閑話6-10 防具職人の驚きの日々
あらすじ、変えてみました。
「たしかにそんな理由があるのなら、俺が選ばれたのも納得だな」
「理解していただけて、よかったです」
ディフが納得した様子にモスコが安堵の表情を浮かべる。
納得してくれる可能性はかなり高いが、そうならない可能性も残っていたからである。
もしかすると、そのような危険な橋を渡りたくないとディフが思う可能性もなくはなかった。
一つ目の理由はともかく、二つ目の理由は職人にとっても危険な可能性があったからだ。
帝国や聖教国が情報を集めるために、ディフを狙う可能性があった。
ディフを誘拐するなんて計画も出てくる可能性もある。
もちろん、今回の件を知っているディフをむざむざ誘拐させるつもりは毛頭ないが、それでも帝国や聖教国がどこまでのことをやってくるかはわからない。
もしかすると、その情報を集めるために、とんでもない人員をつぎ込んでくる可能性もあるのだ。
リクール王国では考えられない、人の命すらも軽く扱うような作戦を立てたりするのだ。
そうなることも理解しているのだろう。
だが、ディフはそれを踏まえて、しっかりと納得してくれたのだ。
「とりあえず、俺は最善の仕事をするさ。こんな滅多にない機会に恵まれたんだから、それを逃す手はない」
「そう言っていただけると思っていましたよ」
にやりと笑うディフの言葉にモスコも笑みを浮かべる。
ここまでやる気を出してくれたのなら、仕事の方も相当期待できるだろう。
ディフの防具はもともと性能も品質も高いが、やはり職人の気持ちも大事になってくる。
大量生産を行うタイプであれば、均一の品質が大事になってくる。
しかし、ディフはそのタイプではなく、オーダーメイドで作るタイプなのだ。
作るごとに防具の品質は違ってくる。
といっても、どれもが一級品ではあるのだが……
「ん?」
「どうしましたか?」
と、ここでディフの表情が変わった。
それに気づいたモスコが思わず問いかける。
一体、どうしたのだろうか?
「そういえば、理由は三つと言ったよな? まだ三つ目を聞いていなかった」
「あ……そうですね」
ディフの指摘にモスコもようやく気付いた。
二つ目の話が重すぎたせいですべてを話してしまったと思っていたが、まだ三つ目の理由を告げていなかった。
その前にディフが納得した雰囲気だったのも、話し終えたと思った理由の一つではあったが……
「どういう理由なんだ? といっても、帝国や聖教国関連ほど重い理由ではないだろうが……」
ディフが軽く笑いながら、そんなことを言う。
彼も流石にもうこれ以上の理由はないと思っているのだろう。
そして、それは当たっていた。
「はい。三つ目は今回の件にドラゴンが関わっているということです」
「ん? どういうことだ?」
「今回の件を納得していただけるためには、必然的にオロスさんと会わなければいけません。そして、ドラゴンなんて伝説の存在と遭遇しても大丈夫な実力のある職人は……」
「……いないな」
モスコの説明にディフが割り込んだ。
モスコの説明を聞いているうちに、ディフの気持ちも大分落ちてしまっていた。
実力があるからこそ選ばれていると思っていた。
いや、それも理由の一端であろう。
二つ目の理由でも、ディフは他の職人よりも適任だと思っていた。
しかし、一番重点を置かれているのは、おそらく三番目の理由だったのだろう。
そんなディフの気持ちに気づいたのか、モスコも申し訳なさそうな表情で話を進める。
「どの業界もですが、ベテランの名職人と呼ばれる人たちは基本的に高齢です。そんな人たちがドラゴンと会おうものなら……」
「あった時点であの世へ逝っちまうかもな」
「はい……だからこそ、そんな人を選ぶわけにいきませんでした」
「俺なら問題はないだろうな。といっても、気絶はしちまったが……」
「気絶はしても、命を落とすことはないと思っていましたよ。まあ、あの時は驚きましたが……」
ディフの言葉にモスコが少し笑みを浮かべる。
本当に驚いてしまったのだろう。
オロス老の話では、気絶したのは俺が初めてだったようだ。
それを目の前で見たのなら、驚いてしかるべきだろう。
「しかし、まだ中堅の俺だからその程度で済んだが、ベテランの爺さんどもならあっという間にお陀仏だろうな」
「その可能性が高いですね。流石に死者を出すわけにもいきませんでしたから……」
「事前に知らせれば、大丈夫だった可能性は合ったんじゃないのか?」
ここでディフがふと気になったことを質問する。
いきなりドラゴンと会ったせいでディフは気絶するほど驚いてしまったのだ。
事前に何らかの情報を与えられていれば、少しは被害を抑えることができていたかもしれない
「ディフさんはドラゴンと会うと聞かされ、信じられますか?」
「……信じられないな」
「そのうえで実際に遭遇したら、どうなりますか?」
「……相当驚くだろうな」
だが、モスコの言葉を聞き、すぐに自分の考えが甘かったことに気が付いた。
事前に聞かされただけで、ドラゴンという存在に出会った衝撃が和らぐわけがないのだ。
いや、多少は和らぐのかもしれない。
だが、それでも相当な驚きになるはずである。
少なくとも、年を召した御老人であれば、ぽっくり逝ってしまうことは不可避なほどに……
「以上の理由で、ディフさんが選ばれたわけです。納得していただけましたか?」
「……ああ」
これ以上は無駄だとわかり、二人は話を終えた。
やる気を出させるためなのに、まさか最終的にこんな風に終わるとは二人も思っていなかった。
「「「……」」」
果たして、今回の計画は成功するのだろうか……二人の話を聞いていた周囲の人はそんな心配をしていた。
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