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【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第六章 小さな転生貴族は王立学院に入学する 【学院編1】
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6-11 死んだ社畜は怪我をする


「はあっ!」


 走った勢いを加えて、僕は思いっきり木剣で突いた。

 身体強化を使ってはいないが、それでもかなりの勢いである。

 しかし──


(スッ)


 伯爵は最低限の動きで俺の突きを回避する。

 そして、そのまま上から隙だらけの僕の背中に向けて木剣を振り下ろしてくる。

 だが、俺だってただただやられるつもりはない。


(ガッ)

「むっ!?」


 俺は手の中で木剣の持ち方を変え、地面に突き立てる。

 その行動に伯爵が驚きの声を漏らす。

 俺は自分の走った勢いを木剣を軸に回転する力に変える。


「おらあっ!」


 俺はそのまま伯爵に蹴りを放つ。

 走った勢いをそのままに利用したおかげで、小さな体でもかなり強い蹴りを放つことはできた。

 こんな攻撃、前世の子供たちならまずできない動きだろう。

 だが、伯爵もただただ俺に蹴られることはなかった。


(ブウンッ)

「なっ!?」


 俺の蹴りに合わせて、木剣を横薙ぎに振るってきやがった。

 俺と木剣がかなりのスピードで近づいていき……


(ガッ)


 俺の右足と伯爵の木剣がかち合った。


(ミシッ)

「ぐうっ!?」


 右足に嫌な感覚を感じ、俺は苦しげな声を漏らしてしまう。

 地面に体が落ちた後、足からくる痛みに顔をゆがめてしまう。

 この感覚は……


「おいっ、大丈夫かっ!」


 木剣からもしっかりと感覚が伝わっていたのだろう、慌てたような声音で伯爵が僕に声をかけてきた。

 そこには先ほどの厳しい指導者のような感じはなく、心配している祖父の顔しかなかった。

 俺はその表情を見て、痛みをこらえてまで不意打ちをすることはしなかった。

 流石にこの状況でそんなことをするほど、性格はねじ曲がってはいない。


「「「グレイン様(君)っ!?」」」


 少し離れたところから女の子三人の声が聞こえてくる。

 そちらを向くと、慌てたような表情を浮かべた三人がこちらに駆けよってきた。

 どうやら、鍛錬をしながらずっとこちらを見ていたようだ。

 しっかりと鍛錬に集中しろよ、と思わないでもないが、ずっと同じことを反復しているのならこちらのように動き回っている訓練が気になるのは当然かもしれない。

 それについて指摘することはやめておこう。

 しかし、そんな風に慌てているとあぶな……


(((ガッ)))

「「「「あっ」」」」


 三人の足が同時に地面にとられ、ふわっと体が宙に浮いていた。

 三人に加え、それを見ていた俺も唖然とした声を漏らしてしまう。

 そして、走ってきた勢いのまま宙に浮いた彼女たちはそのまま俺の方に飛んできて……


(((ガッ)))


