閑話6-6 防具職人の驚きの日々
「ほう、気づいたか?」
「ええ、もちろん」
オロスの言葉にディフが答える。
彼は手に持った瞬間、この兜に何が起こったのか理解した。
「【土属性】の魔力を付加した、といったところですか?」
「ああ、そうじゃ……しかし、まさか一発で見抜かれるとは驚いたのう」
ディフの言葉にオロスが少し驚いたような表情をする。
なぜなら、【土属性】の付加とは他の属性に比べると、見た目の変化が乏しいからである。
【炎属性】であれば炎を纏い、【氷属性】であれば氷を纏う。
唯一【土属性】よりもわかりづらいのは【風属性】ではあるのだが、それはあくまでも「風」という見えない性質が故である。
実際にその効果を試してみれば、【土属性】よりも格段にわかりやすい。
どうしてディフが見抜けたのかというと……
「これでも防具を作るのに金属を扱いますからね……金属の性質が変われば、わかりますよ」
「そこまで変わっているんですか? 見た目ではわかりませんが……」
ディフの言葉にモスコが食いついてきた。
彼の目利きをもっても、この変化はわからないようだ。
これを見抜くことができるのは、おそらく二種類の者たちだけだろう。
まずは、ディフのように金属などを扱うことに長けたもの。
彼らの経験則により、この変化を見抜くわけだ。
もう一つは魔力の扱いに長けた者たち。
これは防具に使われている金属の性質を【土属性】の魔力によって変化させているため、魔力を感じることができるならば、その変化もわかるわけである。
「まあ、わからなくても仕方がない。見た目だけなら、まったくと言って変化していないからな」
「そうなんですか? ですが、それだと冒険者が手に入れたときの感動が……」
ディフの言葉にモスコが悲観したように呟く。
これはダンジョンの中で手に入れることのできる宝にするためのものだ。
しかし、目に見える変化がないのは少しモスコとしては困ってしまう。
冒険者にとって、商品価値がわかりづらいからだ。
「そんなもの、気にする必要はないだろう。というか、見る奴が見れば、感動ぐらいはしてくれるだろう」
「まあ、そうなんですが……しかし、困りましたね」
「何がだ?」
「見た目で変化が分からない以上、この価値を冒険者がわからない可能性が出てくるわけですよ。そこで買い取りとかで問題が起こってくるわけで……」
「ああ、なるほど」
モスコの言葉に納得するディフ。
冒険者が武器や防具を手に入れた場合、それをそのまま使う可能性は決して高くはない。
自分が使わない武器や防具だったときは売ることで金にするわけだ。
そこで正しい価値を理解しているのなら、問題はない。
しかし、価値を理解できない冒険者の場合、買い取りをする際に何らかのトラブルを起こすわけである。
これは買い取る側であるモスコにとっては死活問題なのかもしれない。
「それを見抜くことができる冒険者にだけ手に入れられるようにする、とか?」
「難しいでしょうね。そもそも、それをどうやって判断するんですか?」
「……戦った実力?」
「実力のある冒険者は総じて見る目はあると思いますが、全員と言うわけではないですよ」「まあ、そうだな」
いろいろと案を出してみるディフではあるが、モスコはそれをすべて否定する。
残念ながら、二人にはこの問題を解決できる案はなかった。
ならば、当事者に近い人たちに聞けばいいのだ。
「お二人は何かいい案はありますか?」
「俺たちか?」
モスコはガルドとウィズに話しかける。
彼らは現役ではないが、冒険者として活動をしていた。
何らかの案を出してくれるかもしれない、モスコは期待したわけである。
ウィズが【土属性】を付与された兜を見ながら、考え込む。
「ん~、難しいですね。私は魔法使いですから、その兜に魔力がこもっているのは感じ取れます。しかし、すべての魔法使いがそれをできるわけではないでしょうね」
「そうなんですか?」
「ええ、魔法使いと言ってもピンキリですからね。このレベルだと、Cランク上位程度の実力はいるんじゃないですか?」
「結構必要ですね」
ウィズの言葉にモスコはがっかりする。
魔法だけでA級冒険者となったウィズが言うのだから、この情報は間違っていないのだろう。
Cランク上位──このレベル以上になってくると、冒険者全体の3割も満たない。
しかも、これはあくまでも魔法使いでの話だ。
近接戦闘も含めると、もっと酷い事になってしまうかもしれない。
不安な視線でモスコはガルドの方に視線を向ける。
ガルドは兜をまじまじと見ながら、触れる。
「ふむ……たしかにわかりづらいな。だが、普通の防具より頑丈であることはわかるな」
「そうなんですか?」
ガルドの言葉にモスコが反応する。
もしかすると──そんな期待を持ってしまったのだ。
しかし、返ってきた言葉は彼の期待を応えることはなかった。
「といっても、あくまで直感でわかるぐらいだ。おそらく、こんな芸当ができるのは冒険者の中でもかなり上位のやつだけだろうな。Bランク……いや、Aランク程度の実力はいるだろうな」
「……そうですか」
ガルドの言葉にモスコは落ち込む。
これで買い取りが苦労するのは決まったも同然だからである。
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