奴隷の首輪
「私は...人は殺したくない。間接的にも、ね」
『お前...面白いな。...お前等、行け』
『ハッ』
黒ナイフを倒した私は一息をつこうと思っていた。だが、そんな思いも何処かへ消えてしまった。アーレイを掴んでいる黒集団以外の人間が、私に向かって飛んで来ていた。
私はため息をつくと、青白剣を構えた。
「フッ!」
私は青白剣に最大限魔力を溜め込むと、素早く飛び交って来る黒い男達を切った。彼等は、剣を持っている者や魔法を放って来るものもいたが、アッサリと避けそして倒れた。
一発で倒せるとはーーもしかすると、魔力を最大限込めた青白剣は、最強なのかもしれない。
「え...弱い?」
『何だと...フッ、俺の部下達を殺すとは...面白い。いや、お前ではなくその剣が面白いのか?』
アーレイを持った黒男は、サッと地面に降りた。アーレイはぐったりとしている。
『お前、名前は』
「人に名前を聞く時は、まずは自分から名乗りなさいって、習わなかった?」
『...今俺には、名前はない。そうだな...Xとでも名乗っておこう』
「Xね...良いよ。私の名前はリン。リン・ヘビナ。貴方は...一体何なの。アーレイやマギ王子に何の用? あと! 自然破壊は最低のする事だ!」
私が言うと、Xは嘲笑うかのように空を見上げた。
禍々しい赤色の空、毒で覆われた森、全てが彼等の仕業に違いない。ただ、もう残るは一人。こちらはーーほぼ結界から出られないが多い。
Xはアーレイを見下ろした。
『俺等は...王子誘拐の目的で此処に来た。情報が入ったからな。言えるのはそれまでだ。この森や空は...恐らく我々の主が貢献してくれているのだろう...嬉しい限りだ』
「主...?」
『それは言えない』
Xはそう言うと、アーレイを空中へ飛ばしてそこを強力な丸い結界で張ってしまった。
「あれ、は...古代魔法!」
『その通り。第千結界だ』
第千結界は、古代魔法の結界でも最高の難易度。私でも使うのは難しいし、解くのも時間がかかる。
私はXをキッと睨んだ。本当に、彼は何者なのだろうかーー
『俺も...使い手だ。さて...お前に部下をやられてしまったからな。穴埋めをしなければならないな』
「穴埋め...? って、ッ!」
Xは、何か丸いものをこちらへ投げて来た。私はすぐに避けたが、その丸いものは私を追いかけて来る。すぐに魔法でスピードを上げて、すぐに逃げる。
だが、何時まで逃げてもその丸いものは追って来る。
「『第三攻撃 シューテ』!」
私の詠唱と同時に、炎、水、雷の弾が丸いものに向かって飛んで行った。弾は全て命中し、爆発が起こった。私は立ち止まり、様子を見た。硝煙が辺りに立ちこめた。一帯が見えなくなる。
「ふぅ...一体なんだったーーッ!」
何かが私の首は素早く飛んで来て、首に巻き付いた。まさかーー破壊出来ていなかった?!
硝煙が消え始め、私は首に巻き付くものを確認する事が出来た。
「え...『奴隷の首輪』?」
『そうだ。これで...お前は俺に絶対服従。面白い...』
えー、何で...「奴隷の首輪」というのは、主に奴隷につける首輪の事で、それをつけた者は主に絶対服従となる。
って事は...うん。
ただ、「奴隷の首輪」は外す事が出来る。それは、ーー主も含めーー誰かから一心の愛情を受ける事だ。そうなると、奴隷と主の関係はなくなる。これは、奴隷としての人権も考慮しての首輪なのだ。何て良い制度。何て良い魔法。
『さぁ、跪け。クックック...』
「アァッ...!」
急に体が激痛に襲われ、私は体が勝手に動いているのを感じた。気がつくと、私はXに跪いていた。何トイウ不覚。何トイウ屈辱。
『では...あいつ等の結界を解け』
「え...あっ」
体が勝手に動いて行く。もう力を入れなくても体がフニャフニャにならないおー怖いわー。...はぁ。
「『第一結界 かいj「何やってんだよ!」ギャフン!」
急に背中から何かに抱きつかれて、私は地面に倒れ込んだ。温かい何かが私を強く包み込んだ。
さっきの声はもしや...アーレイ? いや、でもそんなはずはーー第千結界は、かけた本人しか解けないのに...。
「アーレイ...?」
「そうだ! 何やってんだよ...ふぅ、無事で良かった」
心無しか、アーレイさんの手が胸にーーげふんげふん。
兎も角! アーレイが目覚めた...何で? 普通、誘拐するなら縄で縛るししばらく起きないように強力な睡眠薬で眠らせておくけど...。
「アーレイ...アーレイこそ怪我ない? 私、大丈夫だけど...アーレイも大丈夫?」
「っ...あ、あぁ俺も大好きだ」
「いや、どうやって大丈夫と大好きを間違えんの」
「大好きだーーー!!」
「人の話を聞けい! そして時と場所を考えて!!」
アーレイは、次々と愛の言葉を耳元で囁いて来る。Xは、攻撃してくるそぶりも見せず、聞き耳を立てていた。徐々に、私の顔は火照ってきた。すると、アーレイは言う。
「本当、お前は可愛いな...食べたいくらいだ。な?」
彼は優しく私を頭を撫でると、私の顔と顔を近づけた。
「顔赤い。...うん、良い? キスして」
「え...」
「俺、待たされるの嫌い。もう良いよね。ん」
アーレイの片手が、私の唇を無理矢理押し付けていた。だが、それは優しく柔らかいものだった。過去のトラウマは呼び起こされたが、あの時のように怖くなどはなかった。ただ、アーレイの一途な気持ちが一直線に感じられた。
私は、クロノさんが好きなはずなのにーー何故か嬉しかった。
今まで、家族にも友人にも、勿論愛にも恵まれていた。でも、私が人を愛する事はあまりなかった。正直、好きになれた人っていうのは、クロノさんが初めてだった。
”愛”という感情を手に入れられたのは、とても貴重な経験だと思う。
でも、それが二つも。一つはクロノさん。もう一つはーーアーレイ。
アーレイはとてもしつこくて、とても強引だ。始めは、あー面倒な弟みたいなのが出来たなって思っていたけど、ずっと愛を囁かれていたら、何時の間にか好きになっていた事は過言ではない。
アーレイは、私を唇から離すと、私の額に口づけをした。すると、カシャンという音と共に首輪は外れた。中々あっけなかった。
「あ...アーレイ...」
「リンは、何も言わなくて良い。俺は...演技でもなんでもなく、リンを愛してる。愛して愛してやまない。リンは...俺の事嫌いなのか?」
「う、ううん!」
私は激しく首を横に振った。私もーーアーレイが大好き。
私がそうつぶやくと、アーレイは嬉しそうに私を抱きしめた。でも、正直自分が薄情者にしか思えなかった。クロノさんが好きなのに、アーレイも好きだなんて...。
『クックック...本当にお前は面白いな。このまま、逃がしておくのも、良いかもしれない...おい、リンと言ったな!』
「え...?」
驚いて振り向くと、黒男がニヤニヤと笑っていた。
『今回は、撤収してやる。中々良いものが見られたからな』
「なっ...」
『またくる。その時は...王子二人をかっさらって行くぞ。勿論、お前もな』
そうつげると、彼は音速で飛び、仲間を連れて黒い羽を残し消えてしまった。




