7-80 聖女な王女様はお母様が大好きです
「とっととこの学院から去れよ。王族もやめろよ」
「卑しい身分の女の娘なんだったら、男に媚びて生きていくことぐらいできるだろ?」
二人の王子がシャル王女相手に口々に悪口を言う。
正直、王族が発するべき言葉ではないと思う。
こんな言葉を使っていたという理由で、彼らの王位継承権は剥奪にはならないだろうか?
まあ、流石にそうはならないだろうが……
そろそろ助けに入るべきか……そんなことを悩んでいたら、いきなり状況が変わった。
「うるさいっ!」
「「「「「っ!?」」」」」
なぜなら、シャル王女がいきなり大声を出したからだ。
先ほどまでは二人の王子の悪口に言い返さず、ただただ黙っていただけだったのに……
なぜかいきなり叫んだのだ。
叫ばれた王子と取り巻きたちだけではなく、俺やイリアさん、周囲で傍観していた人たちも驚いていた。
そんな騒然とした雰囲気の中、シャル王女は怒りの表情で言葉を発した。
「別に私のことで悪口を言うのは構わないわ。どうせ、お兄様に勝てないから、唯一と言っていいほどの弱点である私に攻撃してるんでしょう? 感情的には理解したくはないけど、合理的だわ」
「なにっ!?」
「な、なまいきだぞ?」
シャル王女の言葉に二人の王子が慌てた様子になる。
図星だとはいえ、あっさりとそれをわかるような対応をするのは愚策だな。
人の上に立つ上で、たとえ事実を指摘されても平気な顔をして流すことが出来るようにならないと王族というものは務まらないのではないだろうか?
そういう点でも、この二人に次の王様は向かないと思う。
ちなみに彼女のお兄様と言うのは、つい先日卒業したばかりで現在海外留学中の第一王子のことで、シャル王女と同じ側妃を母に持っている。
しかし、彼女がこんな風に怒るのは珍しいな。
一体、何が彼女の怒りの原因なんだろうか……
「けれど、お母様のことを馬鹿にすることだけは許せない。たしかに正妃にはなれない身分の出身だったから側妃になったけど、決して他人から批判されるようなことではないわ。むしろ、お父様を惚れさせた魅力を褒めるべきよ」
シャル王女は高らかに宣言した。
ふむ、どうやら彼女が怒った理由は母親を馬鹿にされたことなのだろう。
すでに故人である彼女の母親は、国王様の第二側妃であり、最も寵愛を受けていたと聞いている。
その寵愛を受けていたせいで、正妃様の怒りを買って、秘密裏に殺されたと噂されているが……
「ふんっ! どうせ、色仕掛けでもしたんだろ?」
「所詮は売女さ。そうしないと、側妃にすらなれなかったんだ」
だが、シャル王女の言葉を聞いても、二人の王子は暴言を止めなかった。
おそらく、それは自分たちの母親のことを考えているのだろう。
第二側妃に国王様からの愛を受けることで正妃が負ける。
一番目の妻として、これ以上の屈辱はないだろうから……
(ブワッ)
シャル王女の両手に魔力が集まっていく。
これはかなり不味い状況だ。
こんな近距離に人が集まっている状況で魔法を使うのはかなりまずい。
しかも、シャル王女はまだまだ魔力の操作が覚束ない──といっても、二年前に比べれば、だいぶマシにはなっているが……
とりあえず、この状況で周囲の人に当てずに二人の王子だけに攻撃を当てることが出来るほどの技量はないのだ。
最低でも、後ろにいる取り巻きたちは確実に巻き込まれる。
別に馬鹿にしていた相手なのでそこは構わないが、周囲の野次馬たちを巻き込むのは流石にまずい。
さらなる攻撃の材料を与えてしまうことになってしまうからだ。
というか、王子たちも逃げろよ。
そう思ったのだが、王子たちと取り巻きたちに動く気配はない。
シャルが魔法を使おうとしているのを、全く気付いていない様子だった。
いや、唯一イリアさんの兄だけは気づいている様子だった。
しかし、落ち着いた様子でただただシャル王女のことを見ているだけだった。
一体、何を考えているのか……
「光の──」
「はい、ストップ」
シャル王女が魔法を放とうと右手を振りかぶった瞬間、俺は飛び出して彼女の腕を掴んだ。
ついでに彼女の腕から集まった魔力を奪い、魔法の発動を止めた。
いきなり現れた俺に気付き、シャル王女が驚く。
「ぐ、グレイン君? どうしてここに?」
「魔法を教えてもらう時に言われませんでしたか? こんな人の多いところで魔法は使ってはいけない、と」
「う……でも……」
「でも、じゃありません。魔法を使う者として、このルールはしっかりと守らないといけませんよ。誰かがこのルールを守らなければ、他の魔法使いも周囲から悪感情を向けられることになりますから」
「……ごめんなさい」
「はい、よろしい」
俺の言葉に彼女は素直に謝罪してくれる。
自分がどんな問題行動をしたのか、理解してくれていたのだろう。
まあ、彼女はのんびりしているところはあるが、頭の回転は速い方だ。
この程度のことは理解できないはずがない。
ただ、今回は大好きな母親のことを馬鹿にされたので、怒りで考えが及ばなかっただけだろう。
「さて、行きましょうか。イリアさんが心配していますよ」
「え? イリアが? もしかして……」
俺は掴んだ彼女の右腕を前側に戻し、そのまま引っ張っていこうとする。
この場からは早々に立ち去った方が良いだろう、そう思った結果である。
しかし、悪い事というのは得てして逃げることは難しいようで……
「お前、何者だっ!」
「俺たちを前にして、挨拶もなしとは無礼だぞっ!」
当然、二人の王子たちは俺に対して文句を言ってきた。
この流れでシャル王女だけを救出できるかもしれないと思ったが、どうやら無理だったようだ。
はぁ、めんどくさい。
俺は呆れたような視線を二人の王子に向けた。
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