7-82 死んだ社畜は憐れむ
「お前、何者だっ! 俺たち相手にそんなことを言うなんて、正気じゃないだろう」
「俺たちは王族だぞっ! この国に俺たちにそんなことを言う奴なんて、いて良い訳がないだろ」
双子の王子たちは俺に向かってそんなことを言ってくる。
おそらく、今までに自分たちに文句を言ってくるような奴に出会ったことがないのだろう。
それは仕方がないだろう。
二人は王族であり、この国の最高権力者の一族。
普通はそんなことを言われない。
たとえ悪い事をしたとしても注意をすることすら憚られるほどなのだから……
機嫌を損ねれば、忠言した者の命が危ういからだ。
だが、俺はそんなことを一切躊躇わない。
なぜなら、俺がこの程度の奴らに殺されることなどあるはずがないから。
「俺のことを知らないのか? 普段、どれだけ授業をサボって……いや、学院に来ていないのか?」
「なんだとっ! そもそも俺たちは学院に通う必要などないんだよ」
「ふんっ! 学院に通うなど凡人のやることだ。 俺たちのような天才は学院から「ぜひ籍を置いてください」と言われるぐらいだからな」
「……」
二人の言い分に俺は思わず憐みの目を向けてしまう。
なぜなら、二人は自分のことを過大評価どころでは済まないレベルで評価してしまっているからだ。
どうしてこんなに自分のことを上げることが出来るのだろうか?
普通の人間ならば、自分のことを過小評価するだろう。
自分のことを過大評価するナルシストな人物でも、これほどまでに自分を評価することはないだろう。
少なくとも、俺の見立てでは二人は平均以下どころか最低ランク並の能力値しかないのに、俺以上……いや、学長クラスだと自負しているようだ。
馬鹿じゃないのか?
「なんだ、その目は!」
「俺たちにそんな視線を向けるなんて、不敬だぞっ!」
俺の視線に気づいた二人はそんな文句を言ってくる。
だが、二人は気づくべきだろう。
憐みの視線を向けているのは俺だけではない。
シャル王女やイリアさん、さらには周囲にいる野次馬も可愛そうなものを見る目をしているのだから……
そんな状況で取り巻きの一人が気づく。
「あっ!? こいつ、グレイン=カルヴァドスじゃないのか?」
「グレイン=カルヴァドス?」
「誰だ、それは?」
取り巻きの言葉に王子たちは首を傾げる。
どうやら、二人は知らないようだ。
まあ、常識のないような二人が俺のような男爵家の次男坊を知っているはずがないだろうな。
学院では有名人ではあるが……
そんな状況で予想外の人物が口を開いた。
「カルヴァドス男爵家の次男ですね。8歳の時に王城でのパーティーで学長から直々にスカウトされ、飛び級で学院に入学した逸材です。現在、三回生で特別試験の試験官をしているようです」
イリアさんの兄だった。
流石に彼は知っているようだった。
イリアさん曰く、性格はともかく頭は非常に良い。
あのイリアさんが認めるぐらいだから、俺ぐらいの情報なら頭に入っているようだ。
「なに? 男爵家だと?」
「その程度の身分で俺たちに楯突いたのか?」
イリアさんの兄の言葉を聞いた二人の王子は俺の身分だけでそんなことを言い始めた。
いや、二人の言うことは別に理解できないわけではない。
たかが男爵──貴族の中での最下位の身分の家が国での最高位である王族に楯突いているわけだから、二人の考えは間違いではないのだ。
だが、俺は男爵家の人間ではあるが、そんなことを気にする必要がないのだ。
「お前、不敬罪で殺されたいのか?」
「そうだ。お前だけじゃなく、家族の命も奪うぞ?」
俺の身分を知った二人は口々に文句を言ってくる。
後ろにいる取り巻きたちも同様である。
俺が男爵家の人間だと知って、どんなことでも言っていいと思っているのだろう。
まあ、貴族社会において身分と言うのは大事である。
下の者が上の物に楯突くことはよくないし、上の者は下の者に何をしてもいいという風潮があるぐらいだ。
「……てめぇらにそんなことができるわけがないだろ?」
「「ひっ!?」」
まあ、俺はそんなことをされれば、ぶちぎれるぐらいはするが……
俺の口から出た低い声に双子王子一派は短い悲鳴を上げた。
威圧感たっぷりに声を出したから、それも原因か?
ちなみに、イリアさんの兄は表情を変えていなかった。
なかなか根性が据わっていると思ったが、よく見ると体の所々が震えている。
無反応を装っているが、どうやら怖かったようだ。
まあ、装うだけで充分すごいが……
とりあえず、話を進めよう。
「お前らは王族の癖に、カルヴァドス男爵家を知らないのか?」
「え?」
「何がだ?」
俺の質問に二人の王子は震えながらも呆けた声で答える。
どうやら本当に知らないようだ。
男爵家程度のことを知らなくてもいいと思っているのだろうか?
まあ、普通の男爵家ならば、それも仕方がないだろう。
いや、王族である以上はすべての貴族の情報を得ておくべきだろう。
すべての情報ではなく、その家の有名な特色程度は……
「あ、【巨人殺し】?」
「なんだ、それは?」
「大層な名前だが、それが男爵家と何の関係があるんだ?」
取り巻きの一人が口に出した言葉に二人の王子が反応する。
本当に知らないのか?
この国では本になるほど有名な話のはずなのに……
周囲の視線がさらに憐みの感情が増している。
この話を知らないことに本気でかわいそうだと思っているようだ。
仕方がない。
話してやることにしよう。
「俺の父親はアレン=カルヴァドス。かつてこの国を襲った未曽有の危機──巨人の魔物・ギガンテスを討伐したことによって、男爵位を受け賜わった男だよ」
「「なに?」」
俺の言葉に二人は怪訝そうな表情を浮かべた。
今度はなぜか怪訝そうな表情である。
なんでそんな表情を浮かべているのだろうか?
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主人公が自身の親の威を借りるようなことをしていますが、別にアレンのことを告げたのはあくまで自分が何者かを告げているだけです。
彼がここまで強気なのには他に理由がありますので……




