赤面
「赤城さん? 一体何方でしょうか」
「いえ...何でもないです」
急に過去編入ったね。
兎も角、赤城さんは私の逃がした命の恩人で、家族を殺した憎らしい人って事だよ。今目の前に、その赤城さんに生き写しが居る。何処かで見た事のある顔だなぁとは思ってたけど...。
ガディは落ちたメガネをかけ直し、もう一度私に向き直った。正に「ドッペルゲンガー」というべきか。まぁもう異世界来ちゃったから何見ても驚かないとは思っていたけど...まさかこの世界に来てまであの人の顔を見なければならないなんてね...。
私がため息をついていると、アーレイが言った。
「おい、あんまり溜め込むな。何かあったら俺に言え。お、俺で良かったら...相手になるから」
「アーレイ...フッ、君は本当に優しいね。嬉しいよ」
「え...あ、あぁ」
そこは返事するとこじゃないよアーレイ。でも、ちょっと嬉しかったから、その分ちょっとだけ素が出ちゃったな。普段は私が親切にするよう努めてるからな...あんまり親切にされた事はないような...というか、うん、何か手伝ってもらうとかそういうのがないだけなのかもしれないけど。
「そういえば...貴方は何故一人で旅に?」
「それは...うん。色々あるんですよ。王子が怖いからって理由もありますが」
正しくは、称号に「魔王」があるからなのだけど。やっぱり、いくら学級委員でも「敵」だって分かったら絶対攻撃はしてくるだろうし、怖がられるのも嫌だからね...。
私はため息をついた。
「リン、絶対何か隠してるだろ」
「え? なんの事かな? ぜーんぜん分かんなーい!」
**
宿を出て、私達は港に来ていた。目の前には、広大且つ太陽の光りに照らされ、キラキラと輝く海と、小さな漁船があった。
太陽がジリジリと、首筋を焦がすかのように照りつける。ローブなので一応長袖なのだが、全く暑さは感じない。それどころか、少し涼しいかなと思うくらいの感覚だった。もしかすると、強化でもそれてるのかな、このローブ。
ガディとナルは今、船の点検をしているらしい。なので私は、アーレイとアテルのダブルAと一緒に待っていた。
人は少ない。他の大陸に出入国する事は、原則として禁じられているので、破ると罰則が入る。唯一許可されるのは、貿易船と漁船のみだ。人大陸が貿易を行うのは「獣大陸」のみだが、相手側は現在あまり関わりたくない傾向を示しているので、一ヶ月に一回ほど少しやり取りをするくらいの収めているそうだ。
日本の海でも漁船はよく見かけていたが、この船もそれと似たような形をしていた。前に反った形をした真っ白な船体には「スイカ1号」を刻まれ、真ん中には中の見えない操縦席のようなものがあった。船の名前の由来が気になったので、アテルに聞いてみた。
「何でスイカなんですか?」
「ん? 何か、昔異世界の者がこの港町に来た時に『スイカが食べたい』と言ったらしく、その響きが良かったためにそうなったそうです」
特に何も言うまいと決心した私は、周りを見回した。人が少ないどころか、猫一匹もいない。あの港町の活気は何処行ったと疑いたくなる。
「あぁ、この港町は港に近づく事が『禁じられている』からな。漁船関係者とか以外は結界で入れなくなってる」
「そうなんですか...」
結界...私達が此処に来た時は、そんなものは感じられなかったけど、何なのかな?
「俺等は大丈夫だ。あっちについても心配はいらねぇ。獣人の皆さんが温かく迎えてくれるさ」
「っ...良かったです!」
温かく迎えてくれるならとりあえず安心だね。アーレイは多分、耳もしっぽも隠してるから獣人だってバレる事はないだろうけど、きっと誰かしらには気づかれる事はあるだろうからな...。「古代魔法に関する遺跡」、楽しみだなぁ。
「こっちは準備完了です! どうぞ中へお入りください!!」
ガディが船の操縦室から顔を出して、手を振って来た。すると、アテルは大きな声で返事をして、私とアーレイの腕を引っ張った。
「行こうぜ二人共!」
「「は、はい! 分かったから引っ張らないでください!!」」
私は体術点でダメです。物理攻撃とか剣以外無理だし、引っ張られても抵抗出来ません。なので離してください!!
**
船の近くまで来ると、アテルはやっと手を離してくれた。船を生でーーしかもこんな近くで見るのは初めてだったので、若干興奮した。
「船酔い」というものがあるらしいけど、私は基本乗り物強いから大丈夫!
「さぁ、どうぞお姫様」
「アーレイ馬鹿にしてる?」
アーレイは先に船に乗り込むと、片足と船の淵に置き、キメ顔をして私に手を差し出す。帽子の所為か、吟遊詩人にも見えるアーレイは、後ろから太陽が照らし、輝いて見えた。
「いや、俺は馬鹿になんてしてない。手を取って」
「はいはい、ありがとう」
アーレイの手を握ると、彼は優しく船に引っ張ってくれた。波で少しの揺れを感じたが、私は気にしなかった。それより、今初めてアーレイが王子らしく見えた。そういえばこの人は王子なんだなーと私はつくづく感じる。
「ほー、ラブラブなこった。俺に出る幕はねえな」
アテルは欠伸混じりに船に乗り込んで来た。途端に船がグラッと揺れ、私は蹌踉めいた。
「おっと、大丈夫か?」
「あ...ぅん」
倒れそうになった私を、アーレイが支えてくれた。顔が赤くなる。こんなに顔が赤くなるなんて、久しぶりだった。つい上目遣いでアーレイを見てしまい、思わぬフラグも立ててしまったのは言うまでもないが。
「アテルは何時もながら重いな」
揶揄うように笑いながら、ナルが操縦室から出て来た。今思えば、この船が揺れたのはアテルが乗ったから...?
「失礼な。これでもダイエットはしてるつもりだぞ?」
「もっとちゃんとしたら? 全然変わってないじゃん。リンも、アテルはもうちょっと痩せてる方が良いと思わない?」
「え...」
思わぬ振りに私は驚いた。でも、とりあえず笑顔で答える。
「そんな事ないですよ。人にはそれぞれ個性があり、個人差があります。痩せてるとかぽっちゃりしてるとか、そういうのはあんまり気にしませんね。大切なのは自分でどう思うかであり、他の人の意見は関係ないですから。アテルさんは、自然体で良いと思いますよ?」
「ほーら! ナル、お前の負けだ!」
「...あ、そう言えば魔力満タンになったか確認してないなー」
「逃げるな!」




