?」


『次、ちゃんと隠さず言ってよね。

 私、そういうの……一番嫌いなの知っているでしょ』


「……ああ」

 自然と、頷いていた。


 そのやり取りを隣で、真琴がじっと見ていた。

 ほんの少しだけ、目が細くなっている。


 少しの沈黙。

 通話越しでも分かる、落ち着いた空気。


『じゃあね、遼。あんまり遅くならないようにね』


「え? あ、もう切るのか?」


『なに? 寂しい?』


「いや別に!?」


『ふふ』

 くすっと笑う声。


 最後に、少しだけ間を置いて。


『……ほんと、無理しないでよ』

 今度こそ、真っ直ぐな声で。


 ――ピッ。

 通話が、切れた。


 静寂が戻る。

 さっきまでの声が嘘みたいに、周囲は静かだった。


「…………」

 スマホを見つめたまま、しばらく固まる。


 どっと疲れが押し寄せる。

 精神的な意味で。


 ふと、隣からの“気配”に気づく。


「……あの」

 恐る恐る、顔を向ける。

 真琴先輩。

 にこり。

 その笑顔の奥に、うっすらと漂う圧。


(あ、これ終わったやつだ)


「……随分と、楽しそうな会話だったわね?」


「い、いやこれはですね」

 言い訳を探す。

 探すけど、見つからない。


 その瞬間。

 ――ぐいっ。


「ちょ、先輩!?」

 襟を掴まれる。


「ちょっと、詳しく聞かせてもらいましょうか」


 さっきの通話。

 あれは“前哨戦”だったのかもしれない。

 本番はこれからだ!!

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