閑話6-9 防具職人の驚きの日々
あらすじ、変えてみました。
帝国──正式にはカイザル帝国。
リクール王国から北東方面にある国である。
間にはいくつかの小国が存在するが、その程度など些末なことであるようにリクール王国は帝国を脅威に感じている。
歴史上、何度も他国へ侵攻をするような国であり、リクール王国もその標的にされたことは何度もあった。
一番近いものでも、たった30年ほど前である。
帝国史上最も優れていると言われた、先々代皇帝の時代に行われたことだ。
だが、その侵攻は完全な失敗に終わった。
リクール王国にバランタイン伯爵を筆頭とする実力者たちが存在したからである。
いかに優れていようとも、皇帝は一人だけ。
前線で戦うようなことはできないので、侵攻は失敗に終わってしまったわけだ。
この戦いでバランタイン伯爵は【氷の微笑】と呼ばれるようになったわけだ。
それ以来、帝国による侵攻は行われてはいない。
しかし、いつまた侵攻されるかわからないので、リクール王国の上層部は警戒をしていた。
前回の侵攻も突然だったからだ。
聖教国──正式にはルミエール聖教国。
リクール王国から北西方面にある国であり、こちらも隣接はしていない。
【聖光教】という宗教集団が治めている国であり、国民全員が【聖光教】信者である異質な国である。
いや、それ自体は問題はないのかもしれない。
だが、それを他国へと強要するところが、たびたび問題になっている。
他国にも【聖光教】の信者は存在するのだが、その信者による強引な勧誘で迷惑を被っている者が多いらしい。
カルヴァドス男爵家もその被害にあったことがあるということは有名な話である。
ちなみに、【聖光教】自体は別に何の問題もない宗教である。
【聖光教】の創始者である【初代聖女】が多くの人々を救うために始めたのが、この宗教である。
その理念が今も続いているのであれば、問題はなかった。
しかし、時代の流れとは残酷なもので、宗教集団としては大きくなりすぎたこともあって、中枢部にいるほとんどの人間が私腹を肥やすような生臭坊主になり果ててしまっていた。
そういう人間が中枢に居座っているせいで、先ほどのような問題がまかり通ってしまっているわけである。
この二国はリクール王国と並ぶ人間の治める国の中でも最大規模の国である。
戦争に発展した場合、勝利をつかんだとしてもリクール王国もただでは済まない。
手を組まれでもしたら、敗色が濃厚になってくるだろう。
だからこそ、そんな国に戦争のきっかけを与えるわけにはいかないのだ。
それが今回の件ではドラゴンのことである。
帝国は「ドラゴンという強力な存在は帝国という強者の国にふさわしい」と。
聖教国は「そんな貴重なものを一国で扱うなどもってのほか。我が国によこせ」と。
そんな理不尽なことを言って、侵攻を始めるだろう。
まったくとんでもない国である。
流石にそんなことをさせるわけにはいかない。
だからこそ、情報は最小限にとどめておかなければいけないのだ。
「今のリクール王国であれば、その二国を相手にしても勝利をすることはできるでしょう」
「まあ、そうだな」
モスコの言葉にディフがある人物の姿を思い浮かべる。
それはまだ10歳になったばかりの少年である。
しかし、それは仮の姿──中身は大の大人顔負けの、たった一人で戦況を変えるような馬鹿げた力を持つ存在であった。
彼だけいれば、戦争に勝てるのではないか──そんなことを思ってしまうほどである。
しかも、そんな彼の周りには彼ほどではないが、かなりの実力者が揃っている。
いや、彼以上の実力者も幾人か存在している。
そんな状況下で戦争に負けるヴィジョンなど見えるはずがない。
しかし、それはあくまでも負ける可能性がないというだけだ。
「戦争が起こった時点で、多くの国民に被害が出ます。しかも、リクール王国だけならまだしも、他の国にも迷惑がかかります」
「それは問題だな」
モスコの言葉にディフは頷く。
戦争とは、戦闘を行う者同士が戦う決闘のようなものではない。
他国の力を削ぐために、無辜の民を襲撃したりすることも多いのだ。
戦争における一番の被害者は、戦闘の場となった場所の住人であろう。
これは相手の国へと攻め入り、自国の領地で戦端を開かせなければ、自国でそのような被害は出ない。
しかし、それはあくまでも攻め入った国の場合である。
基本的にリクール王国は戦争を自国からは始めない。
戦争に巻き込まれるときは、いつも攻め込まれてきていた。
今回の件だって、いろんな理屈をつけて攻め込まれることになるだろう。
情報が流れれば、の話ではあるが……
「まったく面倒な国もあったもんだな」
「ええ、そうですね。他にも力のある国があればいいのですが……」
「そんなものないだろ」
「もちろん、わかっていますよ」
ディフの指摘にモスコは苦笑を浮かべる。
現状、二国の横暴の抑止力となる国はリクール王国だけであった。
もちろん、他の国も二国の横暴を許さないというスタンスをとっているところもある。
しかし、一国では太刀打ちができない、リクール王国と共闘することでようやくそういう意見が言えるぐらいのところがほとんどなのだ。
「ビストやアビスが抑止力になれば、良いんだがな……」
「それは難しいでしょう。あの二国は特に……」
ディフの言葉にモスコは首を振る。
先ほど挙げた国は、獣人と魔族の国の中で最大規模であり、リクール王国と同盟関係にある国である。
国の規模であれば、帝国や聖教国に引けを取らない。
しかし、この二つの国が帝国や聖教国に文句を言えない──いや、言っても聞かない理由があった。
それはこの二国が【人間至上主義】の国であるからだ。
そのため、ビストやアビスがいくら国として大きくとも、人間ではない種族が治めている以上は下に見られてしまう。
間にリクール王国がなければ、奴隷にするために侵攻をしている可能性が高かった。
それほどまでに【人間至上主義】の悪い面が帝国と聖教国には出ていた。
「とりあえず、情報が伝わらないようにせざるを得ないわけです」
「ああ、理解できたよ」
モスコの言葉にディフはあっさりと答えた。
そのディフの言葉にモスコは笑みを浮かべたが、その顔は話す前よりも幾分やつれているように見えた。
もしかすると、すでに何らかの問題が起こっているのかもしれない。
モスコは世界を股に掛ける大商会の会頭だから……
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※戦争論については、作者の個人的な見解です。
実際にはもっといろんな思惑などがあるのでしょうが、作者は表面的にしか考えていません。
その結果、このようなことになっています。
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