 全員が俺の右足を掴んでしまった。

 あまりの流れにこちらも動くことが出来なかった。

 普段ならば、彼女たちを受け止めようと動くことが出来ただろう。

 しかし、足を怪我したであろうこの状況で思うように動くことはできず……

 さらに、怪我をしたであろう箇所を勢いよく掴まれてしまったせいで……


「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」

「「「グレイン様(君)っ!?」」」


 俺はこの第二の人生で初めて人目もはばからず大声を出してしまった。

 他人にこんなみっともない声を聞かれたくない──そんなことも考えられないほど、大声で叫んでしまっていた。

 そして、あまりの痛みに俺は意識を失ってしまった。


 後に聞いた話なのだが、バランタイン伯爵邸から少し離れたところにあるメインストリートのミュール商会にも俺の悲鳴が聞こえてきたそうだ。



◆ ◇  ◆  ◇  ◆


「まったく……何事かと思いましたよ」

「「「「「……はい」」」」」


 俺たちは全員、バランタイン伯爵夫人──リナリアさんに説教をされていた。

 もちろん、先ほどの俺が叫んでしまった件について説教をされているわけだ。

 これは別に誰が悪いわけでもない。

 不幸な事故が重なって、あのような状況になってしまっただけなのだ。

 そのため、リナリアさんは誰かだけを責めることはなかった。

 ただただ、心配したことを怒られているだけだ。


「見たところ、骨は折れていないようです。ひびが入っているぐらいだと思います」

「「「「「ほっ」」」」」


 リナリアさんの言葉に俺たちは全員安堵の声を漏らした。

 それは怪我をした俺はもちろん、怪我をさせた伯爵、それを悪化させたかもしれない三人娘たちが各々で心配していたのだ。

 そのため、大したことがなかったと聞いて安心してしまったのだ。


「ですが、2週間ほどは安静にしておきなさい。いくら回復魔法で治したとしても、同じように衝撃を与えれば壊れやすいですから……」

「わかっていますよ」


 リナリアさんの忠告はしっかりと聞いておく。

 回復魔法は怪我を治すことができる凄い魔法だと思われがちではあるが、完全に治すことができるわけではない。

 傷を治すことはできるし、骨折を治すこともできる。

 しかし、同じ場所を傷つければ、前よりも簡単に傷つけることができるのだ。

 そのため、ある程度の時間は安静しておかないといけない。

 ひびが入っているのだったら、大体2週間程度が相場だろう。

 骨折だったら、一か月単位になるだろう。


「さて……あなた?」

「む? なんだ?」


 リナリアさんの意識がすべて伯爵に向かった。

 声をかけられた伯爵は首を傾げながら返事をする。

 そんな彼にリナリアさんは大声を出した。


「預かっている孫に大怪我を負わせるなんて、何をしているんですかっ!」

「むっ!?」


 普段はおしとやかなリナリアさんの怒りに伯爵は驚いた。

 その様子だと、彼女がこんな風に怒ったことを見たことがないのかもしれない。

 伯爵が見たことがないのであれば、俺たちも当然見たことがあるはずもない。

 俺たちも驚いてしまった。


「あなただけはさらに説教をします」

「えっ!?」

「孫のことを大事に思うのはいいですが、そのせいで怪我をさせるのはもってのほかです。その意識を治しますよっ!」

「なんだとっ!?」


 リナリアさんの言葉に伯爵が驚く。

 そして、リナリアさんは伯爵の耳を掴み、引っ張りながら部屋を出ていった。

 その光景を俺たちは茫然と見ていた。

 まさか、あのおしとやかなリナリアさんがまさかあんな強気な行動に出るとは……

 そう思った俺たちは何も言うことが出来なかった。

 そして、時間が少しだけ過ぎる。


「「「あの……」」」

「ん?」


 三人娘たちが俺に声をかけてくる。

 一体、どうしたのだろうか?


「「「ごめんなさいっ!」」」


 三人が同時に頭を下げてきた。

 同じようなことを思っているのか、まったく同じタイミングで頭を下げていた。

 そこで彼女たちの行動の理由に気が付いた。

 俺の足の怪我について責任を感じているのだろう。

 そんな彼女たちにかける言葉はこれだけだ。


「気にしないでいいよ。俺は怒ってないし」


 俺は三人をあっさりと許した。

 そもそも俺は彼女たちに対して全く怒っていなかった。

 彼女たちのせいで怪我が少し酷くはなったが、別に彼女たちはわざとそんなことをしたわけではない。

 不幸な事故のせいでこのような結果になってしまったわけだ。

 彼女たちは俺のことを心配して行動しようとしていたのだ、

 そんな彼女たちに怒りを向けるのは筋違いだろう。


「でも……」


 俺の言葉を聞き、アリスが何か言いたそうにする。

 二人も同様の表情を浮かべている。

 やはり罪悪感は残っているのだろう。

 はぁ……仕方がない。


「じゃあ、僕の怪我が完全に治るまで、身の回りの世話をしてくれるかな? 足を怪我したから、日常生活を送るのも大変だし……」


 俺は彼女たちの罪悪感を無くすため、そんな提案をした。

 別に日常生活を送れないほどの怪我ではない。

 しかし、リナリアさんに「安静にしておくように」と言われた手前、出来る限り動くことは避けた方が良いだろう。

 というわけで、その手伝いを三人に頼むわけだ。


「「「わかったわ」」」


 俺の頼みに三人の表情に笑顔が生まれた。

 やはり、女の子に悲しげな表情は似合わない。

 やっぱり笑っていないとな。






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