7-98 中堅冒険者の仲間は信じる
視点が変わります。
といっても、グレイン君には戻りません。
後に二話ほどは……
「きゃあああああああああああっ!」
魔法陣に吸収された仲間を見て、サリーが悲鳴を上げた。
それはそうだろう。
普段は文句ばっかり言っているが、あいつのことを一番愛しているのはサリーなんだから……
鈍感なあいつと素直ではないサリーのせいで関係が進むことはなかったので、どうにかしてつきあわせようとしていたのが、俺とリンの考えだった。
しかし──
「落ち着きなさい、サリー」
「だ、だって……魔法陣に吸い込まれて……」
リンの言葉を聞いても、サリーは落ち着きを取り戻さない。
まあ、仲間が突然魔法陣に吸い込まれたら、それも仕方のない話かもしれない。
とりあえず、サリーのことはリンに任せよう。
俺はとりあえず、もう一方に声をかける。
「おい、大丈夫か?」
「え?」
「は、はい、大丈夫です」
俺の言葉に二人の男は答えた。
先ほどのエクレールとサンドラとかいう女性の仲間たちである。
二人も仲間が魔法陣に吸い込まれたのだから、もう少し慌てていると思ったのだが……
「お前たち、落ち着いているな?」
「え? そうですか?」
「ああ、普通はもう少し慌てるものだと思うが……もしかして、ダンジョンに何度も潜っているのか?」
「いえ、これが初めてですが……」
俺の質問に一人の男が答える。
やはりダンジョン初心者だったか……
しかし、それならどうしてこれほどまで落ち着いているのだろうか?
「どうしてそこまで落ち着いていられるんだ? うちのサリーほどでないにしろ、新人なら慌てると思うが……」
「それならあなたも落ち着いているじゃないですか」
「俺はこれでも中堅の冒険者だからな。お前たちとは経験が違うんだ。それと、俺のことはウォーと呼べ」
「わかりました、ウォーさん。僕はロットと言います」
「俺はヴォーパルです」
「ロットとヴォーパル、だな」
緊張感のない事をしているかもしれないが、俺たちはこの状況で自己紹介をしていた。
しかし、案外馬鹿にできないのだ。
なんせ、名前を知っておくことで、指示を出したりするのが早くなる。
冒険者にとって、必要な行動なのだ。
「ところで、どうしてお前たちはそんなに落ち着いているんだ? もしかしたら、あいつらが命の危険にさらされる可能性があるんだぞ?」
とりあえず、俺は気になったことを聞く。
こいつらの反応は明らかに心配していなかった。
魔法陣の向こうがどのようなものかわからないが、もしかすると命の危険を感じる可能性もあるのだ。
それなのに、どうしてここまで落ち着いているのか……
「あの二人──正確にいうと、エクレールの方はかなり強いですから」
「エクレール、というと金髪の方か?」
「ええ、そうです」
ロットの言葉に俺は金髪の少女の方を思い浮かべる。
たしかに、強そうだとは思った。
魔法については門外漢なので判断できないが、近接戦闘についてはかなりのレベルに達していると思う。
四肢の筋肉の付き方や身のこなしは俺でもうなるほどの素晴らしさだった。
しかし、それだけで安心するのはおかしいだろう。
「だが、魔法陣の先に恐ろしく強い魔物がいたら、どう考える? いくらそのエクレールと言う嬢ちゃんが強くとも、一人では勝てないだろう?」
「確かにその通りですが、サンドラもいますから」
「茶髪の嬢ちゃんが?」
俺は首を傾げる。
そんな俺の反応にロットがさらに説明を続ける。
「このダンジョンの魔物たちは正直なところ、サンドラ一人で対処できるレベルです。そのレベルのダンジョンで強い魔物が出たとしても、たかが知れているでしょう?」
「……その考えはわからないでもないが、甘いぞ。強力な魔物はどれだけ強いかはわからないんだぞ?」
「まあ、その通りですが……不思議と心配にはならないんですよね」
「なぜだ?」
「あの二人が組んだら、どんな魔物も倒せるぐらい強いんじゃないかと思ってしまうんですよね?」
「ふむ……」
ロットの言葉に俺は考え込む。
彼の言っていることは甘いとは思うが、それでもここまで言うのならば、それなりの実績があるのだろう。
ヴォーパルの方も同様の表情を浮かべているので、これが嘘でもはったりでもないことは確実だ。
まあ、この状況でそんなことを言う必要はないが……
「それに、ウォーさんだって、慌てていないじゃないですか。それにあちらのダガー使いさんも……」
「でも、魔法使いさんはものすごく慌ててますね」
ロットが俺とリンが落ち着いていることを指摘する。
ヴォーパルがサリーの慌てっぷりを指摘するが……
「まあ、俺たちはこういうことは経験があるからな。慌てても無駄だとわかっているんだ」
「なるほど」
「ちなみにサリーについては、大事な男が魔法陣に吸い込まれたということで納得してくれ」
「「わかりました」」
俺の言葉に二人は素直にうなずく。
ダンジョン初心者のおかげか、先輩である俺の言うことを素直に受け入れてくれる。
説明が非常にしやすい。
とりあえず、俺は最後にもう一つの理由を告げる。
「それに、あいつが一緒なら大丈夫だと俺は信じているのさ」
俺は魔法陣に吸い込まれた親友の顔を思い浮かべ、ニヤッと笑った。
そんな俺の表情に二人は不安げな表情を浮かべる。
おい、なんでそんな表情を……
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