勇者一行とあの王子 1
心を孤独の淵に置かれた可哀想な少女が別世界で覚悟を決めている時、サイトリール「ラリィ国」の王城では、ある人物達が話し合いをしていた。
それは、リンと共にこの世界に召喚された勇者一行。徳永くんをリーダーとした、2−1のメンバーだ。ちなみに王子は、自分の母親の葬儀に出ている。もうこれ以上悲しみは積みたくないらしいが、全てを忘れるための手段だと言っていた。大きな会議室を借りて、36名が揃って座っていた。リンがいたら、37名だったのにーー
「さて、今日決めるのは、魔王を倒すための手段だ。何か案はある?」
みんなの座る長い長いテーブルの横には、大きな黒板があった。これは、何か一緒に召喚されたらしい。きっとあの教室は大変な事になっているんだろうな。黒板の前にはリボンを両側につけたツインテールの可愛い小さな女の子が立っていた。
「はぁい、じゃあ、徳永くんの言う事ちゃあんと聞いて、みんな意見出してねぇ」
「河井夏の言う通り、これは俺らの生命の存続、または蛇名さんにも関わる事だ。真剣に取り組もう」
ツイン少女は、河井夏 玉緒。新稲中学校で2番目に可愛いと称される、みんなのアイドル(笑)だ。完全なブリっ子で女子からは嫌われ、一部の男子にはドン引きされているが、大半が気にせず放置している。
現在彼女は、徳永くんの事が好きであり、彼の口から別の女の名が出た事に怒りを覚えていた。
「むううぅ...」
わざと頰を膨らませ、一見可愛いなとは思うが下心が丸見えだった。徳永くんは気にせず続ける。
「はい! 俺は、この36人で行動しても人数が多いし...分かれて旅した方が良いと思う! 魔王を倒す旅に」
「あ〜、私は反対。旅とかやだよ...」
男子連中は兎も角、女子の一部が旅に出る事を嫌がっている。だってそうだろう。城なら安全だが、これからどんな目に遭うか知ったこっちゃない。野宿だってたくさん経験するだろうし、魔物だって実践で倒す事になるだろう。冒険を求めるガキ中一男子とは違って、女子は思慮深いらしい。
しかしどうだろうか。リンは。
徳永くんは考える。それはきっと、蛇名さんは誰よりも強いからだ、と。徳永くんはこのメンバーの中で一番強いが、きっとリンには敵わない。現在みんなにとって徳永くんは、幽霊委員でなく、頼れるリーダーなのだ。ここらで本領が発揮されてきたような気もする。
「ねぇ徳永くん...私はぁ、徳永くんがそうしたいなら旅に出ても良いよぉ」
「...そう」
急にイケメンに早変わりした所為か、周りの女子の態度が完全に一変していた。男子はガキだなと彼自身感じていたが、女子はもっと恐ろしい。
裏で陰口を叩き、男の前では媚びを売る。自分をより良く見せるために。てっきりリンのような人間が普通だと思っていたが、どうやら違ったようだ。結局は顔なのだろう。強さなのだろう。それさえよければ、誰だって良いのだろう。
「実は、殿下も加わる事になった。魔王を倒す旅に」
途端、女子達の目の色が早変わりする。あのイケメンが一緒なのだ。一応シューベルトも強い。これは上手く女子も説得できるかもしれない。しかし、無理して行けとは言わない。リンのように争いを好まない人間もいるし、戦う事に抵抗のある人間だっている。あくまでもそれぞれの意見を尊重するつもりだった。
「あの方も...何故?」
「蛇名さんを、捜すためらしい」
「そう...」
川上 瀬名は悔しそうな顔をする。もし王子にリンを取られたら...とでも思うと彼女には地の果てまでも逃げ続けて欲しいと感じたのだ。第一王子の癖に、魔王を倒す旅に出るなんてーー王様が何と言うか。しかし、その当の王様は「愛する人は、追いかけてこそだ」と無自覚に煽るので仕方ない。
「あの王子、何か可笑しいよな。蛇名さんに執着しすぎっつぅか...」
徳永くんの近くに座る、衛士 サイがつぶやいた。
「そういう魅力を兼ね備えてるんだよ。リンちゃんは」
「そうだよ。女の子でも見惚れちゃうほどだから。何かこう...この世のモノじゃない感じね」
「確かに。天使か女神かなんじゃないかな〜」
女子達は次々と羨望のセリフを振りまいていく。それを聞く度、玉緒を唇を強く噛みしめた。嗚呼、にくたらしくてたまらないのだ。自分の上を行く人間ーー蛇名 リンが。




