7-103 死んだ社畜は最高戦力の立場を聞く
「それは構いませんが、それほど強いんだったら学長が行けばいいのでは?」
俺は純粋な疑問を投げかける。
悔しいが、俺よりも学長の方がまだまだ強い。
現状でどれほどの危険度かわからない状況ならば、少しでも強力な人間を送るに越したことはないだろう。
だが、そんな俺の言葉にガルドさんは首を振る。
「それは難しい」
「どうしてですか?」
俺は思わず聞き返してしまう。
それはそうだろう。
学長が行くことが一番の方法だと誰もが認めるものだと思うが……
「エルヴィス殿は王都を長期間あけることができないんだ」
「そうなんですか?」
ガルドさんの言葉を聞き、俺は学長に視線を向ける。
別に嘘をついているとは思わないが、こういうのは本人に聞くべきだと思ったからだ。
そんな俺の反応を受け、学長は肩をすくめる。
「ああ、本当だ」
「ダンジョンで【大量発生】が起こっているのに、ですか?」
国内でも未曽有の危機と言ってもいい状況だろう。
そんな状況で動くことができないとは、はたしている意味があるのだろうか?
心の中でそんなことを考えていると、学長が説明を始める。
「私はこの国の最高戦力だからね。下手に王都を空けるわけにはいかないのさ」
「わからないでもないですが、ちょっと行って、すぐに帰ることぐらいできるでしょう?」
学長の言葉に俺は思わずそんなことを言ってしまう。
普通の人なら片道3日だったとしても、学長ならその半分の時間でも行けるはずだが……
だが、そんな俺の言葉に学長は首を振る。
「行きたいのは山々だが、私が長期間王都を空ける場合には国王の許可を得ないといけないんだ」
「そうなんですか?」
「ああ。しかも、私の代わりになる人員を残さないといけないから、それを探すのにも時間がかかるんだよ」
「……なるほど」
学長がそうそう王都を空けることができない理由が理解できた。
たしかに最高戦力が抜けるのであれば、それに見合った代役を残さないといけないのは理解できる。
そして、そんな代役を担うことができる者がいない、ということも……
そんなわけで俺が納得したのを確認し、ガルドさんが俺に話しかける。
「というわけで、私ではなくグレイン君たちに行ってもらうのが一番だということだ」
「それは理解できました。ですが、現地に冒険者がかなりいるんじゃありませんでしたっけ?」
ほかにも気になった点を質問する。
たしか、件のアストラ子爵領のダンジョンは新しくできたため、多くの実力のある冒険者がそこにとどまっているという話だったはずだ。
王都の冒険者ギルドが閑古鳥が鳴いているほどなので、それ相応の実力者がダンジョンに行っているはずだが……
だが、こんな俺の質問にもガルドさんは首を振る。
「いや、本当に実力のある冒険者たちはダンジョンの近くにはいない」
「そうなんですか?」
「ああ。元々、今回のダンジョンはそこまで危険度が高く評価はされていなかったから、ダンジョン探索をしているのは高くともBランクの冒険者だったんだ。それ以上の高ランク冒険者は別のクエストを受けている者がほとんどだ」
「【大量発生】はそれほどまで危険なんですか?」
「ああ、もちろんだ。最低でも2ランク危険度が上がると言われている」
「アストラ子爵領のダンジョンは……」
「元々がDランクだったから、一気にBランクだな」
「ふむ」
たしかにかなり危険になったが、それでも対処はできないほどではないと思われる。
冒険者のBランクとダンジョンのBランクは決して同じとは言わないが、それでも複数のBランクの冒険者がいれば対処はできると思うのだが……
だが、そんな俺の考えに気付いたのか、ガルドさんが首を振る。
「しかし、さらなる問題がある」
「……なんですか?」
初めての出来事なので、事前の情報をしっかりと得ておきたい。
果たして、どんな問題があるのやら……
「ダンジョンでの【大量発生】はダンジョンマスターの存在によって起こされるのはさっきも言ったな?」
「ええ、そうみたいですね」
「つまり、この【大量発生】は魔物を全滅させるだけでは終わらず、ダンジョンマスターを討伐しないと終わらないんだ」
「……それは」
俺はどう反応すればいいのかわからなかった。
普通に考えれば、万の魔物を相手にするより、一体のダンジョンマスターを倒す方が難しくないと思う。
だが、それはあくまでも数での話だ。
万の魔物を大量発生させるほどのエネルギーをダンジョンマスターが有していることだから、それに応じた力を持っているわけで……
「そのダンジョンマスターの危険度はどれぐらいですか?」
「……推定でAランクだな。しかも、Sランクに限りなく近い可能性が高い」
「……」
言葉を失ってしまった。
状況は限りなく不味い。
まさかそんな奴が出てくるとは思わなかった。
現状、俺ですら相手にすることができるかわからないんだが……
「父さんとかを呼んだ方が……」
「連絡はすでに送っている。だが、あいつも領主だから、そう簡単に来てくれるとは思わないな」
「ですよね?」
期待はしていなかったが、流石に無理だったようだ。
まあ、これは仕方がない事だ。
いきなり呼ばれたって、アレンがそう簡単にやってこれるわけではないだろう。
カルヴァドス男爵領とアストラ子爵領はかなりの距離があるはずだし……
ということは……
「現状で俺が行くしかないわけか……」
俺は現状を口にし、大きくため息をつく。
これはまた面倒なことに巻き込まれたな。
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