6-36 死んだ社畜は助言を受ける
「だからこそ、この課題の答えがわからないんですよ。どう考えても、僕の負ける未来は想像がつかない。そうなれば、付け入る隙がある、とは思えないでしょう?」
「まあ、そういうことにはなるな。だが、あの学長の言うことだから、この課題には絶対に意味があるはずだ」
「それはわかっていますよ。でも、こうも手掛かりが何もなくちゃ……」
俺は思わず頭を抱えてしまう。
こうも難問であるとは思ってもみなかった。
結論の出ない問題にどうすればいいのか、ただただ悩むことしかできない。
「……今までの戦いを思い出してみればどうだ?」
「どういうことです?」
悩む俺を見て、ブロドがそんなことを提案してきた。
俺は首を傾げ、聞き返す。
彼は説明を始める。
「おそらく、学長はその【特別試験】とやらで君の「付け入る隙」とやらを見つけたんだと思う。だからこそ、今までの【特別試験】を思い出せば、なにか思いつくかもしれない」
「それはわかるが……でも、ほとんどが瞬殺ですよ?」
「瞬殺、か……凄まじいな。だが、それでも何らかの手掛かりになるかもしれない」
「わかりました……とりあえず、今までの戦いを思い出してみます」
「できる限り情報を詳しくしてくれ。どこに手掛かりがあるか、わからないからな」
「なるほど……じゃあ、最初の戦いから……」
ブロドに促され、俺は今までの戦いを一から説明していった。
できる限り当時の情報を思い出し、「これも必要かな」と思いながら相手の細かい動きや俺の当時の心境なども組み込んでいく。
そんな話をブロドはしっかりと聞いてくれていた。
魔道具しか興味なさそうな人だと思っていたが、面倒見はいいのかもしれない。
そして、30分をかけて、すべての戦いの話は終わった。
「これで全部ですね」
「なるほど……たしかに、付け入る隙があるとは思えないな。悩むのは当然だろう」
「でしょう? でも、あの学長が冗談でこんなことを言っているとは思えないし……」
「だが、いくつか気になることがある」
「本当ですか?」
ブロドの言葉に俺は驚いた。
なんせ、俺だけでは何の手掛かりも見つけられなかったのだ。
それなのに、彼は話を聞いただけで思いつくことが出来たのだ。
期待したくなるものである。
そんな俺の期待の目を受け、彼は話を始める。
「戦闘面では全くと言っていいほど問題はないと思う。まあ、これは圧倒的な戦力差だからこそ、当たり前の事だろう」
「まあ、そうですね」
「だが、しいていうなら、いちいち相手の攻撃を受ける、という部分が気になるな」
「そこですか? それは学長に「相手に攻撃をさせろ」と言われたからなんですが……」
「まあ、そうだろう。そうしなければ、相手は攻撃もできずに一方的にやられるだけだからな。8歳の子供に攻撃もさせてもらえずにやられてしまったら、相手の自信は粉々に砕かれてしまうだろう」
「そういう理由からの配慮でしょうね。だったら、おかしな点はないと思いますけど……」
ブロドの説明に納得しつつも、俺は首を傾げる。
言っていることはもっともではあるが、これが俺の「付け入る隙」につながるとは思えない。
そんなことを考えている俺にブロドは説明を続ける。
「学長は「相手に攻撃をさせろ」と言ったんだろう? 別に「攻撃を受けろ」とは言っていないはずだ」
「……それはそうですけど」
「いちいち受けることに「付け入る隙」があると思ったのかもしれない。こじつけかもしれないけど」
「……たしかにそうかもしれないですね」
「攻撃を回避する必要はないと思っているのかもしれないが、回避も立派な戦闘技術の一つだ。それをないがしろにしている、と思われたのかもしれない」
「……それはないと思います」
「そうなのか?」
「はい。たしかに攻撃を受けるようにはしていますが、僕は回避行動をとっていないわけではありません。というか、回避行動を結構とっていると思います」
「ふむ……なら、これは違うかもしれないな」
俺の言葉にブロドはそんな結論を導き出す。
だが、彼との話はなかなかいいかもしれない。
この調子なら、俺の「付け入る隙」を見つけられるかもしれない。
俺はそんな期待を胸に、彼に話を聞く。
「他には何かありませんか?」
「そうだな……戦闘技術については、私が気になったのはこれだけだ。あとは、戦闘中の考えについてだな」
「考え、ですか?」
ブロドの言葉を反芻する。
彼が言いたいのは、俺が戦闘中にどのような事を考えているか、についてだろう。
俺は基本的に視覚・聴覚・嗅覚・痛覚を使って、状況を捉える。
そして、どのように行動をするべきかを考えていた。
これが一体どうしたのだろうか?
「私が聞いた感じ、君は決めつけすぎている、と思ったな」
「「決めつけすぎる」ですか?」
彼の言葉を俺は聞き返した。
予想外の言葉だったからだ。
そんな俺に彼は説明を始める。
「君は戦いの中で感じた情報の中から、相手の行動を予測しているみたいだ。これは戦闘において、大事な技術の一つだろう。これができることで、戦闘を有利に進めることが可能になるはずだ」
「まあ、そうですね」
「だが、話を聞いている限り、まだ完璧にできているとは言い難い。何度か攻撃を貰っているようだ」
「完璧な予測はできないですからね。というか、相手の行動を完璧に予測できるなんて、頭の中を読まない限りできないことでしょう? 流石にそれは俺でも難しいですよ」
「それはわかっているよ」
俺の言葉にブロドは納得する。
俺は当たり前のことをいっているわけだから、それもそのはずだ。
彼は一体何を言いたいのだろうか?
「じゃあ、何が駄目なんですか?」
「それは君の予測における考え方、だ」
「考え方、ですか?」
「ああ。君は手に入れた情報からある一つの結論を導き出す。おそらく、それは様々な情報を加味したうえでの最適解なのだろう」
「そういうことにはなりますね」
「だが、それはあくまで君の考える【最適解】にすぎない」
「僕の考える【最適解】、ですか?」
「ああ、そうだ。おそらく、君は相手の行動を見て、相手がどのように行動するべきなのかも考えているのだろう。そして、それを結論とするわけだ」
「それは当然でしょう?」
「だが、相手はその行動をとる者もいれば、その行動をとらない者もいるわけだ。結果、それがダメージにつながるわけだ」
「それが「付け入る隙」ですか?」
「私はそれが一番濃厚な線だと思う。これぐらいしか、君の弱点と言える部分はないように思える」
「……なるほど」
ブロドの言っていることはもっともかもしれない。
しかし、俺にはこれが完全な答えであるようには感じなかった。
だが、なんとなくではあるが、答えには近づいているような気もした。
「私が言えるのはこれぐらいかな? すまないな、助けになれなくて」
「いえ、これだけでも十分助けになっていますよ。突破口が見えてきた気がします」
「それならよかった。そう思ってもらえると、いろいろと考えた甲斐があるというものだ」
「ありがとうございます。ケーキをおごってもらった上に、相談にのってもらえるなんて……」
「それはお互い様さ。私の方もいろいろと相談に乗ってもらったからな。それに君とは長い付き合いになりそうだ。また、一緒に食事でもしようじゃないか」
「ええ、喜んで」
俺はブロドさんと笑顔でそんな会話をする。
彼との話はかなり楽しい時間に感じた。
別に婚約者たちやシリウスやアリスたちとの話が楽しくないわけではないが、まったく家族と関係ない人と話すことは新たな視点を得ることが出来るので、貴重な経験だと思ったのだ。
それをするためにも、今後も彼と話をしたいと思ったわけだ。
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