7-165 死んだ社畜は領地経営について考える
「オロス老は付与ができるんですよね?」
「ああ、そうじゃな」
「なら、その力を使えばいいんですよ。武器や防具、アクセサリーなどはこちらが持ち込んで……」
「ふむ、なるほどのう……それなら、なんとかなるかな?」
俺の説明にオロス爺さんが考え込む。
品物がないのであれば、別の場所から持ってこればいいのだ。
そして、それをそのまま冒険者に渡しても意味がないので、【土属性】を付与することによってこのダンジョン特有のものにするのだ。
そうすれば、冒険者にとって探索したいダンジョンになるわけだ。
これについて、オロス爺さんは好印象を持ってくれているようだ。
だが、まだアストラ子爵の方は悩んでいた。
「だが、それは素材としてこちらが用意しなくてはならないだろう? 用意したいのは山々だが、それほど予算に余裕がある領地ではないのだが……」
アストラ子爵の方は予算の方が問題か……
たしかに子爵と言うのは貴族の爵位の中で下から二番目──普通に過ごすことはできるかもしれないが、一気にお金を使うことになるのはかなり厳しいのが現実だろう。
そんな状況で無理矢理お金を出させるわけにはいかない。
下手をすれば、崩壊してしまうことになりかねないからだ。
さて、どうするべきか……
いろいろと考えていると、ウィズさんが話に入ってきた。
「では、最初は冒険者たちの持っている武器や防具に【付与】するのはどうでしょう?」
「持っているものに?」
ウィズさんの提案に俺は聞き返す。
彼の言っている意味は理解できる。
だが、どうしてそのような提案をしたのか、それを聞きたかったのだ。
そんな俺の質問にウィズさんは説明する。
「現状、アストラ子爵領には大量の武器や防具を手に入れる予算はない──ならば、最初はその素材を冒険者自身に持ってきてもらえばいいのですよ」
「ふむ……なるほど。そうしたら、予算は浮くな。でも、それでは別にアストラ子爵家に何の旨味もないのでは?」
ウィズさんの説明に俺はそう質問する。
たしかにウィズさんの言う通りにすれば、アストラ子爵が予算を使うことは少ない。
だが、ローリスクにはローリターン──返ってくる恩恵が少なくなっているのだ。
そうならば、ダンジョンのある領地としての利点を活かせないと思うのだが……
「そうでもないですよ。アストラ子爵領にも十分な利点になります」
「そうですか?」
「はい。このダンジョンで自分の武器や防具に【土属性】を付与してもらえる──この情報だけで冒険者たちがたくさんやってくるでしょう」
「まあ、そうでしょうね」
「多くの冒険者たちが集まってくれば、自然と他の業種の人たちも集まってきます。宿屋、武器屋、防具屋、鍛冶屋等々──冒険者と密接に関わる職種の人たちにとっても儲け時ですからね」
「ああ、なるほど」
ウィズさんの説明に俺は彼の言いたいことがなんとなくわかってきた。
直接的な恩恵を受けるわけではなく、間接的に利益を得るようにしていけばいいのだ。
「そして、領地で商売をするのなら、領主に税を納めることになります。ダンジョン付近で商売をするのであれば、ほとんど成功することになるでしょう」
「成功すれば、さらに収入が上がるんですよね?」
「ええ、そういうことです」
俺の言葉にウィズさんは頷く。
やはり俺の思った通りだった。
たしかにそれはうまくいく可能性が高いと思う。
だが、失敗の可能性もまだある。
「ですが、そううまくいきますか? ダンジョンの近くならば、宿屋などは恩恵も受け続けることができるでしょう。ですが、武器屋や防具屋はどうでしょうか?」
「どういうことですか?」
「オロス老に【土属性】を付与してもらえば、それだけでかなり強くなるでしょう? そうすれば、そう何度も買い替えることにはならないと思いますが……」
「甘いですね、グレイン君」
「え?」
ウィズさんの言葉に俺は少し驚く。
何が甘いのだろうか?
驚く俺にウィズさんは説明をする。
「普通の冒険者は成長するにしたがって、武器や防具を新調していきます。その時の実力に見合ったものへと変えていくのですよ」
「そんなに変えるものですか?」
ウィズさんの説明に俺は首を傾げる。
言わんとしていることは理解できるが、そう何度も変えるようなことではないと思うのだが……
「グレイン君は異常な実力を持っているから、そう新調することはないんでしょうね。その異常な実力で強力な武器や防具を手に入れるせいで、滅多に壊れることもないでしょうし……」
「まあ、そうですね」
「ですが、一般的な冒険者はグレイン君のような異常な実力は持っていません。なら、実力に見合った武器を手に入れ、成長すれば次の武器を手に入れる。そうなるので、武器屋や防具屋も儲けることができるわけです」
「……なるほど」
ウィズさんの説明に所々引っかかることはあったが、納得することはできた。
たしかに俺にはわかりづらい事ではあった。
異常であることがこんなところで裏目に出るとは……
俺がそんなことを考えていると、ウィズさんがさらに説明を続ける。
「さらに、この儲けによりアストラ子爵がいろんな武器や防具を仕入れれば、さらによし」
「どうするんですか?」
「この周囲に集まった鍛冶屋では作ることができない武器や防具を集め、それをオロス老に【土属性】を付与してもらう。それを景品にして、さらに冒険者を呼び込むわけです」
「ああ、俺の言ったことをやるわけですね」
「はい、そういうことです。いわば、最初のはそのための布石のようなものです」
「なるほど……そうすれば、上手くはいきそうですね」
ウィズさんの説明に俺は納得する。
たしかに彼の言う通りすれば、上手くいきそうな気がする。
だが、これはあくまでも俺たちが言っているだけだ。
最終的な決定はアストラ子爵に委ねられるわけだ。
「この提案はどうですか?」
「いいのではないか? 私には否定する理由がない」
アストラ子爵に聞いてみると、あっさり受け入れられた。
もう少し考えた方がいい気がするのだが……いや、早く決定する分にはいいのか?
商売のチャンスと言うのは時期を逃せば、利益がだいぶ変わってくる。
一気に儲けるためには、そのチャンスを逃さないようにしなければいけない。
ならば、このチャンスを逃さないために、早く決めるにこしたことはないのかもしれない。
「では、オロス老。それでよろしいですか?」
「ええ、儂の方も大丈夫じゃよ」
アストラ子爵とオロス老があっさりと決定してしまった。
あまりにも簡単に決まってしまったので、周囲にいた者たちは少し驚いてしまった。
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