7-104 死んだ社畜は仲間を信じる
今回の一件、俺が行くしかないわけだが……
「これって、兄さんたちを連れて行っていいのか?」
俺は純粋な疑問を口にする。
そんな俺の言葉にシリウスたちがぎょっとした表情を浮かべる。
これは連れていく可能性があることに驚いているのではない。
連れて行かない可能性があることを示唆したことに驚いているのだ。
だが、別におかしい話ではない。
「現状で推定の危険度がBランク。俺はともかく兄さんたちが同行できるとは思えないんだが……」
「それはあくまで暫定のランクだから、君たちの実力なら、大丈夫だと思うが?」
俺の言葉にガルドさんがそんなことを言ってくる。
今までのクエストの評価は伝えているので、そこからそう評価したのだろう。
たしかにガルドさんの評価は正しい。
だが、それでも俺は不安なのだ。
「たしかに兄さんたちは一人でもBランクの魔物を相手取ることはできるでしょう。それは認めます」
「だろう? なら……」
「ですが、それはあくまでその実力がある、というだけです。まだまだ新人であることには変わりありませんから、実際にBランクの魔物を相手どれるかはわからないんですよ」
「むぅ……」
俺の言葉にガルドさんが口をつぐむ。
俺の指摘が正しい事がわかったからだろう。
別に俺は意地悪でそんなことを言っているわけではない。
これが他の人だったとしても、俺は同様の評価をしていただろう。
「信頼はしていますが、流石にそんな危険なところに兄さんたちを連れて行くわけには行けません。話を聞く限り、俺も気に掛けるほどの余裕はなさそうですしね」
「……たしかにそうだな。一応、俺もいっしょに行くつもりだが、流石に嬢ちゃんたちを守れるほどの余裕はないはずだ」
俺の言葉にガルドさんも頷く。
というか、ガルドさんも一緒に行ってくれるのか。
まあ、王都の冒険者ギルドのマスターとして、国内で起こった問題を解決する義務があるのだろう。
考えたら、当たり前の話だった。
「グレイン」
「ん?」
突然、シリウスが話しかけてくる。
振り向くと、そこには真剣な表情のシリウスがいた。
その後ろにいたアリスたちも真剣な表情だ。
一体、どうした?
「グレインは僕たちのことが信じられないのかい?」
「は?」
シリウスの質問に俺は思わず呆けた声を漏らしてしまう。
いきなりそんなことを聞かれても、すぐに答えられるわけがないだろう。
だが、そんな俺の様子にさらにシリウスは詰め寄ってくる。
「これでも僕たちはグレインを倒すほどの実力があるんだよ? それでも、信じられないかい?」
シリウスたちがここまで詰め寄ってくる理由は分かった。
たしかに二年前に唯一俺を倒したパーティーなのだから、連れて行ってもらえるぐらい信じてもらいたいだろう。
たしかに俺は彼らのことは信じている。
だが、今回の件は別だ。
「今回は俺ですら無事で済むかどうかはわからないんだ。そんな場所に連れていけるわけが……」
「だからでしょ?」
「え?」
今度はアリスが割り込んできた。
俺とシリウスの間に頭を割り込ませ、ずいっと俺に顔を近づけてくる。
あまりの勢いに軽く額をぶつけられた。
少し痛い。
だが、そんな俺の様子に気遣うことなく、アリスはさらに話を続ける。
「たしかに今回の件はグレインが私たちに気を回すことができないほど危険かもしれないわ。それは私たちだって、しっかりと理解しているわ」
「だったら、今回は残って……」
「だからこそ、私たちも手伝うべきじゃないかしら?」
「いや、でも……」
「グレインがダンジョンマスターを相手するのを集中できるように、私たちが周りの魔物たちを露払いすればいいじゃない」
「だ、だが……」
アリスの言葉に俺は言い返すことができない。
たしかに彼女の言っていることは理にかなっているからだ。
だが、それはあくまで理論上の話だ。
実際の戦いにおいて、理論の話だけをしていたら足元をすくわれてしまう。
危険があることには変わりないのだ。
でも、現状で俺に彼女を言い負かせるだけの手札がない。
一体、どうやって彼女を説き伏せればいいのか……
そんなことを考えていると、学長が会話に入ってきた。
「連れて行けばいいじゃないか」
「何をそんなことを……どれだけ危険があるかわからないんですよ?」
「だが、手が多いに越したことはないだろう? グレイン君だけよりも生存率は格段に上がると思うが?」
「ですが……」
学長の言い分に俺は言い返せない。
言っていることは向こうの方が正論だからだ。
俺は自分の感情で反対しているだけなのだから……
「連れて行くぐらいはいいんじゃないですか? 少しでも冒険者を増やした方が、アストラ子爵領への被害も減るでしょうし……」
「ウィズさん……」
ウィズさんもシリウスたちの帯同に賛成のようだ。
やはりこれは俺のわがままなのだろうか?
前世で一度死んでしまっている身としては、命の危険がある状況にわざわざ連れて行こうとは思わない。
しかし、これはあくまで俺のエゴであり、シリウスたちの感情を無視した考えなのだろう。
「……わかった。兄さんたちも来てくれ」
「「「「よしっ!」」」」
俺が折れると、シリウスたちが一斉に喜びの声を上げる。
これから命の危険がある場所に行くんだぞ?
まったく緊張感のない……だが、その様子に心に余裕を俺は感じることができた。
思ってたよりシリウスたちのことを信じていたのかもしれない。
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