閑話7-10 聖氷と闇炎の姉妹たちの会話
「第二王女様は私と同じ【聖属性】の魔力を持っているらしいわ」
「それは聞いたことがあるね。それで聖教国から「【聖女】として迎える」とか言われたんだっけ?」
私の言葉にクロネが聞いてくる。
たしかにその通りなのだが、少しはこちらにも配慮をしてほしいものである。
私もその被害にあったのだから……
まあ、それはクロネも同じか?
「でも、第二王女様ならハクアよりもだいぶましなんじゃない? 最上級の権力がある王家にいるんだから……」
「本当にそう思う?」
「え?」
私が聞き返すと、クロネは首を傾げる。
どうやらわかっていないようだ。
そんなクロネの様子にシルフィアが説明をする。
「クロネお嬢様、おそらくこの国で最も強固な守りなのは、おそらくこのカルヴァドス男爵領ですよ」
「え? なんで?」
シルフィアの説明にクロネが驚く。
どうやら本当にわかっていなかったようだ。
もしかすると、王家に対する期待が高いのかもしれない。
「カルヴァドス男爵領にはこの国で二番目に強いと言われているアレン=カルヴァドス男爵がいらっしゃいます」
「ん? 二番なの?」
クロネがあることに気が付いた。
普通に聞いていれば聞き流してしまうところなのに、妙なところに鋭い。
一番安全だと言っておきながら、この領地にいるのはこの国で二番目に強い男なのだ。
「おそらく一番強い者はこの数百年、変わっておりません」
「数百年? それはあり得ないんじゃないの?」
「いえ、あり得ますよ」
「なんで?」
シルフィアの言葉にクロネがさらに首を傾げる。
シルフィアを目の前にして、それを理解できないのか?
いや、クロネは人間であるという固定観念を持っているのかもしれない。
それにしても、気づくとは思うのだが……
「この国で一番強いのは王立学院の学長であるエルヴィスだと言われております」
「王立学院の学長が?」
「ちなみに王立学院の学長は1000年近く生きているエルフです」
「あっ!?」
ここでようやくクロネが気付いたようだ。
この世界に生きているのは人間だけではない。
人に近い姿をした者から、獣の姿をした者──場所によって、いろんな種族がいるのだ。
それをすべて平等だと受け入れているリクール王国に住んでいるのなら、それぐらいは常に念頭に置いておかないといけないと思うのだけど……
「でも、1000年近く生きていて、一番なのは数百年だけなの?」
「流石のエルヴィス殿も産まれたときから強かったわけではなかったようですしね。ですが、彼が一番強くなってから数百年の間に彼より強い者は現れていないらしいです」
「それはすごいわね。でも、お父様でも勝てないの?」
シルフィアの説明にクロネがそんなことを聞いた。
自分が大好きなグレインお兄様よりさらに強いお父様が勝てない人がいるのか、疑わしいのだろう。
私だって、最初は信じられなかった。
しかし、お父様から話を聞いて、無理だと悟ったのだ。
「私も聞いた話なのですが、旦那様はリオン様、ルシフェル様と共にエルヴィス殿に挑んだらしいのですが……」
「三人がかりで? 卑怯じゃない?」
クロネが驚愕の表情を浮かべる。
たしかに、彼女の言う通り卑怯である。
しかし、シルフィアは首を振った。
「たしかに決闘などの正式な戦いの場であれば、卑怯だと言われても仕方がないでしょう。しかし、旦那様たちがしたのはただの喧嘩です」
「喧嘩?」
「なんでも、一気にランクを上げた新人冒険者の高く伸びた鼻を叩き折るために行われていることらしいです。旦那様たちはその当時でトップクラスにランクを上げていましたから……」
「うわぁ、なにその風習……まあ、それなら戦ってもおかしくはないけど……」
クロネが嫌そうな表情を浮かべる。
いかにも冒険者らしい荒々しい風習なので、曲がりなりにも貴族令嬢であるクロネにとってはあまり好ましいものではなかったようだ。
ちなみに、私も駄目であった。
「新人で一気にランクを上げていた旦那様たちにエルヴィス殿が喧嘩を吹っ掛けたそうです。自信をつけていた当時の旦那様たちはその喧嘩を買い、やられてしまったわけです」
「うわぁ……でも、新人時代にやられたんだったら、実力をつけてからなら勝てるんじゃないの?」
クロネは良いところに気が付いた。
たしかに、お父様たちがやられたのは新人時代の時である。
いくら実力があろうとも、【生ける伝説】的な存在相手に勝つことも難しいだろう。
しかし、お父様たちも後々に伝説を作る冒険者たちだ。
それならば、いい勝負はできると思ったのだろう。
しかし、シルフィアは首を振る。
「それが旦那様たちは当時でも冒険者の中でトップクラスに迫る実力者だったらしいです。強くなることはできたでしょうが、それでも勝つことができるほど成長はできないと思ったそうです」
「そんなに強いの? 王都にいたときに遠くから見たことがあるけど、優しそうなイケメンに見えたけど……」
「旦那様曰く、「見た目に騙されるな。中身は真逆だぞ」だ、そうです」
「……腹の中は黒い、ということ?」
「まあ、そういうことでしょうね」
クロネの言葉にシルフィアが頷く。
この会話の中で、王立学院の学長への評価が一気に下がっていく。
この国で一番強いはずなのに……
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