7-79 死んだ社畜は第二・第三王子を知る
「どうしてお前みたいな側妃の娘がこんなところにいるんだ?」
「そうだぜ。お前が俺たちと同じように学院に通うなんて、おかしいだろう」
「……」
二人の男が一人の女子生徒──シャルロット王女に暴言を浴びせていた。
そんな言いがかりのようなことを言われて黙る必要はないと思うのだが、気のあまり強くないシャルロット王女は言い返すことはできないようだ。
向こうの方が体格が大きいところを見ると、相手は年上か?
しかし、一体誰なんだろうか?
「なあ、あいつら誰だ?」
「あの二人はアング第二王子とエンヴ第三王子よ」
「王子?」
イリアさんの言葉に俺は再び二人に視線を戻す。
たしかにあの王様と姿形が似ていると言われれば、そうかもしれない。
だが、現在の表情は俺の知る王族の人間とは似つかない。
あの王様にしろ第一王子にしろ、マイペースで自分の思う通りに動こうとするし、他人をけなしたりすることのない人格の持ち主だ。
少なくとも、家族に対して暴言を吐くような人間ではない。
「というか、第二と第三って……」
とここで俺はあることに気が付く。
たしか、この二人の母親は……
「ええ、王妃様よ。つまり、正妃様の子供ってことね」
「ああ、なるほど。だから、偉そうなのか?」
とりあえず、偉そうな理由はわかった。
自分たちは正妃の子供だから、偉いと思っているのだろう。
まあ、間違いではないだろう。
正妃と側妃のどちらが偉いのかと言えば、当然正妃に軍配が上がるだろう。
だが、だからといって、正妃の子供が一概に側妃の子供よりも偉いというわけではない。
母親は違えども、同じ父親の子供──そこに違いはないのだから。
だが、これはあくまで俺のような一国民の意見。
国の中枢にいるような権力者や当事者にとってはまた違う考えを持っているだろう。
「お前なんか、とっととどこかの貴族に降嫁しろよ。まあ、お前みたいなやつを引き取ってくれるような酔狂な奴なんざいないと思うけどな」
「それか、聖教国に恩を売っておいた方が良いんじゃないのか? たしか、こいつに聖女になって欲しいとか言ってきたみたいじゃないか。正直、こんな奴が欲しいなんて、あいつらの考えはわからないけどね」
二人はシャルロット王女が黙っていることを言いことに、次々と文句を言ってくる。
というか、明らかにシャルロット王女のことを下に見ている。
たしかに彼らの方が年上だろうが、だからといってシャルロット王女のことを下に見ていいわけではない。
現に、俺の見立てでは二人が彼女より優れていることなんて、体格の大きさと年齢ぐらいだろう。
それ以外は全くと言って勝てていない。
「なあ、なんで自分で止めないんだ?」
俺は気になって、イリアさんに質問した。
第二王子と第三王子という二人の王族を相手するのは、かなり勇気のいる行為だろう。
一般生徒では、そんなことが出来るはずがない。
しかし、イリアさんは公爵令嬢。
権力的には王族に及ばないが、それでも並ぶ実力を持っているだろう。
そして、友達であるシャルロット王女を助けるという大義名分があれば、それぐらいはできると思うのだが……
そんなことを思う俺にイリアさんが首を振った。
「それが出来ないのよ。二人の後ろを見て」
「ん?」
彼女の言葉に従い、俺はそちらに視線を向ける。
そこには偉そうな集団がいた。
あれは?
「二人の取り巻きたちよ」
「取り巻き?」
「あそこの小太りの男が大臣をしている公爵家の次男。あの一番に体格が良い強面の生徒が騎士団長をしている侯爵家の次男。ひょろひょろの風が吹けば飛ばされてしまいそうな生徒が国境を任されている辺境伯の三男よ」
「次男とか三男ばっかりだな」
彼女の言葉に俺は思わずそんなことを呟いてしまう。
だって、現にそうなんだもの。
これは「類が友を呼ぶ」と言う奴だろうか?
第二王子と第三王子が次男と三男だから、集まる取り巻きも自然と次男とか三男になるということか?
いや、そんなはずはないよな?
まあ、それは置いておくとして……
「そして、あの取り巻きたちの中で一番偉そうな男がグリード=キュラソーよ」
「キュラソー? それって……」
「ええ、不本意ながら私の兄よ。こいつはあの取り巻きたちの中で唯一の長男──キュラソー公爵家の次期当主と言われている男よ」
イリアさんが憎々し気な表情で言葉を吐く。
どうやら兄弟仲はかなり悪い様だ。
まあ、あんな傲慢な態度を隠そうともしない人間、彼女は嫌いそうだな。
好きなやつも少ないと思うが……
そして、今までの彼女の話を総合すると……
「お兄さんがいるから、自分では助けられない、と」
俺はその結論に到達した。
第二王子と第三王子、その取り巻き程度ならイリアさんでも臆さずにシャルロット王女を助け出すことができるだろう。
だが、実の兄がその中にいるのなら、それが難しくなるのだろう。
キュラソー公爵家の長男ということは、かなり優秀だと思われるから……
「ええ、そうよ。悔しいけど、あの男がいる限り私はシャルを助けることが出来ないの」
「そうなのか? でも、絶対というわけじゃないだろう?」
「いいえ、絶対よ」
「なに?」
彼女のはっきりとした言葉に俺は思わず驚いた声を出してしまう。
それはそうだろう。
俺の中でイリアさんはかなり頭のキレる女性だ。
正直なところ、口喧嘩などをすれば、確実に負けてしまうと思っている。
そんな彼女が絶対に勝てない、と言うのだ。
驚いて当然だろう。
「正直、あの男一人だったとしても、私が言い争いで勝てる可能性は万に一つ程度しかないわ。そのうえ、周りにうるさい奴がいれば……」
「さらに勝率が下がるわけか。そんなに優秀なんだな」
彼女の言葉に俺は素直な気持ちを口に出した。
イリアさんがここまで言うのだから、あのグリードという男は相当優秀なんだろう。
だが、そんな俺の言葉を聞き、イリアさんは吐き捨てるように呟く。
「まあ、性格は最悪だけどね」
「……」
その家の事なのでとやかくは言わないが、ここまで兄妹仲が悪いのはどうなんだろうか?
少し心配になってしまう。
だが、ここで別の心配が……
「だが、どうして俺を呼んだんだ? イリアさんが助けられないようなシャルロット王女を助けられるとは思わないんだけど……」
「いいえ、大丈夫よ。グレイン君なら……いえ、グレイン君にしかできないわ」
「?」
はっきりとした言葉に俺は首を傾げた。
信頼してくれていることは嬉しいが、俺が出来ないと思うことをどうして彼女ができるというのだろうか?
理由が全く分からなかった。
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