7-142 死んだ社畜は致命的なミスをする
全員の行動が決まったので、俺も再び戦闘に参加する。
この状況で俺がするべきなのは……
「【アクアジェット】」
俺は右手から水を放出する。
これは俺がアブソルシルバーイーターとの戦いに使った技である。
水流により物質を切断するので、ブレードとか剣を彷彿させる名前よりはこちらの方がよいと思ったのだ。
この頑丈なドラゴンを相手に通用するか試したい。
「はあっ!」
(ブワッ)
勢いよく放出された水がドラゴンの外皮に直撃する。
激しい衝突により周囲に水しぶきが飛び散っていた。
そして、少し水流をずらし……
「よし、削れているようだな」
ドラゴンの外皮が削れていることを確認した。
どうやらドラゴンの外皮は硬いには硬いが、アブソルシルバーイーターほどではないようだ。
まあ、あちらは数百・数千年単位で魔銀を取り込んだ異常な存在なので、比べる方がおかしいのかもしれないが……
そんなことを考えていると、削っていた外皮が再生していた。
この程度でも回復をするらしい。
よっぽど慎重なのか、それとも自動で回復するのか……
とりあえず、効くことがわかったので、この攻撃を続けることにする。
「おらあっ」
俺は次々にドラゴンの外皮を削っていった。
といっても、一ヶ所を削るのに数秒かかってしまうので、そう多くを削ることはできない。
ドラゴンからの反撃もあるので、それにも注意して動かないといけない。
魔法を発動することに集中するわけにもいかないのだ。
しかも、削っては回復をされているし……
(ヒュンッ)
「ちっ!?」
このドラゴン、かなり性格が悪いな。
俺が水流を向けようとした瞬間、死角から土の礫を放ってきやがる。
後ろからきている気配はわかったので、俺は上体を前に傾けて回避する。
そんなことをすれば、当然のように魔法は解除される。
(ゴッ)
「くっ!?」
回避した矢先、目の前に土の針が現れる。
最初に全員目がけて放たれた太い柱のようではない。
俺単体を殺すための──しかし、刺されば確実に致命傷になるような太さの針だった。
先端恐怖症であれば、かなりきつい光景ではないだろうか?
あいにくと、俺は先端恐怖症ではないが……
「はあっ」
(ブワッ)
こんな嫌らしい攻撃をされた意趣返しとして、再びドラゴンに水流を向ける。
胴体にちまちま攻撃していても意味はないかもしれない。
そう思った俺は奴の顔に水流を向けた。
水流は奴の左頬と首の境目のあたりに直撃した。
『GAAAAAAAAH!』
「む?」
俺が水流をぶつけた瞬間、ドラゴンは嫌がるような叫びをあげた。
その反応に俺は少し驚いた。
今までどれだけ外皮を削られようとも、回復をするだけでここまでの反応を示すことはなかった。
だが、顔付近を狙ったらこの反応……もしかすると、顔が弱点なのかもしれない。
これは有益な情報かもしれない。
「顔を狙えっ!」
俺は周囲に戦っている味方に向けて指示を出した。
この情報はまだ確定ではない。
だが、ドラゴンがあそこまでの反応を示したのであれば、期待しないわけにはいかない。
他に何かできることがあるわけでもないし……
ドラゴンの真正面にいた全員がドラゴンに向かって攻撃を放った。
(((((ドドドドドドドドドドッ)))))
いくつもの魔法の弾幕がドラゴンの顔を覆った。
激しい弾幕のせいで煙が沸き上がりドラゴンの顔が見えなくなった。
これはどうだ?
俺は少し期待を込めた表情で煙が晴れるのを待った。
煙が晴れ、そこに現れたのは……
「「「「「なっ!?」」」」」
無傷のドラゴンだった。
あれほどの攻撃を食らったのに、それを全く物ともしていないような表情だった。
といっても、ドラゴンの表情の種類はわからないのだが……
それでも、ダメージがないのはわかる。
少なくともダメージがあれば、もう少し痛がるような声を上げているはずだ。
「どうしてだ?」
俺は思わずそんなことを呟いてしまう。
先ほどの俺の攻撃でドラゴンは嫌そうな声を上げていた。
あれは顔に攻撃をされたことを嫌がっていたのではないのか?
水属性の魔法が弱点だったのか?
いや、それなら胴体にぶつけている間も嫌がるような声を上げていたはずだ。
なら、一体どうして……
予想外の出来事に俺は考え込んでしまう。
しかし、それがよくなかった。
「グレインっ!」
「え?」
誰の声かわからなかったが、その声に俺は意識を前に向ける。
すると、目の前には巨大な壁──いや、岩があった。
それを目視したのもつかの間──
(ゴッ)
「がはっ!?」
岩に全身に直撃し、俺は鈍い衝撃を受けた。
回避も防御もできていなかったせいで、衝撃をそのまま食らうことになってしまった。
しかも、悲劇なのはそれだけではない。
(ドオオオオオオオオオオオンッ)
「かっ……はっ……」
背中から壁へとぶつかり、肺の中から空気がもれた。
ひどく苦しく、視線の端から徐々に暗くなっていった。
(ガラガラガラ)
俺にぶつかってきた岩が重力に従い、地面へと落ちていった。
それに合わせて、俺の体も落下していった。
全身に全く力が入らない。
(これ、死ぬかも……)
薄れゆく意識の中、俺はそんなことを考えた。
二度目の世界に転生して10年──前世の分を足したとしても、早すぎる死に際だった。
「「「「「──っ!」」」」」
最後に耳元に何か聞こえてきたが、俺は何も理解できなかった。
そして、そのまま意識を失った。
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