6-31 死んだ社畜はさらに悩む
「シャルちゃんの訓練はうまくいきそうなんだね」
「っ!? そうですけど? 何で知っているんですか?」
突然の言葉に俺は驚いてしまったが、しっかりと答えることはできた。
なぜ驚いたかというと、これが学長から聞かれた質問だからだ。
しかも、そのことについてキース王子たちと話したのは昨日の事──その翌日、教室で学長を待っていた後に質問をされたものだから、どうしてそんな質問をされるのかわからなかったのだ。
というか、なんで学長はそのことを知っているのだろうか?
「もちろん、シリウス君が訓練所の申請をしてきたからね。珍しいという話になってね……少し見学したんだよ」
「……なるほど」
学長の言葉に俺は納得することが出来た。
現在、学院では訓練することが流行している。
まあ、その原因が俺であるわけだが、そのおかげで訓練所を借りようとする生徒たちが多数いる。
訓練所でしか訓練できない者もいるからだ。
だが、その逆に訓練所でする必要のない人間もいる。
その例として、シリウスとレヴィアの二人があげられる。
二人は魔法使いとして、すでにかなりのレベルになっている。
魔力の扱いに関しては、この学院の中でもトップクラスに入るのではないだろうか?
少なくとも、俺に挑んできた者たちの中で、二人と同じレベルで魔力を使えている者は数えるほどしかいなかった。
さらに、二人の魔法は基本的に広範囲に作用はしない。
つまり、周囲に影響を与える心配はないので、訓練所のような広さはいらないわけだ。
「まさかシリウス君たちがシャルちゃんを指導しているとは思わなかったよ」
「まあ、そうですよね」
「しかし、どうしてグレイン君が受けなかったんだい? 頼まれたんじゃないのか?」
学長が俺にそんなことを聞いてくる。
どうして、そんなことを知っているのだろうかと思ったが、気にしない方向で行く。
学長は化け物なのだから、この程度で驚いていたらきりがない。
「確かに頼まれましたが、受ける前にレヴィアがやるといい始めたんですよ。だから、依頼を譲ったわけです」
「ふむ……そうなのか? それも珍しいんじゃないかな?」
「たしかにそうですね。レヴィアがまさかそんなことを言い出すとは思いませんでした」
今までレヴィアが途中で話に割って入ってくることはなかった。
彼女は前に出てくるタイプではないので、今回の件については正直かなり驚いている。
しかし、決して悪い事ではないと思う。
「……」
「どうしました?」
学長がなぜか黙って俺の方を見ていた。
何時もの飄々とした雰囲気がない事に、俺は疑問に感じてしまった。
そして、学長が口を開いた。
「グレイン君はレヴィアちゃんのことをどう思っている?」
「え? それはもちろん、婚約者の一人ですよ」
学長の言葉に俺はあっさりと答える。
これは当然の事だろう。
この表現だけを聞けば、なんとなく俺が節操のない人間のように聞こえるが、一夫多妻が認められているこの世界では問題はないだろう。
それにきちんと愛は持っているので、批判されることはないと思うが……
「では、レヴィアちゃんのことをしっかりと理解してあげているか?」
「は?」
突然の質問に俺は思わず怪訝そうな声を出してしまう。
今度の質問は意味が分からなかった。
質問の意味が分からなければ、答えようにもこたえられない。
「レヴィアちゃんが婚約者の一人であることはわかっている。彼女自身のことをしっかりと理解できているのか、気になってしまったのだよ」
「……わかっているつもりですが?」
「では、教えてくれないか?」
俺の言葉に学長がそう返してきた。
一体、何が狙いなんだろうか?
俺がレヴィアのことをどれぐらい理解しているのかを聞いて、何になるのだろうか?
まあ、別に隠すことではないので、話すとするか。
彼女の素性はわかっているだろうから、彼女の能力とかについての方が良いか?
