閑話3-27 氷の微笑が鬼神に変わったとき 27
「それで、他に何か問題はあるの? 私のことが最難関だったみたいだけど……」
エリザベスがふと思い出したように質問してきた。
先ほどの会話から、自分のこと以外の問題があると考えたのだろう。
だが、それが解決されれば、あとはどうとでもなるとも思っていた。
なぜなら、自分の件が最難関であったためだ。
そんなエリザベスにクリシアが告げる。
「あとは私のお父様に今回の件を告げることですね」
「クリスのお父様って──バランタイン伯爵ってこと? それって、普通は一番緊張することじゃないの? 私へ告白する方がどうして難易度が高いのよっ!」
クリシアの言葉にエリスが少し考え、すぐにそのやばさに気が付いた。
そして、自分への告白の難易度の過大評価が過ぎることに文句を言う。
だが、そんなエリザベスにクリシアはあっさりと告げる。
「アレン様ですよ? 相手の父親に伝えるより、告白の方が難易度が高いに決まっているじゃないですか?」
「……それは否定できないけど」
「……いや、否定してよ」
クリシアの言葉に納得するエリザベス。
そこまであっさりと納得されるのは嫌だったアレンはこっそりと呟く。
だが、その呟きは誰も聞いていなかった。
「まあ、そこまで問題はないと私は思っています」
「そうなの? バランタイン伯爵は今回の件を認めているの?」
「いえ、認めていませんね。むしろ怒り狂うでしょう」
「いや、それは何を持って大丈夫なの? 相手の父親との対談において、最悪な状況だと思うんだけど……」
クリシアの態度とは裏腹に大変な状況だったので、エリザベスは思わず驚愕し、聞き返してしまう。
予想以上にとんでもない状況だったからである。
本当にそんな状況であれば、身を引くのも一つの選択肢だと考えてしまうほどだった。
「お父様は最初、アレン様が私を受け入れずにリズを取ろうとしたことに怒っていましたね」
「……まあ、それは怒るでしょうね」
クリスの説明にリズは状況を理解する。
おそらく、アレンが男爵になったことで、バランタイン伯爵から縁談の話を持ってきたのだろう。
それがバランタイン伯爵の考えか、クリシアの頼みかは背景を知らないエリザベスにはわからない。
だが、伯爵の娘であるクリシアを放って、平民であるエリザベスを選ぶことはバランタイン伯爵家にとっては馬鹿にされたと思われても仕方がない。
「というか、好意も伝えられていない状況でよくそんな啖呵を切れましたね。まだ付き合っている女性がいるならわかりますが、好意を伝えてすらいない女性がいるというのは自信満々に言うことじゃないでしょ」
「……否定できないわ」
「がふっ!?」
クリシアの毒舌によりアレンが傷ついた。
だが、反論はできない。
言っていることのすべてが事実だったからだ。
そもそも今回の問題はすべてアレンのへたれさが招いたことなので、彼に反論する権利はない。
ちなみに、言うだけ言った後にアレンのことを放ってクリシアは話を進めた。
「とりあえず、お父様は私に幸せな結婚をしてほしいわけです。つまり、今回の場合だとアレン様と相思相愛の結婚生活、と言ったところでしょうか?」
「……まあ、それが一番幸せね。でも、そこに私が現れてしまった、と」
「元々いたので、現れたわけでは……どちらかというと、私の方が泥棒猫の立場だと……」
「私の物ではなかったから、泥棒猫じゃないんじゃない? というか、今はそんなことはどうでもいいでしょ? それよりもバランタイン伯爵のことを考えないと……」
話題が逸れかけていたので、話を戻すエリザベス。
彼女は真面目なので、こういう風に話題が逸れるとすぐに戻そうとしてくれる。
会議とかにはうってつけの人材である。
冒険者ギルドの運営の会議とかにも、予定が合えば必ず参加をさせられる。
彼女がいれば、会議がスムーズに進行し、すぐに終わると評判だからである。
「まあ、お父様のことはさほど心配はしていませんよ」
「そうなの? 私にとっては、一番の難関だと思うんだけど……」
「一番の難関であるリズが何を言っているんですか? リズに告白を成功させたアレン様にこれ以上怖いものはないですよ」
「いや、そこまで評価されるのは……ものすごく恥ずかしいんだけど?」
いつまでも最難関扱いされることに若干照れるエリザベス。
普通、告白とはそこまで難易度が高いわけではない。
言うこと自体は恥ずかしいかもしれないが、告白をする時点で双方の好意はある一定を超えている可能性が高い。
告白する側に好意がなければ告白はしないし、相手が好意があると判断できなければ告白をすることはない。
そういう意味で、アレンは異常だったわけである。
どうして、今までできなかったのか……
「おそらく、お父様は今回の件を伝えれば、激怒してアレン様と決闘すると言い始めるでしょう」
「……その時点でとんでもない事だと思うけど?」
クリシアのあっさりとした言葉にエリザベスはツッコむ。
どこかこの娘もずれているとエリザベスは思い始めていた。
クリシアの父親であるバランタイン伯爵は先の戦争で多大な功績を与えた英雄──【氷の微笑】と呼ばれた傑物である。
そんな人を相手にできる人間が、この王都に何人いるだろうか?
対等に斬り結ぶぐらいなら、できる人はいるかもしれない。
だが、バランタイン伯爵は噂によると恐ろしく強い。
異名の通り【氷魔法】に長けているが、近接戦闘も難なくこなすことができる。
その二つを併用することにより、変幻自在な戦い方で相手をほんろうすると言われている。
彼を倒すためには、彼よりも圧倒的な魔法、魔法と近接戦闘で総合的に上回る、近接戦闘ですべてを破壊する──その三つのどれかが必要になってくる。
魔法が得意だとはいえ、エリザベスにとってはかつビジョンが浮かばない。
だが……
「アレン様なら大丈夫でしょう?」
「……たしかに」
クリシアの言う通り、アレンなら勝つビジョンが浮かぶ。
アレンは【身体強化】の魔法しか使えないが、元々の異常な身体能力がそれによりさらに跳ね上がる。
元々が身体能力に優れる獣人並なのに、【身体強化】を使うことで獣人を軽く凌駕するほどの近接戦闘を行うことができる。
現在、獣人の中でも最強と呼ばれる男と対等に戦うことができるほどだ。
そこから考えると、先ほどの三つ目の条件に該当するわけだ。
「とりあえず、すべては明日に決まります。私たちはアレン様を信じるだけですよ」
「明日っ!? 早くない?」
クリシアの言葉にエリザベスは驚き、大きな声を出してしまった。
そんなに早いとは思ってもいなかったのだろう。
だが、クリシアにとってはアレンが告白に成功したのだから、その勢いで話を進めるべきだと思っていたのだ。
流石にもうすでに夜になっているのだから、明日にはするべきだと思ったみたいだが……
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