クラスメイトの憂鬱 2
蛇名さんは、相変わらず生真面目だ。何時も何時も勉強して、期末テストの勉強も、確かクラスで一番してたんじゃなかったっけな。
城の図書室は、村一つ分くらいの広さがあり、異世界に存在する本がほぼ揃っている。その本を毎日毎日飽きる事なく読んでいるのだ。
今彼女が持っている知識だけでも十分有効なのだが、蛇名さんの知識欲は絶えなかった。
大きなツクエの上に高く本を積み上げ、まるで機械のように素早く読み進めては新しい本に変えている。恐るべき速読技術だった。
彼女はシューベルト王子に貰った黒いローブを着て、無表情でページを捲っていた。
正直、絶賛読書中の彼女に話しかけるのは気が引ける。今俺が図書館に入って来たのも気がついていない。が、俺は勇気を振り絞って声を出した。
「蛇名さん、ちょっと話があるんだけど...良い?」
「...ねぇ、『光陰矢の如し』って言葉知ってる?」
「へ...?」
唐突に全く違う事を返され、俺は驚いて間抜けな声を出してしまった。
「時間が経つのは矢のように早い。だから、それは有効に使わないといけないの。分かる?」
蛇名さんは本を閉じると顔を上げ、俺を見ながらコトンと首を傾けた。そしてフフっと笑うと、立ち上がって新しい本を棚から取り出した。
「君はどう時間を有効に使っているのかな、徳永くん。君は暇な時に何をしている?」
「え...俺は、時間さえあれば魔法の練習をしたり、鍛錬をしている」
「それは何故?」
「魔王を...倒すため」
「うーん、やっぱりそうかぁ」
蛇名さんは残念そうな顔をすると、イスにドスンと座り込んだ。俺は少し馬鹿にされたような気持ちになり、質問をし返した。
「じゃあ、蛇名さんは何をしているわけ?」
「私は、魔法や剣術の事についで勉強をしている。実践じゃないよ?」
「...それは、どうして?」
「家に帰るため。当たり前でしょ?」
「え...」
俺は驚いた。あの責任感が強く、誰よりも悪という存在を許さない蛇名さんが、「サイトリール」の平和より、家に帰る方を最優先にしているという事にーー。
「あれでしょ? 何で私が『勇者なのに』魔王を倒そうとしないんだって聞きたいんでしょ? 良い質問だね」
「何も言ってないけど合ってるな。良い質問、か」
「そうだね。私はさ、争い事が大嫌いなんだよねー。戦争とか喧嘩とかそういうの大っ嫌い。私は元々この世界に憧れていたんだけどさ、やっぱり帰りたい人だって居るでしょ? 君だって、魔王倒したら帰りたいでしょ?」
「まぁな」
「私は戦わない。だから帰る方法を探すの。みんなのためにね」
蛇名さんは寂しそうに言った。
「あ、一つアードバーイス。君らは日々鍛錬に励んでるみたいだけど、あれ全然意味ないよ?」
「何だって?」
「良い? 魔法ってものはそもそもの理論を分かっておかなければならないし、剣術ってのは最初に動きを学んでおくべきなの。打っ付け本番で教えてもらっても、中々上達なんてしないわ」
「...」
「私が魔法や剣術を教えてもらったのは、ほんの三日。君らは...もう少しで一ヶ月くらいかな。でもね、これは確実に言える事だけど、私の方が君等よりも遥かに強い」
本当に馬鹿にされていた。見下されている気分だった。蛇名さんがこんな事を言う人だなんて、知らなかった。
「ほら、顔に出てるよ。言いたい事はちゃんと言葉にしないと」
「蛇名さん...はさ、何時も俺等よりも上の存在で...」
「上の存在ねぇ。私はみんなと同じだよ。自分で言うのもなんだけど、私は成績が良いし、先生からの評価も高いし、それなりに強い。だけどね、私もみんなと同じ人間なんだ。何か嫌な事を言われれば傷つくし、嬉しい事があれば大声で笑うし...。
私は神じゃない。聖人でもない。そして、私達に魔王を倒す義務なんてこれっぽっちもない。私は、自分の命を大事にしたいの。勿論、みんなにも捨て身なんて事してほしくない。
でも、そんな事言ってもきかないだろうから、帰る方法を探してるの」
蛇名さんニコッと笑って、手に持っていた本を俺に投げて来た。キャッチすると、満足そうな顔になり、
「それを読んでごらん。有効的な訓練法が載ってます。ちなみに私は、もう古代魔法をなんなく使えるくらいまで上達しましたー」
「...蛇名さんは、ずっと此処に居るつもり?」
「YesでNoだね」
「どういう意味?」
「私はこの場所には残らない。でも、帰る方法が見つかってもこの世界には残る。意味分かるかな?」
「蛇名さんも旅に出るって事?」
俺は驚いた。戦う事を望まないくせに、必ず戦わなければならないルートを辿るとは。しかも、俺等を同じルート。
「うん」
「それなら、俺等と一緒にーー」
「嫌だ」
「え?」
「君等と一緒だと、色々と面倒でしょ? それにね、あの過保護な殿下が許してくれるはずない。私は近々、此処から逃げ出して『魔大陸』の魔王城を目指すわ。貴方にだけそれは言っておく」
「...何で?」
「私は君を信用してるから。この話は、他言無用ね」
蛇名さんは小さくウインクすると、再び読書に戻った。




