馬車
「これがあたしの馬車だ!」
サリーは私を家の馬小屋に連れて行き、デデン!と自慢するかのように馬と馬車を見せたが...うん普通だね。馬は茶色くて二頭。馬車は木造のものでとても頑丈そうだった。
「ええっと...カッコイイ!」
「だろだろ? これはなぁ、あたしと息子の努力の結晶なんだよぉ」
「リンカ、無理して世辞言わなくて良いぞ?」
「はぁ...」
そういえば、この人達はもうこの国に戻らないし、国から出るまでお世話になるだろうから、ちゃんと正体明かした方が良いよね...お互いの信頼の為にも。
「さて、俺達はもう馬車に荷物を入れている。そろそろ出発しても良いが、どうする?」
「あ...大丈夫です」
「そうか。じゃあ乗っておけ」
「ほーらほら、乗れ乗れぃ!」
サリーに背中を押され、私は無理矢理馬車に押し込められた。中は意外と広々空間。大型車でイスやしきりがないぐらいの広さだった。天井は170くらいのサリーが立ってれるくらいの高さだ。
ただ、勿論イスも常備されているし、荷物もあるのでそこまでごろーんとくつろげるという空間ではなかった。
イスに座ると、私はサリーに問いた。
「あの、どうして私みたいな見ず知らずの人間にこんな事を?」
「それはな! あたしの水晶玉にそう出ていたからだ!」
「す、水晶玉?」
私が言うと、向かいに座ったサリーは豊満な胸を張り、ドヤ顔をした。
「あたしの天職は『占い師』。水晶玉で、未来や過去を見通す事や、人の運とか属性とか天職とかも見れるんだ」
「おぉ...」
そのザ・村人という格好で占い師ですか...それはまた珍しいですな...。
「ちなみに、あんたが考えている事ぐらいは分かるよ?」
「げ...」
「まぁその点に関してはな、あたしも色々考えてるんだ。水晶玉はこの通り此処にあるからな。この格好が一番最適なんだ。あたし的にはな」
サリーはHカップはあるだろう胸を指差した。な、何だと...という事はそれは...水晶玉だったのかぁ!! 吃驚、そんな所に入れてよく落ちませんねぇサリーさん...。
「うん、服が若干キツいからな? それにぃ、男が寄って来るんだ。んま、正直それ目的じゃないから良いけどな」
「そうなんですか...」
「それで、話が脱線しすぎたんだが、あたしは今日の朝水晶玉を覗いてみたんだ。するとな、『今日の夜に質問をしてくる少女に協力せよ。彼女と共に旅へ出れば、彼女と共に行動すれば、必ず世界に幸ありき』って出てたんだ」
「...」
「リンカ、あんたは世界を救う人だったんだね!」
「...その事なんですけどね...ちょっと話さなければならない事があってーー」
「おい、準備出来たぞ!」
外から声がした。馬の鳴き声がする。どうやら、馬車に馬二頭を取り付けたようだった。サットは馬車のドアを開けて中を覗いた。
「もう良い?」
「あぁ勿論良いぞ。で、さっきの続きは?」
私は、ガタンゴトン揺れる馬車の中で、キチンと細部までサリーに説明した。自分の事、クラスの事、召喚、ステータス、考えーー。サリーは黙って目を瞑って聞いていた。正直、寝てるんじゃないかなーと思ってたけど、途中で相づちとかうっていたし、この馬車の揺れの中で眠るというのは、相当な気力の持ち主なんじゃないかと思う。
「なるほどな。あんたは勇者達のリーダーとして召喚されたが、戦いたくなかったから逃げ、本当の名前はリンってわけか」
「え...まぁそうです」
あ、起きてたよこの人。
「う〜ん...そんな事をした自分をどう思う?」
「まぁ、私の事を頼ってくれた人も、求める人も、勿論助けてほしい人だっています。そんな人達を見捨てて一人旅に出るだなんて...本当に自分勝手な行為に及んでしまったな...と」
「そうなのか...うん、あたしもそれは自分勝手だと思う」
サリーを言葉に私はうなだれた。
「だけどな、今までのあんたの境遇と人生において、自分勝手に行動した事なんてほぼないんじゃないか?」
まぁ、確かに思い付く限りでは見当たらない。正直、私は自分に何かをするよりも人に何かをする方が多かったからな...。
「だから、今回ぐらいは良いんじゃないか? 旅に出て」
「まぁ、個人的な解釈になりますがね...それ」
「はっ! それが何だって言うんだよ。それにな、リンが一人旅をするって誰が言った?」
「え?」
「さっきあたしはこう言ったろう。『今日の夜に質問をしてくる少女に協力せよ。彼女と共に旅へ出れば、彼女と共に行動すれば、必ず世界に幸ありき』」
え、って事はサリーは私の仲間? サットも?
「そうだよ。リンの話だと、魔王に会いに行くみたいだな。あたし等も同行するよ。こんな子供を置いて行ったとなれば、あたし等のメンツも保たれねぇしな」
「あ、ありがとうございます! あ、ついでに言っときますけど、私子供じゃないです」
「じゃあいくつだい?」
「13です」
「まだ成人まで2年もあるだろ? もう酒は飲めるが、まだ子供だ!」
なーーこの世界では15歳が成人で13歳はお酒が飲めるの?!
だが、私は生徒会長としても一人の日本人としても飲酒は絶対にしないつもりだ。飲酒NO、煙草NOだ。
しばらくサリーと話していると、ガタンと音がして馬車が止まった。
「ん? どうしたんだいサット。まだ国境は先だと思うが?」
サリーはサットの様子を見に一旦外に出た。私は、外の音に聞き耳を立てながら静かに待った。
『姉さん、出て来るんじゃねぇ! 盗賊だ!!」
サットの叫び声が聞こえた。途端、ゲスい男の声が聞こえる。
『ぐっへっへ...馬車に乗ってたのは姉ちゃんだったのかぁ? 良いもん持ってんなぁ?』
『あたしの水晶玉かい...』
『さぁ、武器を捨てて荷物を出しな。あと、姉ちゃんもだ。そしたら男は見逃してやろう』
盗賊だった。気配だと、盗賊は10人ほどのグループだ。私はため息をついて馬車のドアを開けた。
「あのぅ...手伝います?」
「え、あ、リン。お前は引っ込んでおけ。戦えないだろう」
「あのですね...」
私戦えますよ?と言おうとしたその時、盗賊達のリーダーらしき刀を持ったモヒカン男は言った。
「ほ〜、まだ乗ってたってわけか。しかもまだ誰も手ぇつけてなさそうな一級品...」
「え゛...」
「格好からして貴族か?」
私は今現在、通常では貴重な素材を使った服を着ている。黒い(通常では見えないが)魔法陣の多く編み込まれたワンピースに、何故かシルバーのマント。まぁあの王子のくれたものだから、一応は着ている。
「貴族? そんな大層なもの、私なわけないでしょ」