6-36 死んだ社畜は悩める若者の相談に乗る
令和、あけましておめでとうございます?
平成の時代もお世話になりました。(最後の方だけですけど……)
令和でも「死んだ社畜~」をよろしくお願いします。
「しかし、君が羨ましいな」
「どうしたんですか?」
ブロドの突然の言葉に思わずそう聞き返してしまった。
化け物扱いが羨ましいというのだろうか?
そんなに欲しいのであれば、ぜひ差し上げたいのだが……
「別に君の化け物扱いを羨ましいと思っているわけじゃないぞ。流石に人間扱いはされたい」
「……もちろん、わかっていますよ」
少し残念だった。
いや、羨ましがられても、俺の化け物扱いを譲ることはできないが……
しかし、一体ブロドは俺の何が羨ましいのだろうか?
疑問に思っていると、彼は説明を始める。
「確かに君は化け物扱いをされているが、逆に言うとそれは君の実力を周囲の人間が認めているということだ」
「……まあ、そういうことにはなりますかね?」
「私はそれが羨ましいんだよ。8歳の君がそれほどまで認められているのに、20代半ばにもなった私がどうしてこんな扱いを受けなければいけないんだ、とね?」
「……」
ブロドの言葉に俺はどう答えればいいのかわからなかった。
彼は自分の現状に納得がいっていない。
そんな彼に対して何らかの言葉をかけてあげたいとは思う。
しかし、羨ましがられている俺が彼に何を言うことが出来るのだろうか?
「私は子供のころ見た魔道具に心を奪われ、魔道具師になりたいと思った。親の反対を押し切って、私はこの世界に入って師匠に弟子入りを果たした。そこまではよかったんだ」
「……」
「弟子入りしてから来る日も来る日も雑用ばかり……魔道具に触れさせてもらったことなどほとんどないんだ」
「……」
「別に俺が未熟だから下手に触らせようとしないというのなら、話はわからないでもない。だが、もうかれこれ10年近く経っているのに一度も魔道具を作らせてもらえないのはどうなんだ? これは私のことをいびっているのか?」
「そ、それは……」
彼の文句を聞き、俺はどう返答をすればいいのか迷ってしまった。
彼の不満はよくわかる。
自分が望んで入った世界ではあるが、自分の思い通りにいかないことを歯がゆく思っているのだろう。
別に好きな世界に入ることが出来ても、自分の思う通りに行くことがほとんどない事は俺も理解している。
しかし、10年も我慢している彼の話を聞いていると、少しは報われてもいいのではないかとも思ってしまう。
「はぁ……私には向いていないのかな、この世界は?」
ブロドは下を向きながら、大きくため息をついていた。
相当落ち込んでいるようだ。
不満を吐き出せば元気が出るものだと思ったが、自身の現状を見つめなおして余計に元気がなくなってしまったようだ。
しかし、今の話を聞いて、俺はあることを聞こうと思ってしまった。
「一つ、いいですか?」
「ん? なんだい?」
「ブロドさんはやれることをすべてやりましたか?」
「やれること、だと?」
俺の質問を聞き、ブロドは怪訝そうな表情を浮かべる。
俺の質問の意図がわからないからだろう。
だが、俺だって何の考えもなく、こんな質問をしたりはしない。
「僕は貴方の師匠と一度しかあったことがありませんから、彼女のことを詳しくはわかりません。ですが、このその一度の出会いでの感じたことや魔道具の性能から、彼女がブロドさんに意地悪をしてそんなことをしているとは思えないんですよ」
「……どういうことだ?」
「おそらくですが、ブロドさんに気付いてほしいんではないでしょうか?」
「気づいてほしい、だと?」
俺の言葉をブロドは繰り返す。
その表情は真剣そのものだった。
なんとなく期待をもっているように感じる。
そんな彼に俺は説明を続ける。
「今のブロドさんには魔道具を作るうえでなにか足りないのではないでしょうか?」
「私に足りないもの……魔道具造りの技術か?」
「それは魔道具造りをするうえで身に付けるものでしょう?」
「それもそうか……だが、私には見当もつかないな」
「まあ、そう簡単に思いついたら苦労はしないですよね?」
彼の言葉に俺はそう返事をした。
俺もそんな助言をしてみたが、これが果たして正解であるかもわからない。
あくまで俺が「こうならいいな」と思ったことを告げただけなのだ。
本当にあのダークエルフさんがそのように考えているかはわからない。
可能性がある、というだけの話なのだ。
「しかし、君の話を聞いて、今の私に必要なことが分かった気がする」
「それはよかったです」
「とりあえず、それを探しながら雑用をこなしていくことにするよ。そうすれば、いずれは魔道具を作らせてもらえるかもしれない」
「頑張ってください……ですが、雑用をするときはそちらに集中した方が良いですよ? 魔道具の中には危険なものがあるんですから、きちんと扱わないと……」
「それぐらいわかっている……だが、気を付けた方が良いかもしれないな。助言、感謝するよ」
「はい」
どうやら俺の助言は役だったようだ。
人助けをすると、やはり気分が良いな。
そんなことを考えながら、紅茶を口に含む。
「そういえば、君はどうしてあんなところにいたんだ? 学院に入学をしたのならば、今は授業の時間だと思うが……」
「ああ、それは授業が休みになりました」
「休み、だと? 別に今日は休日でも何でもないだろう?」
「まあ、そうですね。ですが、僕の担当教師が課題をこなすまでは授業をしないといったんです」
「誰だ、その教師は?」
「学長です」
「ああ、なるほど」
俺の言葉にブロドが納得する。
おそらく、彼も王立学院に通ったことはあるのだろう。
優秀な人のようだから、学院に通っていてもおかしくはないと思う。
そして、学院に通っているのであれば、学長のことを知っていてもおかしくはない。
学長がどれだけおかしい人物であるかも……
「それで、課題というのは一体何なんだ?」
「僕には「付け入る隙」があるそうで、それについて克服しないといけないんですよ」
「「付け入る隙」だと?」
「はい。それを克服しない限り、僕の負ける可能性がなくならないそうです」
「……それは当たり前の話じゃないのか?」
俺の説明を聞き、ブロドさんがそんな返事をする。
まあ、聞いている限りは当たり前の話ではあるだろう。
しかし、俺からすれば、当たり前ではないのだ。
「例えばですが、圧倒的な実力差がある者同士が戦った場合、強い者と弱い者のどちらが勝つと思いますか?」
「もちろん、強い者だな」
「弱い者が勝つ可能性はあると思いますか?」
「……戦略、弱点をつけばあるかもしれないが──途方もないぐらいの実力差があれば、勝つことは不可能じゃないのか?」
「そういうことですよ。正直、今の僕にとって、いくら制限されたとしても学院の生徒は途方もないぐらいの実力差があるんです。だからこそ、付け入る隙があるとは思えないんです」
「すごい自信だな……まあ、それだけの実力を持っているのならば、そう思っても仕方のないことかもしれないが……」
俺の言葉を聞き、ブロドさんが慄く。
俺のことを自意識過剰な子供だと思っているかもしれないが、俺のこの自己評価はきちんと実力を伴っているからできることだ。
だからこそ、悩んでいるわけだが……
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