「レヴィアは闇属性の魔力を持っている。だが、性格的にあまり攻撃魔法が得意ではないかな。その分、補助魔法や回復魔法に秀でていると思う」
「ほう……性格的に、とはどういうことかな?」
「それはもちろん、レヴィアはあまり前に出たがらないタイプの娘だからです。昔から人と話すのはあまり得意ではないみたいだな」
「それは本当かい?」
「ええ」
学長の言葉に俺は頷く。
俺の言っていることは間違いではないはずだ。
なんせ、もうかれこれ4年の付き合いなのだから、これぐらいは理解できている。
「では、シリウス君たちのことについてはどれぐらい理解できている?」
学長がさらに聞いてきた。
今度はシリウスたちの事か……
一体、どういう目的かはわからないが、聞かれたからには答えるとするか。
「アリス姉さんは氷属性の魔力を持っているが、あまり魔法が得意ではない。魔力の放出が苦手みたいだから、自然と魔力を身に纏う技術に特化したみたいだな。身体強化とその技術のおかげで近接戦闘能力はおそろしく高いと思う」
「ふむ」
「ティリスは獣人ということから魔力を持っていない。その分、人間とは比べ物にならないほどの身体能力を持っている。といっても、力はそこまで強いわけじゃなく、どちらかというと素早さがメインだ。立体的に動き回るからその機動力はすさまじいもので、一度でも見失えば、面倒なことになるのは当然だな」
「なるほど」
「シリウス兄さんは氷属性の魔力を持っていて、氷でいろんなものを作ることに秀でているな。しかも、純粋な氷属性の魔力のおかげで、作り上げたものはとても綺麗な魔力を内包した作品になっているな。あと、うちの女性陣より可愛らしいルックスだから、人気が出るのは当然だと思う。本人は気にしていたけど……」
三人のことについて、説明してみた。
これがすべてではないが、それでも大まかなことは話せたと思う。
まあ、俺はこの三人たち本人ではないので、すべてを話すことは無理だとは思うが……
知らないことぐらいはある。
そんな俺の説明を聞き、学長はさらに質問してきた。
「グレイン君が把握しているのは、それで全部かな?」
「まあ、そうですね。これが三人のすべてではないと思いますが、俺が説明できるのはそれぐらいです」
「なるほど……きちんと評価はできているな。だが、やはり完璧ではないな」
「……どういうことですか?」
学長の言葉に俺は自分が思っているよりも低い声が出てしまった。
だが、学長からの指摘に少し怒ってしまったのも事実だ。
そんな俺の反応に学長が少し笑う。
「言葉の通りだよ。君は三人のことを──いや、四人のことをわかっているようで、わかっていないんだよ」
「なんだと?」
学長の指摘に俺は思わず怒りを露わにする。
先ほどまで表面には出さなかったのに、我慢できなかった。
どういうことだ?
「君は四人のことをしっかりとは理解できていない。あくまで表面的なものしか、ね」
「他人なんだから、理解できなくて当たり前だろう? いくら近い人間だからって、他人であるんだからすべてを理解することなんざできないはずだ」
「それはそうだな」
「だったら、なんでそんなことを?」
俺の指摘に学長は頷いた。
なら、なんでそんな不可能なことを言ったのだろうか?
俺の中にさらなる疑問が出てきた。
「もちろん、他人のことをすべて理解することは不可能に近いだろう。それは君の言う通りだ。しかし、君の4人への理解はまだまだだということには変わりない」
「……」
「たしかに君は四人のことを能力的にはしっかりと把握している。戦闘における分析においては満点を上げてもいいんじゃないかな?」
「それ以外はダメ、だと?」
「まあ、そういうことだな」
「何が駄目なんですか?」
学長の言葉に俺は思わずそんなことを聞いてしまった。
いや、わからないのだから聞こうと思ったのだ。
しかし、返ってきたのは予想外の言葉だった。
「それは自分で見つけないといけないな」
「何?」
学長の言葉に俺は再び驚きの声を出してしまう。
こいつ、どういうつもりだ?
俺は睨みつけるが、そんなこともお構いなしに学長は言葉を続ける。
「君は以前、私が言ったことを覚えているか?」
「? 「付け入る隙がある」と言ったことですか?」
「ああ、それだ。今回の件もそれが関わっているよ」
「は?」
「いや、それそのものだといっても過言ではないな」
「どういう……」
予想外の言葉に頭が追い付かず、学長に聞こうとする。
しかし、そんな俺の言葉を聞かず、学長は教室から出ていこうとする。
「それがわかるまでは君の授業はお休みだ。正解を自分で見つけるまで、頑張るように」
「なっ!?」
「それじゃ」
学長は笑顔でその場を立ち去ってしまった。
俺は取り残されたという突然の状況にただただ戸惑い、棒立ちになってしまった。
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あと、恋愛ものも何作か上げてみようと思いますので、そちらもよろしければ読んでみてください。




