1-109 死んだ社畜はアストラ子爵領に到着する
王都から出発して3日後、俺たちは馬車に揺られながら進んでいた。
地図を見て、この先が目的地であることを確認する。
もう少しすれば、目的地に着くはずだ。
「ここがアストラ子爵領か」
森を抜け、目の前の光景に俺はそんな感想を漏らした。
広がるのは田畑であり、かなりの面積を占めているように見える。
これだけあれば、他領への輸出などで安定な収入を得ることができるだろう。
だが、あくまでそれだけである。
より上を目指すのであれば、もっと革新的な事をしなければいけない。
まあ、今は他の領地のことは置いておこう。
「グレイン、おかしくない?」
「なにがだ?」
シリウスの言葉に俺は聞き返す。
だが、なんとなく彼の言いたいことは予想できる。
察しの良い彼なら、個々のおかしな点に気づくことができるだろう。
「明らかに人がいなさすぎるよ。田畑なんだから、管理する人ぐらいいてもいいと思うんだけど……」
「たしかにそうだな。明らかにこれは異常だ」
シリウスの指摘に俺は頷く。
目の前に広がる広大な田畑から安定的な収入を得るためにはしっかりと管理をしないといけない。
そのためにはこのあたりに人員をつぎ込まないといけないのに、見たところちらほらとしか人がいない。
地平線の果てまで続いているように錯覚する広さなのに、見える範囲で片手で数えるほどしか人がいない。
これは明らかに少なすぎるだろう。
「これが【大量発生】の影響なのかな?」
「おそらくそうだろうな。もし、魔物がダンジョンからあふれ出したらすぐに逃げ出さないといけないし、農業をしているわけにはいかないんだろう」
「なるほどね」
「とりあえず、街に行こう。そこになら人はいるだろうし……」
俺は情報を得るために近くにあるだろう街へと向かっていった。
少し距離はあるが、建物がいくつか建っている場所が小さく見えていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
数十分後、俺たちはようやく街につくことができた。
まさか、こんなに時間がかかるとは思わなかった。
見える距離にあったのでもう少し早く着くと思っていたのだが、田畑のせいで街までの道が思ったより長かったのだ。
他領へとつながる道なのだから、もう少し使いやすくした方がいいと思うのだが……
そんな感想を持ってしまう。
「ん? なんだ?」
街の中心部へと向かっていると、ひと際賑わっている場所があった。
田畑に人があまりいないのとは打って変わって、そこには数百人規模の人だかりがあった。
この街にいる多くの人が集まっているのではないだろうか?
とりあえず、情報を集めたいので、俺たちはその人だかりに近づいていった。
といっても、集まっているのは大人がほとんどで俺は身長の関係で中心を見ることができない。
そのため、少しだけ離れた位置から見ることになるが……
人だかりの中心にいたのは一人の男だった。
年齢は40代前半と言ったところだろうか、元々はしっかりと鍛えていたのであろうが少しだらしないがガタイは非常に良かった。
顔には立派な髭をこさえており、そのおかげでかなり威厳のある風貌であった。
そんな男が人だかりの中心で高らかに宣言する。
「我が領民たちよ、安心しろ。すでに王都の冒険者ギルドへ救援要請を出しておるから、すぐにでも応援の冒険者たちがやってくる。そうすれば、この危機も無事に乗り切れるはずだ」
どうやら男はこの領地の主──アストラ子爵のようだ。
どうりで威厳のある風貌だと思った。
そんな彼の言うことだから、多くの領民たちは安心したような表情を浮かべる。
しかし、一部にはそんな領主の言葉を信じ切れず、不安げな表情を浮かべているが……
その一人が子爵に問いかける。
「領主様」
「なんだ?」
「本当に冒険者の方が来てくれて、助かるのでしょうか?」
「どういうことだ?」
領民の言葉に子爵は問いかかえす。
質問の意図がわからなかったのだろうか?
問い返された領民は口ごもりながらも答える。
「今回、ダンジョンで【大量発生】という現象が起きていると聞きました。我々領民には聞きなじみのない言葉ですが、それでもかなり危ないものであることはなんとなくではわかります。いくら冒険者の方が多く来ても、その状況をどうにかできるのでしょうか?」
「ふむ……不安な気持ちはわかるが、きっとできるはずだ。ダンジョンの問題をどうにかするのが、冒険者の仕事だからな」
領民の不安に子爵ははっきりと答える。
たしかに言う通りかもしれないが、別に冒険者の仕事はそれだけじゃないぞ?
ダンジョン自体がそこまで多いものでもないから、基本的にはその辺にいる魔物を狩ることがメインの仕事だし……
だが、そんな子爵の言葉も領民の不安を解消するには至らなかったようだ。
「ダンジョンが出来たおかげでこの街も潤うことになりました。多くの冒険者が来てくれたおかげです。ですが、この状況で解決できていないのに、冒険者が増えたことで解決できるんですか?」
領民がさらに発言する。
こちらの言わんとしていることは理解できる。
ダンジョンが発生したおかげで、この街には本来の王都に匹敵するぐらいの冒険者が集まっているはずだ。
その状況でどうこうできていないのに、冒険者が増えただけで解決できるとは思えないのだろう。
これは仕方がない事かもしれない。
そんな領民の言葉にアストラ子爵は再び口を開く。
「私が解決できると言ったらできるのだ。お前たち領民は安心して、日々を過ごしているがよい」
「……わかりました」
これ以上は何を言ってもいい返事が返ってくると思わなかったのだろう、領民はしぶしぶ質問をやめた。
その考えは正しい。
いくら正当な質問であれど、これ以上質問していれば子爵からの心証は悪くなっていたはずだ。
子爵がどのような人物かはわからないが、ここまでいろんなことを言われればあまりいい気持はしていないはずだ。
これからこの領地で過ごしていくうえで、あまり良い事にはならないだろう。
その領民が黙ってしまったので、ほかに誰も発言しようとしなくなった。
それで仕事が終わったと思ったのか、子爵はその場を立ち去ろうとするが……
「ちょっと待ってくれ」
「む?」
そんな子爵を止める者が現れた。
そこにいたのは二人の青年だった。
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