表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界帰りの最強魔術師、現実世界でも無双する。 ~唯一魔法が使える俺、なぜか英雄扱いされて困ってます~【26年5月発売】  作者: 茨木野


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

109/111

109.

 どこでもない場所に、闇があった。


 壁も床も天井もない。

 ただ、分厚い闇だけがある。


 その中心に、それはいた。


 無数の鎖が、四方八方から伸びている。

 岩に、空間そのものに、あるいは何も見えない虚空に根を張り、一つの存在をがんじがらめに縛り上げていた。


 災禍。


 名を持つ者は少ない。

 知る者はさらに少ない。

 だがこの国に生きる妖魔たちは、本能でわかっていた。


 あれは、触れてはならないものだと。


「……失敗、か」


 声は低く、静かだった。

 女の声だった。

 怒鳴るわけでも、嘆くわけでもない。

 ただ、事実を確認するような口調。


 それが余計に、重かった。


 鎖の外、闇の縁に人影があった。


 若い男だった。

 すらりとした長身に、仕立てのいい着物を無造作に羽織っている。

 腰には道具袋。

 顔には、薄い笑み。


 七福塵。


 妖刀を生み出した男。

 この国で最も危険な魔道具師と呼ばれる者。


「失敗、ですねえ」


 男は他人事のように繰り返した。


「まったく、困ったものです。あの二人にはそれなりの仕事をしてもらうつもりだったんですが」


「七福塵」


 災禍が口を開いた。

 鎖がぴんと張る。


「奴は、どこにいる」


「東京ですよ。元気にしています。今頃、女の子たちと仲良くやってるんじゃないですかねえ」


 男は楽しそうに言った。

 まるで、知り合いの近況を話すような気軽さで。


「なぜ連れてこない」


「連れてこれるなら、最初からそうしてますよ。あの子は、ちょっと規格外すぎる」


 七福塵は肩をすくめた。


「妖刀使いを二人ぶつけて、あの結果です。正面からやり合って勝てる手駒が、今のわたしにはいない。それだけの話」


「ならば、策を練れ」


「練ってますよ、ちゃんと」


 男は懐に手を入れ、小さな瓶を取り出した。

 中に、どろりとした黒い液体が揺れている。


「はい、今日の分」


 瓶を鎖の隙間から転がした。

 瓶は闇の中に消え、やがて低い音が響いた。


 災禍が、息を詰める。


「……貴様」


「なんですか」


「わかっていてやっている」


「何がですか?」


 七福塵は首を傾けた。

 顔には、ずっと同じ薄い笑みが張りついている。


 わかっていた。

 もちろん、わかっていた。


 あの瓶の中身は、災禍の呪力を凝縮したものだ。

 外に漏れ出た呪力を回収し、瓶に詰めて返す。

 一見すれば親切にも見える行為だが、実態は違う。


 自分の呪力を目の前に突きつけられた災禍は、本能的に取り戻そうとする。

 取り戻そうとすれば、呪力があふれる。

 あふれれば、また回収できる。


 苛立てば苛立つほど、呪力は増す。


「あなたはわたしの大事なお得意様です。それ以上でも、それ以下でもない」


 七福塵はさらりと言った。


「それより、次の手の話をしましょう」


 男は懐から一枚の紙を取り出した。


「正面から取りに行くのは、現状では無理です。だから、奴の方から来てもらう」


「……どういうことだ」


「大阪に来ますよ、あの子は。関西支部の件がありますからねえ」


 災禍が黙った。


「大阪で上手いことやれば、奴を手に入れる機会くらいは作れる。まあ、保証はしませんが」


「保証できないものを策と呼ぶな」


「策というのは、どれも保証できないものですよ」


 七福塵はあっさりと言い、道具袋を軽く叩いた。


「待っていてください。わたしが動きます」


 男の姿が、闇に溶けていく。


 最後まで、笑っていた。


 残されたのは、鎖と、女と、静寂だけだった。


 しばらくして、低い声が闇に響いた。


「……必ず来い、霧ヶ峰悠仁」


 鎖が軋む。


 封印は、まだ解けない。

 だが、少しずつ、確実に、何かが動きはじめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
大物感を出してる二人だけど、結局は雑魚でしかないんだよなぁ どんな愉快なオチが用意されているのか楽しみです
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