7-132 死んだ社畜が出会ったダンジョンマスターは?
「「「「「……」」」」」
扉の向こうに足を踏み入れた俺たちは何も言わず、周囲を見渡す。
目の前に広がる光景はただの部屋だった。
いや、ただの部屋と言うのは語弊があるか?
一言で言うなら、広間という表現が正しいだろう。
人間なら一万人単位で入りそうなぐらい広く、向こう側の壁がかなり遠く感じるほどだった。
だが、それ以外何の変哲もない──いや、一つだけあった。
「なんだ、あれは?」
ウォーさんが俺たちの気持ちを代弁してくれた。
俺たちの目線の先には、小さな山? いや、丘があった。
土属性と言うダンジョンの特性上、ダンジョン内に土で出来た構造物があることは特段おかしなことではない。
しかし、目の前にあるのは明らかにおかしい。
異常に大きいのだ。
それはこのドーム状の広間の対角線上にそびえているのだが、これだけの距離があるのにかなりの大きさであることがわかるほどだ。
高さだけでも推定20mほど、頂上に登ってから身体強化して跳躍すれば天井にも届きそうなぐらいだ。
「……警戒した方がいいですね。おそらくあれが件のダンジョンマスターですよ」
「「「「「っ!?」」」」」
俺の言葉にその場にいた全員が武器を構えた。
いつ攻撃されてもおかしくないと気づいだのだろう。
そんな俺の言葉にカロンさんが答える。
「たしかにあれがダンジョンマスターのようだな。あれほどの威圧感、ダンジョンの魔物が何体集まっても感じることのない恐怖があるな」
「保有している魔力も膨大ですね。これほどの魔力を持っている魔物なんて、今まで出会ったことがありませんよ」
「そうなのか? ダンジョンマスターなら、膨大な魔力を持っている奴もいると思うが……」
「それにしても、ですよ。俺が想像していたよりもかなり強力な相手のようです」
俺は警戒を一切解かず、そう口にした。
それほどまでに目の前の敵が強大なのだ。
俺が今まで出会った者で一番魔力を保有しているのは学長である。
出会ってから三年経っているが、あいつの魔力の上限を把握することができていない。
だが、それでも目の前の相手が学長の何倍もの魔力を有していることは感じ取ることができるのだ。
正確な魔力量はわからないが……
「……攻撃してこないな」
ウォーさんがそんなことを呟く。
その言葉にその場にいた全員が頷いた。
目の前の敵がこの部屋の主であるならば、俺たちが部屋に入ってきた時点で気づいているはずだ。
これほどの強大な敵なら、それぐらいの索敵ならできるはずだ。
それなのに、何もしてこないということは俺たちを舐めているのだろうか?
そんな風に考えていると、不意に全身に悪寒があった。
(ぶるっ)
「全員、その場から離れろっ!」
「「「「「っ!?」」」」」
急な俺の指示に全員が一斉に反応する。
前衛で戦う者が近くの後衛たちを抱え、その場から退いた。
次の瞬間──
(((((ドドドドドドドドッ)))))
「「「「「っ!?」」」」」
先ほどまで俺たちがいた場所には、巨大な針が剣山のように現れていた。
太さは家を建てるための柱にも使えそうなぐらい太いのに、その先は人体など簡単に貫くことができそうなぐらい鋭かった。
これだけの現象、俺にもできないことはないかもしれないが、かなりの魔力を消費させられるだろう。
そして、こんなことを平然とやってのけた相手は……
『GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAH!』
先ほどの丘だと思っていたものだった。
全身を土の鱗で覆い、どれだけ身体能力を強化しようとも動かせそうにないほど巨大な姿。
こいつは……
「ドラゴンか?」
俺は目の前の相手を見て、そう呟いた。
俺の知るドラゴンたちとはまったく異なる姿ではあった。
しかし、それでも感じるプレッシャーはどこか似通っているようにも思えたのだ。
今までは味方側にいたので、危険を感じることもなかった。
だが、今は目の前で敵として相対している。
つまり、状況としてはかなりまずい。
「Aランクどころか、Sランクですら生ぬるいんじゃないのか?」
俺の言葉を聞いたウォーさんがそんなことを呟いた。
彼の言う通りだ。
ドラゴンというのはおとぎ話に登場するような伝説の魔物であり、一晩で大都市を灰燼にしたなんて話もあるぐらいなのだ。
そんな魔物がSランクなんて枠に収まるはずがない。
彼の反応はもっともである。
しかし、そんななか──
「おいおい、手ごたえがありそうな相手だな」
「「「「「っ!?」」」」」
一人だけ反応がおかしい奴がいた。
カロンさんである。
全員が驚いている中、彼だけは笑顔を浮かべていた。
視線を向ける俺たちに彼は笑顔で答えた。
「ドラゴンだぞ? 滅多に出会えない相手だぞ? だったら、戦いを楽しまないとな」
「「「「「……」」」」」
彼の言葉に全員が黙るしかなかった。
戦闘狂はどこまで行っても戦闘狂なのだ。
この場で彼の意見を否定することはただの時間の無駄である。
そもそも、俺たちはこいつを目の前にして逃げることはできないのだ。
結局は戦うことしかできないので、俺たちは再び各々の武器を構えた。
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