閑話7-11 聖氷と闇炎の姉妹たちの会話
「じゃあ、一番強い王立学院の学長がいるんだったら、王都が一番安全じゃないの?」
クロネがもっともな疑問を告げた。
たしかに、お父様たちがかつて三人がかりで勝つことができなかった学長がいるのであれば、王都が一番安全だと思うだろう。
しかし、そう簡単な話ではないのだ。
「たしかに、最も安全でしょうね。あくまでも「王都で戦うこと」が前提であれば……」
「え?」
シルフィアの言葉にクロネは首を傾げる。
言葉の意味が分からないのだろう。
しかし、これは言葉の意味そのままである。
「王立学院の学長は王家との契約により、長期間王都から離れることができません」
「え? なにそれ?」
クロネは思わず聞き返してしまった。
初めて聞かされれば、驚く内容であろう。
だが、この国にも学長にもいろんな理由があるのだ。
「初代リクール王国国王との契約だそうです。リクール王国の王家の血筋を絶えさせないために、王家を守る矛となるということらしいです」
「矛? 普通は盾じゃないの?」
「攻撃から守るというよりは先に攻撃をして倒す方がメインなので、矛となったそうです」
「ああ、そういうこと……」
シルフィアの説明にクロネも納得する。
たしかに、私も最初はそこに引っかかった。
守るのに矛はおかしいでしょ、と。
まあ、今ではグレインお兄様やお父様たちを圧倒できる力の持ち主が「盾」とかそういうキャラじゃないと思うが……
「でも、王家で戦う分には最強なんでしょ? じゃあ、一番安全であることには変わりないと思うけど……」
「確かにその通りですが、あくまでそれは王都に敵が攻め入った場合に限ります」
「ん? どういうこと?」
クロネは首を傾げる。
まだわからないようだ。
まあ、確かに難しい話ではあるが……
「王都からそう遠くへ行けない学長にとって、王都に攻め入られることは自身のテリトリーに入ったことを意味します。そういう意味では、学長は最強に近いでしょう」
「そうよね」
「しかし、学長の行動範囲から大きく外れたところから攻撃をされれば、学長と言えども反撃をすることができません」
「契約のせいね。でも、それでも学長を倒すことは無理じゃないの?」
「どういうことでしょうか?」
今度はシルフィアが聞く番だった。
一体、クロネは何を言おうとしているのだろうか?
「学長は王都から離れていない。つまり、王都に攻撃を加えても、学長がどうにか対処をするんじゃないの?」
「なるほど……たしかにそうですね。クロネお嬢様の言う通りです」
「やった」
シルフィアが納得すると、クロネが嬉しそうに声を上げる。
自分の指摘が正しい事が嬉しかったのだろう。
普段は教えてもらう立場であるため、こういう風に逆の立場になると違う喜びが出てくるわけだ。
「ですが、学長の力も有限です」
「有限?」
しかし、再び始まったシルフィアの説明にクロネは首を傾げる。
わかっていないクロネにシルフィアは質問をする。
「クロネお嬢様は旦那さまやグレイン様がいつまでも戦えると思いますか?」
「え?」
「ゴブリンやオーク程度であれば、数百──いえ、数千体でも倒すことは可能でしょう。しかし、それよりも強力な魔物たちがその数──いえ、それ以上の数で襲い掛かってきた場合、どうなりますか?」
「……いくらグレインお兄様達でも難しい?」
「ええ、そういうことです。そして、それは学長にも当てはまります」
「……たしかにそうね」
シルフィアの説明にクロネは納得する。
お父様やグレインお兄様達に限界があるように、学長にも限界がある。
それは理解することができたのだろう。
しかし、クロネは再び質問する。
「でも、学長を相手にそんなことをできる人がいるのかな?」
「一人では──いえ、数十人、数百人単位でも難しいでしょうね。しかし、数千人、数万人と集まれば、わかりませんよ」
「理屈はわかるけど……どうも現実味がないなぁ」
「まあ、あくまでも理論上の話ですからね。実際にその通りになることはほとんどないでしょうね」
「じゃあ、考えるだけ意味ないんじゃ……」
シルフィアの説明にクロネがツッコミを入れる。
たしかにクロネの言う通りである。
しかし、それはあくまでもクロネの考えである。
「ですが、可能性は0ではありません。心配するに越したことはないですよ」
「……まあ、そうね」
シルフィアの指摘にクロネは納得する。
自分の考えが甘かったことに気が付いたのだろう。
たしかにほとんどあり得ない話かもしれない。
しかし、あり得ない話だったとしても、可能性は残っているのだ。
ならば、注意するに越したことはないわけだ。
「それに、学長を倒す──いえ、出し抜く方法は他にもありますがね」
「え? なにそれ?」
シルフィアがとんでもないことを言い始めた。
クロネは興味を持ったようで、思わず聞き返した。
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