7-71 死んだ社畜は防具職人と出会う
「「……」」
2時間後、俺は一人の男と向き合っていた。
目の前の男は身長が120センチと前世で言うところの小学生程度しかなかった。
しかし、両腕は鍛え上げられた筋肉に包まれており、大の大人でも敵わないぐらいの力がありそうだ。
そして、なにより威厳のある髭面は威圧感を放っており、向き合いながらも俺は若干慄いていた。
そんな緊張感のある時間も束の間、目の前の男が口を開く。
「おい、モスコ」
「はい、なんですか?」
「お前はこいつらの防具を作ってもらいたくて呼んだんだよな?」
「ええ、そうですね」
男の質問にモスコさんはあっさりと答える。
その受け答えから、話はしっかりととおっていることが伺える。
まあ、呼ばれている時点で話はしっかりと通しておくのが筋だろうな。
そんなことよりも、男の威圧感を気にした様子もないモスコさんはやはり商人ということだろうか。
いろんな人と会うだろうから、気にならないのだろう。
俺がそんなことを考えていると、男は怒ったように口を開いた。
「こいつらはまだガキじゃねえか。そんな奴らに俺はオーダーメイドするつもりはないぞ?」
なるほど。
たしかに俺たちは見た目は只の子供だ。
いや、子供であるのは事実なのだが、中身は異常である。
正確に言うと、中身が異常なのは俺だけな気がするが……
とりあえず、この人の言う事にも一理あるな。
「天下の防具職人であるディフ様がこの程度のこともわからないのですか?」
「なんだと?」
モスコさんがあざ笑うかのような視線を男──防具職人ディフさんに向ける。
そんなモスコさんの視線にイラッとした様子を見せるディフさん。
まあ、明らかに馬鹿にされたような視線だから、それは仕方のない事だろうな。
ディフさんはこちらに視線を向ける。
「……」
「……」
「……」
「……」
再び沈黙が続く。
本当に居心地が悪い時間である。
どうして俺がおっさん(?)と睨み合わなければいけないのだろうか?
気まずい事この上ない。
まあ、女性と睨み合うのも避けたいが……
20秒ほど俺と睨み合った後、ディフさんはシリウスたちに視線を向ける。
そして、20秒ほどずつ睨んだ後、最後に見たリュコから視線を戻す。
「なるほど……たしかに俺に防具をオーダーメイドしてもらうほどの実力はあるようだな」
「そうでしょう?」
「「「「「えっ!?」」」」」
二人の突然の会話に俺たちは驚きの声を上げる。
それはそうだろう。
たった20秒ほど見ただけなのに、どうしてそんな判断ができるのだろうか?
そんな俺たちの反応にディフさんはふんっ、と息を鳴らした。
「俺の目を舐めるんじゃねえよ。お前さんたちの実力を見抜けないほど、俺の目は節穴じゃねえぞ?」
「最初は見抜けていませんでしたがね」
「うるせえぞ、モスコ」
「はいはい」
怒るディフさんの言葉にモスコさんはあっさりと受け流す。
その受け答えは一朝一夕で身につくものではない。
かなり長い付き合いなのだろう。
「あの……どうして実力が分かったんですか?」
そんな会話をしているディフさんにシリウスがおずおずと質問する。
まあ、気になるのは仕方がないだろう。
一瞬で実力を見抜かれたわけだから、少し怖いと思って当然だろう。
俺たちのような実際に戦闘をする冒険者ならまだしも、防具職人という非戦闘職の人に見抜かれたわけだから驚くだろう。
そんなシリウスの質問にディフさんは再び大きく息を鳴らした。
「嬢ちゃん、俺が何十年、防具職人をやっていると思っているんだ? プロとして自分の店を持ってからでさえ、もう30年は経っているんだぞ?」
「30年ですか? それはすごいですね」
「それだけの間、いろんな冒険者を見てきたわけだ。そうすれば、おのずと冒険者の実力も把握できるものよ。どういう戦闘をするのか、どういう筋肉の付き方をしているのか、どんな魔法を使うのか、なんてな」
「……」
ディフさんの言葉にシリウスは開いた口が塞がらないようだった。
まあ、それだけ凄いことをしているのだ。
しかも、それを何事もないかのように話しているので、なおさら凄いわけだ。
「そういうことが出来るようになったからこそ、俺は客を選ぶようになったわけだ。もちろん、自分自身のためじゃねえ。冒険者共のためにな」
「冒険者のため、ですか?」
ディフさんの言葉にレヴィアが問い返す。
店側が客を選ぶ、それは店のためだと思うのが普通だからだ。
しかし、この人の言っていることはその真逆だった。
疑問に思うレヴィアにディフさんは答える。
「強い武器や防具を持った冒険者は総じて自信過剰になる。そうすると、身の丈に合わない無茶なクエストを受けだすわけだ」
「そして、そのせいで死者が増えるわけですね」
「ああ、そういうことだ。人は俺たち職人のせいじゃねえ、というかもしれねえ。だが、俺たちが性能のよい武器や防具を用意したせいで冒険者共が無茶なクエストを受けたようなものだから、一概に納得することはできねえんだよ」
「なるほど」
ディフさんの言うことは理解できた。
たしかにそれならば、客を選ぶようになっても仕方がないだろう。
俺だって同じ立場だったら、自分のせいで冒険者が死ぬようなことは避けたい。
腕がいいのであれば、その気持ちはなおさらだろう。
「まあ、お前さんたちは俺の眼鏡に適ったわけだ。オーダーメイドで作ってやるよ」
「ありがとうございます」
「だが、俺のオーダーメイドは高いぞ? 下手したら、ベテラン冒険者の数か月分の働き分になるからな」
「お金は大丈夫ですよ。俺は結構稼いでいますから」
「ほう、言うじゃねえか……まあ、モスコが俺を呼んだぐらいだから、払うことはできるだろうな。足りなくなっても、モスコから徴収すればいいだけだしな」
「ちょっ、なんで私が?」
驚くモスコさんを見て、ディフさんが笑う。
屈託のない笑顔だった。
どうやら、俺たちを認めてくれたおかげでそのような表情を向けてくれるようになったのだろう。
「さて、材料はある、と言ったな? それを見せてもらおうか?」
ディフさんは俺たちに視線を向け、ニヤリと笑った。
その表情は職人そのものだった。
早く防具を作りたい、そんな気持ちで一杯である。
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