閑話6-7 防具職人の驚きの日々
場の空気が落ち込んでいく。
本来は喜ぶべき事態のはずが、思わぬ問題が浮かび上がってきたからだ。
しかも、それを解決する手段が見つからない。
全員の気持ちが落ちていくのも仕方がない事だろう。
しかし、そんな中で話始める者がいた。
「一つ、良いかのう?」
オロスだった。
先ほどまで──兜の買い取り云々の話になってから会話に入っていなかった彼が問いかけてきた。
そんな彼にモスコが答える。
「なんでしょうか、オロスさん?」
「お主達は実力を伴わない冒険者に属性がついた武器や防具が渡らないようにしたいのじゃな?」
「ええ、そうですが……何か考えでも?」
オロスの言葉を聞き、モスコが聞き返す。
モスコ達でもここまで何も思いつかないのに、人間のことを知らないオロスが何を思いつくのだろうか?
期待はしていなかったが、一応聞いておくことにした。
そんなモスコの言葉にオロスは気にした様子もなく話始める。
「良し悪しを判断する力を見抜きたいのであれば、それ相応の方法を用意すればいいのではないかのう?」
「それが分からないから困っているのですが……」
オロスの言葉にモスコが少し呆れたように告げる。
話を聞いていたのだろうか、そんな心配がモスコの頭をよぎる。
しかし、オロスはそんな言葉を気にせず、話を続ける。
「冒険者たち自身に判断してもらえばいいんじゃないかのう?」
「冒険者自身に、ですか?」
オロスから出てきた言葉にモスコが少し興味を抱く。
先ほどまでは「話を聞いていないのではないか?」と失礼なことを考えていたのに、気になる案が出るとそちらに意識が向く。
こういう切り替えが商人には大事なのかもしれない。
「冒険者たちが試練を達成し、景品を貰うときにいくつかの選択肢を用意しておくのじゃ」
「いくつかの選択肢、ですか?」
「そうじゃ。例えば、一つ目は普通の兜、二つ目に粗悪な兜、三つ目に儂が【土属性】を付与した兜──といったように、景品の中に複数の兜を用意するのじゃよ」
「……それでどうするのですか?」
オロスの話にモスコが興味を惹かれた。
他のメンツも気になったのか、耳を傾けていた。
「この中から一つを選んでもらう。本物を見抜く力があれば三つ目を選ぶじゃろうし、ただのぼんくらであれば二つ目を選ぶことになるじゃろうな」
「そううまくいきますか? 見抜く力がなくとも、勘で当てる可能性もあるかもしれませんし……」
「その辺は見た目とかを変化させるのはどうじゃろうか? 例えば、儂の【土属性】を付与したものは一見地味にして、逆に粗悪なものは一番豪華にする。そうすれば、見抜く力がないものは、粗悪なものを選ぶと思うのじゃが?」
「……たしかにそうなるかもしれませんが、そのうちそれもばれそうですね?」
「あくまでもそれは一例じゃよ。すべてのものがそうなると、一番価値のある者しか選ばれなくなるじゃろうから、見た目はあくまでバラバラに──見抜く力があれば必ず手に入るようにするわけじゃ」
「……確かにいい案かもしれないですね」
オロスの説明にモスコが納得する。
他のメンツたちも話を聞いて、頷いていた。
反論はないようだ。
しかし、ディフが手を上げる。
「しかし、買い取りの方はどうするんだ? 結局は目利きができない者が粗悪品だと気付かずに持ち込んで、問題を起こす可能性が無くなっていないと思うが……」
「その点の対策もしておくべきじゃな。選んだものがどれほどの価値があるものか、他のものがどれほどの価値かを伝えよう。そうすれば、見抜く力がないボンクラでも、粗悪品を持ち込むような真似はせんじゃろう」
ディフの心配にオロスが解決案を出す。
たしかに、彼の言う通りにやれば、粗悪品を売りに来て問題を起こすボンクラは減るかもしれない。
しかし、まだ問題は残っている。
「だが、粗悪品を貴重なものと偽って買い取りをしようとしてくる奴も現れてくるんじゃないか? 相応の実力がある者ぐらいしか、見抜けないようなものがわかるのか?」
「その点は問題ないと思います」
「そうなのか?」
ディフの告げた問題に反応したのはモスコだった。
その言葉にディフは聞き返す。
「うちの職員の中にはそういうものを見抜く力を持っている者がいます。いわゆる【鑑定魔法】を使うことができる者たちですね」
「ああ、なるほど……商会には必要な人材だな」
モスコの言葉にディフが納得する。
たしかにモスコの言う通り、商会には【鑑定魔法】を使うことができる人材はいるだろう。
【鑑定魔法】──名前の通り、対象の情報を調べる魔法である。
そこそこ珍しい魔法ではあるが、決してすごいというわけではない。
ただただ対象の情報を手に入れることができるだけだからだ。
しかし、使いようによっては、かなり便利な魔法である。
例えば、戦闘の際に敵の情報を手に入れ、弱点をついたりできるわけだ。
「そういう人材にしっかりと判断してもらい、詐欺を行うような者を注意すればいいわけです」
「景品を得る時点で正解が出ているという情報が出回れば、自分に見抜く力がないと公言していることになるな。そうすれば、そういう輩は減ってくるわけか?」
「ええ、そういうことです」
ディフの言葉にモスコは頷いた。
話は良い方へと流れていった。
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