第二十六話
凄まじい稲妻を放つ超高密度の氷弾。
対するは絶対の防御力を有するタングステンの全身鎧。
「この構図、前に岩石鎧と氷弾で決闘をしたときに似ているな!」
「懐かしいじゃないか! だが俺たちの魔法の練度は以前よりもはるかに高い。あの時の比ではないさ」
こうしている間にもどんどんエネルギーが増していく氷弾。確かに以前とは比べ物にならない力だ。
それに制御能力も向上している。俺ほどではないが、以前のジダオにあんな魔法の使い方はできなかった。
見ているだけならそう難しそうにも見えないが、超高密度の氷弾の生成、本来導電性を持たない氷に稲妻を宿らせる、圧倒的出力の推進力、回転。さらにあの突風は、氷弾の出力から現れたものではなく直接生み出されたものだ。
これだけの魔法をジダオは同時に扱えなかったはずだ。
そんな超高度な魔法が長いためののちついに放たれた。
「喰らいやがれ! 俺の最大魔法、雷氷砲だ!」
ジダオから放たれた雷氷砲は俺の反応速度をもってしても眼でとらえることができない速度で鎧にぶち当たってどでかい音を立てた。
その一撃だけで身体が砕け散るような衝撃だったが、タングステンの全身鎧が防いでくれた。
「ジダオ! お前の雷氷砲で俺の鎧は砕けないらしいぞ!」
正直超うれしい。あれだけ圧を放っていた雷氷砲を受け切れたんだ。これが嬉しくないずがない。
まあ地戴全盛りの肉体と鎧が無かったら胴体とその他がさよならバイバイしてたが。
「俺の雷氷砲はまだまだここからだ!」
受け止めた雷氷砲がさらに回転力を高め、俺の鎧を粉砕すべく推進力を増していく。
ジダオ、この雷氷砲に自然力をくっつけたまま撃ち込んできやがったのか。あいつお得意の圧縮は最大限には使っていないと。
このままだと俺の鎧はぶち抜かれる。そうなれば俺の負けは確定。
「悪いなジダオ、これは前の決闘とは違う。この雷氷砲を受け止めた時点で、俺は蝗魔王ワンの拳を受け切れる確信がついた。だからこっからは攻勢に出させてもらうぞ!」
体の向きを大きくずらして雷氷砲を後ろに流す。アフターケアも忘れちゃいない。即席だがタングステンの壁を後方に生成して雷氷砲を受け止める。
氷弾とか俺の弾丸くらいなら問題ないが、あんな威力の砲撃訓練上に流れたら大変だからな。
雷氷砲を流した勢いはそのままに、ジダオへ一直線に走り出す。距離をとることが不味いってのはわかった。今回は受け切れたがそう何発も喰らってやるわけにはいかない。
今までと同様、弾丸を撃って牽制しつつ距離を詰める。数発当てた程度ではジダオに響くわけないが、これを食らい続けてなんともないはずがない。
俺が距離を詰めるべく動き出した途端、ジダオは雷のような速さで駆け出していた。
さっきの雷氷砲ほどでないにしろ、弾丸をすべて吹き飛ばして突っ込んだジダオは俺の掛ける速度の比ではない。
「言っただろ! 体術の訓練もしていると! 近接戦でも有利が取れると思うなよ!」
迫ってきたジダオは勢いをそのままに前足を叩き込んできた。
とっさに水銀の盾でこれを防ぐ。攻撃を受け切るか、避けきるか。機動力も身体能力も劣ってる俺に選択肢なんか無いか。
ジダオの特殊攻撃によって腹に痛みが走るが、こんなの無視だ無視。地裁で強引に受け切って反撃。
俺に攻撃を当てるために超接近しているジダオの鼻先を短剣で切り付ける。
だがジダオの反応速度は一級。これを半歩引くだけで躱す。距離の管理もすさまじいな。
普段なら邪魔な武器はすぐに手放すが、今回は別、この戦いでは短剣がベストだった。
機動力の高いジダオにここまで近づかれては、槍や薙刀は振るえない。剣や刀であってもジダオの身体能力には追いつかない。
だからこその短剣だ。ジダオの攻撃を食らってしまう危険性はあるが、こちらもジダオに攻撃できる。
ジダオは防いだ足とは逆の足でさらに攻撃してくるが、地戴をさらに強化してこれを受け止める。
「なんだと!?」
だいぶ驚いてるようだな。それもそうか、ジダオはこの特殊攻撃に絶対の自信を持っていたはずだ。
だが俺はすぐに対応できた。さっき俺の自信を砕いてくれたように、俺もあいつの自信を砕いてやった。
前足をもろに受けて流石にノーダメージではないが、構わない。俺はそのまま身体をひねって短剣を再び食らわせる。
奴はこれを爪ではじいた。
この攻撃でも対応できるのか。まるで未来でも見えているようだ。ジダオは俺が攻撃を受け切って反撃してくるとは思っていなかったはずだ。
しかしこれは未来視の魔法ではない。ジダオでも流石にそんな魔法は使えないはずだ。ならこれは純粋な反応速度。人類をはるかに上回る反応速度と察知能力。
さらに速度を上げて短剣を切り付ける。水銀の槍も交えて追撃を仕掛けた。
しかしそのすべてをジダオは爪で受け止める。手数は俺の方がはるかに上。だがジダオは身体能力だけですべての攻撃をいなして見せる。
どんどんと短剣はすり減るし水銀の槍も砕け散る。壊れたそばから剣も水銀も修復し、追撃にロスタイムを生ませない。
クソが、俺の剣はただの鉄製だ。タングステンじゃない。これだけの威力の攻撃を受ければ当然砕ける。
だがジダオの爪はどうだ。あいつの爪に修復している様子はない。つまりはあいつの身体強化が俺の鉄よりも上ということだ。
このまま持久戦に持ち込まれては自然力を消費し続ける俺が不利になる。
ジダオの身体強化は体内で自然力を循環させたり出力を変化させたりしてるだけで、体外には放出されない。
ならば! 短期決戦に持ち込む。ジダオの身体強化を突破出来うる出力は俺にはない。だから俺にとれる手段は一つ。乱魔波だ。あれをジダオの体内に叩き込み一瞬でも身体強化を乱せれば勝ち筋がある。
既に音の速度よりも早く切り結んでいる俺たちの間に巨大な炎を生成する。
ジダオは氷域を即座に展開してこれを防ぐが、俺の狙いはそこにない。
短剣も水銀の槍も圧倒的な火力によって消え去る。だがこれでいい。ジダオもこっちの狙いが理解できていないようだ。
「これで終わりだ! ジダオ!」
拳に炎熱を宿らせジダオにたたきつける! ジダオは俺の拳は大したことないと思って躱そうともしない。ジダオお得意、カウンターを狙ってのことだろう。
だが今回の俺の拳は普通ではない。乱魔波を乗せた拳。
これがジダオの体内の自然力の統制を乱す。
本来遠距離攻撃とかの自然力の曖昧な魔法に対する技であり、肉体に宿る自然力を乱すのはとんでもなく難しいが、それでも効果はあった。
ジダオの身体強化は脆くなり、俺の拳が確かに通る。
流石の反射神経で身体強化を整えなおすがもう遅い! 体内に入り込んだ俺の自然力がお前の力を乱す!
「炎獄乱魔拳!!」
「ごばぁッ!」
ジダオは俺の拳を受けて思いっきり吹き飛ばされ、気を失った。
今回は俺の勝ちだな。
そういえば乱魔って無色転生に出ていましたよね。こんなところに読書歴が出てしまうとは。