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【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第七章 成長した転生貴族は冒険者になる 【学院編2】
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閑話3-29 氷の微笑が鬼神に変わったとき 29


 執事に連れられ、アレン達はバランタイン伯爵の執務室に通された。

 昨日と同様、テーブルを挟んでバランタイン伯爵と対面に座らされた。

 だが、昨日と違う点がある。

 それは昨日はバランタイン伯爵の隣に座っていたはずのクリシアがアレンの隣に座っており、逆側にはエリザベスが座っていた。

 傍から見れば両手に華なわけだが、片方が自分の娘ならば、その父親はどう思うだろうか?

 確実に怒っているだろう。


「……クリス」


 バランタイン伯爵はまずクリシアに声をかけた。

 その声からはどのような感情かわからなかった。


「はい、お父様」

「よく帰ってきたな。何も問題はなかったか?」

「皆さん、よくしてくれましたから。初めてのお泊りも楽しかったです」

「……そうか」


 クリシアの無事を喜んでいるようではあったが、【お泊り】というワードを聞いた瞬間に少し体が震えた。

 これはかなり怒っているのかもしれない。

 クリシアにではない──アレンに対してである。

 そんなバランタイン伯爵の視線がアレンに向いた。

 その視線は鋭く、それだけで人を殺せそうだと錯覚するほどだった。


「さて、カルヴァドス男爵」

「……はい」


 バランタイン伯爵に話しかけられ、アレンは少し考えてから返事をした。

 ここで言い訳をしようかと考えたが、下手に言い訳をするよりは聞かれたことを答えた方がいいと判断したためである。

 そんなアレンのことを気にした様子もなく、バランタイン伯爵は話を続ける。


「シグルドに話は聞いた。クリスとの縁談を受け入れてくれるようだな」

「……はい」


 バランタイン伯爵の質問に頷く。

 ここは事実なので、否定することはなかった。

 おそらく、シグルドというのはあの執事の名前だろう。


「縁談を受け入れたのは良い選択だ。伯爵と言う立場で無理矢理迫ったように思うかもしれないが、男爵の立場であればそれが最良の選択だと思ってのことだ」

「……はい、それは理解しています」


 バランタイン伯爵の説明に頷く。

 別に最初からバランタイン伯爵が嫌がらせで縁談を持ってきたとは思っていない。

 クリシアから説明されるまでは正確な内容を理解できていなかったが、きちんと説明をされれば納得はできる。

 バランタイン伯爵はアレンのことを好んではいないが、だからといって嫌がらせをするほど嫌ってはいなかったわけだ。

 まあ、それが続いているのかはわからないが……


「だが、それ(・・)は許さないと言ったはずだが?」

「(ゾワッ)っ!?」


 いきなりバランタイン伯爵からのプレッシャーが膨れ上がった。

 表情を確認すると、それは【怒り】──今までこれほど怒っている人を見たことがない。

 【氷の微笑】と呼ばれているはずのバランタイン伯爵なのに、その表情は【鬼】とか【悪魔】とか呼ばれる方が合っているように感じた。

 アレンはいつでも対応できるように、準備はしておく。


「私の娘と結婚するのだ。当然、「クリスだけを幸せにするように」という意味で伝えたつもりだが……どうしてクリス以外の女性が隣にいるのだ?」


 さらにプレッシャーが膨れ上がった。

 娘をないがしろにしている(と思っている)父親の怒りがこれほどとは思わなかった。

 今まで戦ってきた魔物でも、これほどのプレッシャーを放つ者はいなかった。

 感情だけでこれほど強力になるのかと、アレンは新たな情報を手に入れた。

 まあ、この状況ではすでに意味がないわけだが……


「バランタイン伯爵、申し訳……」


 その状況に耐えきれなかったのか、エリザベスが口を開こうとする。

 それをアレンは手で制した。


「アレンっ!?」

「リズ先輩、ここは俺に任せてくれ」

「でも……」

「これは俺がどうにかするべき問題だ。だから、信じてくれ」

「……わかった」


 アレンの言葉にエリザベスは納得し、再びソファに座り直した。

 これは本音である。

 これほどのプレッシャーを放つ相手とエリザベスを話をさせるのはまずいとも思っていた。

 今はアレンに対して怒りを向けているが、流石にこれをエリザベスに向けさせるわけにはいかなかった。

 おそらく、本気で戦えばエリザベスが勝つ可能性は非常に低い。

 エリザベスはAランク冒険者ではあるが、対人戦闘にはあまり長けていない。

 昨日、暴漢に追い詰められていたのがいい例である。

 ならば、アレンが戦わざるを得ないだろう。

 そもそもアレンの問題でもあるのだし……


「アレン様」

「ん?」


 そんな緊迫感のある状況にクリシアがいきなり話しかけてきた。

 アレンはそちらを振り向く。

 そこには頬を膨らませたクリシアの姿があった。


「リズに言っていたのを、私にも言ってくれませんか?」

「え? なんで?」


 クリシアの言葉にアレンは本気で聞き返してしまった。

 どうしてこの状況でこんなことを言うのか、全く理解できなかったからである。


「私も「強大な敵の襲撃から好きな男性に守られる女性」というものをやってみたいんです。いいでしょう?」

「いや、その【強大な敵】はクリス様の父親なんですが……」


 クリシアの言葉に思わずツッコむアレン。

 この状況で何を考えているのだろうか?

 おそらくエリザベスに対して羨ましいと思っているのだろうが、状況を考えて欲しい。

 そもそもバランタイン伯爵の攻撃対象にクリシアが入ることはない。

 それならば、守る必要はないと思うのだが……

 あと、なぜかアレンの言葉の途中にバランタイン伯爵が一瞬体を震わせたのだが、一体何が理由だったのだろうか。


「カルヴァドス男爵」

「……はい」


 バランタイン伯爵がいきなり話しかけてきた。

 バランタイン伯爵に声を駆けられれば、話を中断せざるを得ない。

 再び真剣な表情でアレンはバランタイン伯爵に向き直った。

 バランタイン伯爵からは先ほどよりも鋭い視線を向けられた。

 怒りで魔力が漏れているのか、周囲の温度がかなり下がっているように感じる。

 「このまま、ここで魔法は放たないよな?」とアレンはそんな心配をしてしまう。

 だが、その心配は杞憂に終わった。


「私と【決闘】をしろ。逃げることは許さん」

「望むところです」


 いきなり襲い掛かるということはしてこなかった。

 バランタイン伯爵の提案をアレンは受け入れた。







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