6-12 死んだ社畜は教育方針を考える
「はははっ、まさか君が怪我をして帰ってくるとはな」
「……笑わないでください」
学長が大笑いしたので、俺は思わず睨んでしまった。
なぜ生徒が怪我をしているのに、笑う気になるのだろうか?
本気でこの人は性格が悪い。
「ごめん、ごめん。あれだけ強いグレイン君が怪我をするとは思わなかったんだよ。しかし、ギルバート君がまさかそんなミスをするなんてね」
「……まあ、人間ですからミスもしますよ」
「グレイン君が相手だったから、手加減ができなかったんだろうな。しかし、グレイン君もグレイン君じゃないかな?」
「どういうことですか?」
学長の言葉に僕は聞き返してしまう。
いや、言わんとしていることはわかる。
だが、それを自分でわかっていることを認めたくないので、わかっていないふりをしてしまったのだ。
「不意を打つためだからといって、蹴りを放とうとしたことだよ。たしかに不意を打つことが出来たみたいだけど、木剣を持ったギルバート君相手にそれはかなり危ないのはわかるだろう」
「……そうですね」
当然の指摘に僕は頷くしかなかった。
僕は伯爵の不意を打つために、あのとき蹴りを放った。
木剣で攻撃すると見せて、自分の体で攻撃するのはたしかに不意打ちになりうる。
しかし、相手が僕の行動を木剣で止めることを考えないといけなかった。
しかも、相手はかつての戦争で英雄とまで言われた実力者だった。
年老いたとはいえ、そんな相手の木剣と俺の足が直撃すれば、俺の足が大変なことになるのはわかることだったはずだ。
これは俺のミスである。
「まあ、二週間は近接戦闘の訓練はなしにしよう。流石に怪我をした生徒に無理をさせるほど、酷い先生ではないからね」
「……ありがとうございます」
「その代わり、魔法の研究に時間を割こうか」
「……そうですね」
僕の状態から学長が今後の予定を考えていく。
やはり教育者なだけあって、生徒の状態から今後のスケジュールを考える力はすごいと思う。
これも長年の経験なのかもしれない。
「そういえば、【拘束具】は今も着けているのかい?」
「はい、着けていますよ」
「怪我をしている間だったら、外しても構わないよ。それを着けているだけで、体にかなり負担になると思うし……」
「……そんなものを着けさせている自覚はあるんですね」
「もちろんさ。君を強くするためには必要なものだから、着けてもらっているんだよ」
僕の指摘に学長は笑顔で答える。
僕が入学と同時に着けている【魔力拘束具】──これは体内の魔力の循環を阻害するための魔道具である。
なぜそんなものを着けているのかと言うと、魔力の循環を阻害することで魔法をうまく使えなくさせるためだ。
そのうえで魔法を使っていくことによって、外した時により強い魔法を使うことができるようになるわけだ。
負荷訓練、というやつだ。
当然、そんなものを着けていれば、俺の体に負担があることはわかるだろう。
しかし、今回の怪我は足だけなので、魔力の循環を阻害する程度で加わる負担はそこまで気にならない。
なので、着けたままでいようと思ったわけだ。
「そろそろそれを着けて1ヶ月ほど経っているが、どうだい? 強くなった感覚はあるかい?」
「そうですね……まだまだ違和感はありますけど、通常の8割程度の魔法は使えるようになりましたよ」
「ほう……それはかなりの進歩だな。前までは半分ぐらいの威力になれば、上出来だったのにな」
「ええ、そうですね」
「それでも君の魔法は他の学生よりも強かったけどね?」
「……」
学長の言葉に僕は頷くことはなかった。
なんせ、それを肯定してしまうと、他の学生に対して悪い気がしたからだ。
たしかに僕の魔法は拘束具で抑えた状態でもどの学生よりも強力だった。
だが、それを認めてしまうのは、他の学生に失礼だとも思っているのだ。
「しかし、魔法でも近接戦闘でも君に勝てる者が現れないこの現状はどうにかしないといけないな。このままでは、他の学生の向上意欲を奪いかねないよ」
「……すでに奪っている気がしますけど?」
学長の言葉に僕は思わず反論してしまった。
すでに彼の言っていることは起こっている気がする。
なんせ、俺に挑戦する生徒がもうすでにほとんどいないからだ。
これでは、わざわざ俺に挑戦する場を設けた意味がなくなっている。
「流石に君に手加減をしてもらっても意味はないしね……」
「手加減するのは苦手ですから、多分バレますよ?」
「だよね? さて、どうしたものか……」
学長が悩んでいる。
だが、教育者である彼に俺が提案することはできない。
なんせ、彼はプロなのだ。
そんなプロが悩んでいることに素人の俺が提案することなどまずない。
「グレイン君の魔力を練る練習を教えるのは……」
「独特すぎて、受け入れられないな。現に前の補講で俺の言っていることを受け入れられなかったな」
「近接戦闘の訓練方法を……」
「反復練習と実戦経験だぞ? 反復練習は他の生徒もしているだろうし、実戦経験は危険と隣り合わせだから、生徒にさせるのは難しいと思うぞ?」
学長の提案に俺は反対する。
本来なら、学長の言っていることは教育方法としては正しいのかもしれない。
優れているものを元にして、他のもののレベルを上げる。
これは当たり前のことだ。
しかし、その元になっている俺が他の生徒たちに受け入れられなければ、当然レベルを上げることはできないわけだ。
俺の訓練方法は他の生徒がやっていることに加えて、この世界に根付いていた考え方を無視した独自の訓練をしている。
さらに、アレン、リオン、ルシフェルという強者と訓練をすることで、普通の子供にはできないような危険な訓練もすることが出来ていた。
だから、俺が他の生徒より強いのは当然であり、他の生徒に俺の訓練方法をさせるわけにはいかないのだ。
さて、本気でどうしようか……
「まずは先生方に君の方法を学んでもらいたいんだが……」
「いくら俺が強くても、こんな子供の言うことを素直に受け入れないと思うぞ?」
「たしかにそうなんだよな」
学生に教えるために、先生から先に学ばせるのは一つの手である。
しかし、俺のしていることを先生たちが学ぶのは、彼らのプライドを傷つけることになりかねない。
俺のしていることが有用であることは理解できるかもしれないが、それは今までの彼らのやり方を否定することになりかねないのでなかなか認めることはできないと思われる。
俺から学ぶことができないのであれば、自分たちでその方法を探ってもらわないといけないわけだが……ん?
「学長」
「なんだい?」
俺はある案を思いついたので、学長に声をかけた。
この方法なら俺が他の人に教えることはない──しかし、他の生徒や先生たちがより強くなることができるかもしれない。
100%成功することはないと思う。
しかし、今の何もできない現状を打開することはできるかもしれない。
「こういうのはどうでしょうか?」
「ふむ……」
俺は今思いついた考えを学長に伝えてみた。
話を聞き終わった学長はあっさりと頷いた。
そして、その日のうちに学園中にその知らせが発表された。
ブックマーク・評価・レビュー等は作者のやる気につながるのでぜひお願いします。
勝手にランキングの方もよろしくお願いします。




