勇者一行とあの王子 2
静寂に小鳥の声が響く美しい国の城、その中では子供達が大論争をしていた。主に謎の存在である蛇名 リンについての事だ。こんなのじゃ、魔王を倒す計画も碌に立てる事も出気ない。ラギンスを呼ぼうと考える徳永くんだったが、彼が何か言う前にブリっ子ツイテの玉緒が言った。
「ねぇ! 徳永くん困ってるよぉ。みんなで協力してやろう?」
「河合夏...ありがとう」
「どういたしましてぇん。えへへ」
上目遣いでチョコッと舌を出し、ウインクをする玉緒。精一杯のアピールなのかもしれないが、正直徳永くんの心には響かなかった。可愛いとは思わない。逆に頑張りすぎてお疲れ様だ。
「じゃあ、落ち着いてきたから...一応聞くぞ。魔王を倒すため、俺らが無事に全員家に帰るため...チームを組んで旅に出たい人! ちなみに、無理して手を上げなくて良い。その人には俺から頼みごとがある」
クラスメイトは顔を見合わせず、ピンと手を天井に向かって伸ばす。その目は、何処か覚悟があるように感じた。徳永くんの隣に立っている玉緒も手を上げている。
「みんな、ありがとう」
拍手が巻き起こるーー
*
葬儀とは、深い苦しみと悲しみに追われる儀式である。そしてそれ以前に、死者を笑顔で送り出すための機会でもある。葬儀の時に笑みを見せるなんてタブーだが、死者にとってそれはとても嬉しい事だろう。泣いて見送られるより、笑って見送られた方が嬉しいにちがいない。
特に愛する人には笑っていてほしい。泣き顔なんて見たくないモノだ。
王子は泣かなかった。シューベルト・サタル・ラリィは、母親の死を理解したと同時に、涙も出ないほどの悲しみを背負っていた。リンを失い、母親も失う。愛する人が二人もいなくなってしまった事は、彼にとって死ぬよりも苦しい事だった。ただ一言、もう一度優しい言葉をかけられたい。優しい笑みを向けられたい。そんな気持ちで彼はただ、黒い服を身にまとい王城の庭にいた。
リンが毎日散歩していた庭。母が好きだった庭。自分がジッと見つめていた、思い出がないようである庭だ。
「神様は酷いな...俺から大切な人を二人も奪うなんて」
噴水の淵に腰掛け、彼は日当たりの下でつぶやいた。誰もそれを聞いていない。誰にも届いていない。この世界の何処かにいるリンにも、天国にいる母親にも。
「俺が悪かったのか? 方法が悪かったのか? これは俺に対する罰なのか?」
愛を表す方法が分からない。ただ、自分のモノにしたいという欲望が理性に勝っていたのだ。リンを監禁した事を、今更とても後悔している。食欲が出ない。何もしたくない。ただ無心でいたかった。
「あぁリン、母上...もう一度会いたい。もう一度会いたい...!」
二人の顔が脳裏をよぎる。愛する二人の顔。リンは彼に笑顔と優しさを与えてくれた。母親は彼に幸せと愛を与えてくれた。あの二人が教えてくれた事が、今の自分につながっているのだ。
「リンん...うあっ...ぅぐ...母上ぇ...ぁあ...ぅぅ...」
熱い液体がこぼれ落ちた。やっぱり怖かった。自分から愛する人が離れる事が怖かった。自分が悪いという事も、自分の所為だという事も、自分が間違っていた事も、すべて...すべてが今の自分につながっているのだ。母親は帰ってこない。でも、リンならどうだろうか。
「リン...お前は...まだ...生きてる...ぅ」
涙は止まらない。でも、それでも彼は強い気持ちで思うのだった。
「謝りたい...」
謝りたい。謝って済む事ではないけども、自分の過ちを悔い改めたい。もう一度会って謝りたい。頭を下げて顔をグチャグチャにしても、土下座しても、王子としても人としても尊厳を踏みにじるとしても、リンに謝りたい。
あの行為が愛する彼女を傷つけたのだ。泣かせてしまったのだ。裏切ってしまったのだ。苦しめてしまったのだ。
「リン...お前は今何処で何をしてるんだろうな...」
その綺麗な瞳から後悔を流し、彼は晴天の空を見上げるのだった。




